『漫遊帰還篇』 (お礼SS No.13)

 デルトラ王国の世継ぎ様改め、もうすぐ新王様御一行はようやっと、デル城に帰還した。勿論、大歓迎されたが、一部は顔を顰めたものだ。帰ったことに対してではなく、
「随分と、あちこちで、騒ぎを起こしたようだな」
「大したことしてないわよ。というか、お目付けでもつけてたの」
「そんな必要あるか。自分たちがどれだけ目立つか知らんのか」
 ニヤリと笑うジョーカーに、御一行様の三人は目を丸くした。もしかして、全然、お忍びにもなっていなかったとか?
「それはそうと、お前ら、トムの店で何をやったんだ」
「ト、トムの店? 何でまた」
 ギクリと肩を揺らし、横目で見遣ると、頬に傷持つ男は薄く笑った。怖いよ。
「何でも、世継ぎ様に店番を任せたばっかりに、店を潰されたとかで、乗り込んできたんだ。で、法外な賠償金を請求された。……釈明があれば、聞こうか」
「…………ありません。その通りですTT」
「バカ! あっさり認めちゃ駄目でしょ。ジョーカー。まさか、もう払っちゃったりしてないわよね」
「当たり前だ。トムの言い分を鵜呑みにできるか。しかし、手の者に調べに行かせたら、何故か馬鹿デカい犬小屋が建っていたそうだ」
 すると、ジャスミンとバルダが吹き出した。当のリーフは真赤になっている。

 トムの店では様々な魔法の品をも扱っている。それらは非常に便利なものではあるが、使いようによっては周囲に甚大な被害を齎しもする。扱いは要注意☆
 ところが、リーフはその使用方法や注意書きを「まずは全部読め」と再三バルダに注意されているにも拘らず、再四中途までしか読まず、同じことを繰り返すのだ。
 その結果、
「トムの店が吹っ飛んだ、と?」
 経緯を説明すると、常に厳めしい表情のジョーカーまでが頬を緩めた。シャーン王妃もクスクス笑っている。
「全く、貴方ったら──」
「何というか、見事にエンドンの資質を受け継いでいるな」
「そうですね」
 亡きエンドン王をよく知る二人が頷き合っているのに、三人は目を瞬かせる。
「父さん? って、そうだったの」
「あのジャードが、いや、エンドン王も、リーフみたいに最後まで説明書きを読まなかったりとか、せっかちな面があったのか?」
「えぇ、もう」
「ガキの頃もそうだった。お陰で何度、巻き添えを食ったことか」
「あら、ジョーカーも?」
「えぇ、デル城内で死ぬような目に遭わされるなんてね。というか、大人になっても変わらなかったのですか?」
「えぇ。リーフの前ではさすがに注意してましたけどね」
「し、知らなかった」
「お父さん譲りだったのね。何だか、リーフもそのまんまって気がしてきたわ」
 『蛙の子は蛙』なら、改善は期待できないかもしれない。

「まぁ、店の方はマナスに頼んで、もう建て直して貰った。賠償については現在、交渉中だ」
 何しろ、相手は抜け目のない商売人トムだ。無論、少しでも損をしないように考えてた上で、金額を提示してきているに違いない。
「トムのことはよく知っている。そちらは俺に任せておけ」
「ス、スミマセン。面倒かけて」
「そう思うなら、善処しろよ。なるべく繰り返さんようにな」
 なるべく、という辺り、あんまし期待はされていないのに、リーフは肩を落とし、他の三人を更に笑わせた。





『御世継悪戯篇』 (お礼SS No.14)

 リーフは真直ぐな少年だが、笑われっ放しでは時に悪戯心も芽生えたりする。
〈そうだ。確か、あれも持ってたはず〉
 あれ以来、使う機会もなかったが──荷物の中をガサゴソと探る。
〈あったあった〉
 小さな瓶から二粒のガムを取り出し、コソコソと母シャーンに近寄る。
「母さん。ガム、食べない」
「ガム? まぁ、何だか、懐かしいわねぇ」
 元はトーラの貴族にして、王家に嫁いだ彼女には縁遠い食べ物のようにも思える。それでも、全く口にしたことがないわけではないのだろう。
「あ、一つはジョーカーにあげてよ」
「ジョーカーに?」
 深い意味は考えなかったようだ。まぁ、二つも食べようとも思わないだろう。

「ジョーカー。口開けて」
「は? っ!? 何を──ガム?」
 振り向いたところに、いきなり口の中に何かを放り込まれては、ジョーカーも驚くだろう。つーか、あんたに、そんな真似ができる強者はシャーン様くらいなものだ。
「ん、たまに食べると新鮮ね。中々、美味しいわ」
 バルダとジャスミンは振り返り、クスクス笑っているリーフを見出し、察しをつけてしまった。ガムといえば──。
「おい、リーフ。まさか」
「何だ? また何か、よからぬことを考えて──」
 ジョーカーは途中から、己の口から飛び出た声に、思わず口を押さえた。
 そして、それはジョーカーだけではなく、
「あら、ジョーカーの声…。もしかして、私の声かしら?」
「シャーン、喋るなっ!! 頼むからっ」
 ジョーカーが珍しく焦って、取り乱している。敬語もどっかへ、スっ飛んでいる。
「面白いわねぇ。声が入れ替わるのね」
「だから、喋るなって! リーフ! トムの店で何を手に入れたっ」
 凄んでみても、声がシャーンでは何やら抜けている。
 リーフだけでなく、バルダやジャスミンまでが吹き出しそうになっている。
 しかし、
「リーフ。何を私たちに食べさせたのかしら?」
 ニッコリと微笑まれて、しかし、声はジョーカー。これは意外や、結構…、いやいや、相当に怖い。急に笑えなくなってしまった;;;

 渡された瓶のラベルは、
「チェンジ・ガムねぇ。確かに面白いけど」
「何が面白い! 戻るのにどのくらい、かかるんだ」
「個人差はあるみたいだが。そんなにはかからんはずだ」
「一日、そのままってことはないから、安心して」
「……それにしても、何のために、こんなモノがあるんだ」
 理解に苦しむといった苦りきった表情のジョーカーだが、相変わらず、声はシャーンのままだ。何というか、本人も周囲も少し慣れたらしい。
 しかし、こちら↓の方は慣れようがない。
「気分転換にピッタリ、と書いてあるわよ」
「あの…、母さん。せめて、女言葉を喋るのは止めて欲しいような」
「あら、どうして?」
「諦めろ、リーフ。自分で蒔いた種だ」
 殆ど嫌がらせのようになっている。というか、もう気にしていない辺り、相変わらず、順能力の高い男だと、バルダやジャスミンは感心する。
 リーフはといえば、一寸した悪戯のつもりが思いの他の精神的打撃に、早く元に戻ってくれ、と心から願うのだった。





『父娘対決?篇』 (お礼SS No.17)

 さておき、当初の旅の目的は一応、果たしたことも報せる。
「影の王国に通じ、影の大王の力を伝える穴か。一つだけなら、いいんだがな」
「脅かさないでよ」
「いや、ジャスミン。ジョーカーの言う通りだ。影の大王がそう簡単にこの国を諦めるとは思わない方が良い」
 バルダの言葉に、ジャスミンも考え込む。
「でも、防ぐ手立てとかはあるの」
「その辺はゼアンと相談中だ。魔力に関してはやはり、トーラがデルトラ随一だからな」
「フ〜ン。貴方が真面目に魔力のことを考えるようになるなんてね」
「嫌味か。だが、国を守るためなら、何だって、やるぞ」
「……そんな怖い顔しないでよ」
 レジスタンス時代のジョーカーは凡そ、魔力などの不可思議な、或いは不確かな力などは全く当てにしていなかった。
 だが、前にバルダが言っていた通り、本来のジョーカー──ジャードはかなり柔軟な姿勢の持ち主だった。

 少し考え、ジョーカーを見返す。
「ネリダなんかを寄越したのも国のため、リーフのためなの?」
「ネリダ? ……やはり、何かされたか」
「ちょっと! 解ってて、彼女寄越したの!?」
 旧知の娘だが、かーなり奔放なネリダには散々な目に合わされた。
「ただでさえ、人手が足りんのに、即位式の準備やらでゴタゴタしていたからな。おまけに、発足間もない衛兵隊を纏めるはずの奴はフラフラ旅立ってしまったからな」
「いや、それは……申し訳ない」
 バルダが大きな体を縮めるようにしながら、頭を掻いた。
「貴方だって、止めなかったくせに」
 「良い旅を」とか言いながら、城に帰ったくせに。
「止めたところで、聞く気もないだろうが。リーフが行くと言えば、お前たちはついていくに決まっている。無駄な労力を使う気になるか」
 返す言葉もないとはこのことか。
「それでも、さすがにそろそろ、お前たちとツナギだけはつけたいと思っていたところに、彼女が来たわけだ」
 人手不足の折、リーフの元に行きたいと言うのであれば、願ってもないことだと。
「だからって……」
「外見《ナリ》は随分、変わっていたが、中身はどうだった?」
「ジョーカー……。そこまで解ってて、人手不足だからってだけで、余計な面倒を寄越さないでよっ」
 肩を震わせる娘に、その父親は全く涼しい顔だ。
「お前が彼女と渡り合えないとは思っていない。それだけだ」
「…………」
 それって、信用しているということ?
 ジャスミンは肩から力が抜けるのに、溜息をついた。



 『デルトラ』拍手第二弾です。アニメ版第二部は本当にギャグ様子が満載だった。
 しかし、本当にアニメのネリダはあくど過ぎる。何の『罰』も受けないのはどんなモンかね。(いや、別に原作ほど厳しくなくてもいいけど)

2008.07.31.

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