『ステップファーザー・ステップ with 隠蔽捜査(前篇)』 (お礼SS No.138)

「あ、パパ、お帰りー!」
「お帰りなさーい!!」
「おう…。ただいま」
 小さく応じると、双子の子供たちはワラワラと“俺”に纏わりついた。傍目に見る者がいれば、「パパ大好きー」な子供たちの様子が微笑ましかったりするものなんだろうか。
 冗談じゃないがな!
 迷惑そうにしてやっても、子供《ガキ》なんて、勝手なもんだ。
「また、声が小さーい」
「そうだよ、パパ。ちょっと暗いよ」
「知ってる。ネクラって、いうんだよねー」
 ……最近じゃ、あんまし聞かないような気がするがな。
「でもね、煩くなくて、ダンディーで、そこがカッコいいって、最近、学校じゃ、評判なんだよ」
「パパ、良かったね」
 何が良いんだか。放っておくと、いつまでも、くっついたまま喋りっ放しだ。「いい加減、離れろ」と、双子──直《ただし》と哲《さとし》を右手と左手とで引き離した。

 「パパ」と呼ばれてはいるが、俺は断じて、この双子のパパなどではない。親戚のオジサンですらない。
 滅多にドジなんぞ踏まないのに、十年に一度のような大失態を演じたがために、知り合うことになった。
 庭先にノビていた俺を家まで、どうにかして、引きずり──それでも目覚めなかったとは余程、打ち所が悪かったか。不覚だ──気付いた俺に双子は言った。
「僕たちのパパになって──」と……。

 頼まれただけじゃない。ノビている間に指紋は採られるは、装備込みで顔写真まで撮られてしまっては下手に断れない。
 失敗《しくじ》って、庭にノビていたことからして、俺はカタギじゃない。泥棒なのだ。凶悪犯かもしれないのに脅すとは大したガキどもだ。
 尤も、それは俺が巷を賑わす“怪盗キング”だってこともバレちまったからだろう。スマートかつ華麗な盗みによって、世間の悪事をも暴き、“義賊”とも持て囃されていることを知っており、危害は加えられないと高を括っているに違いない。
 まぁ、確かにガキを痛い目に遭わせる趣味はないがな。
 それはともかく、「パパになってくれ」とは冗談も極まれる。最悪に打ち所が悪い余りに幻聴かと耳を疑った。
 勿論、双子がそんなバカなことを言い出したのにも理由はある。そもそも、泥棒に違いない男を家に引き入れることからして、尋常ではない。
 小学生の双子の兄弟以外、誰もいない家と「誰も帰ってこないよ」という言葉。
「僕たちだけだから」
「「安心していいよ」」
 いや、安心じゃないだろう。異様な状況の原因も直後に判明した。
「お父さんもお母さんもカケオチしたから」
 異様さの上書きに気付くのに数秒……結婚しているのにカケオチとはこれ如何に?

 つまり、同じ日に二人ともが夫々、別の相手とカケオチして、戻ってこなかった、と……;;;

 呆れるべきなのか、笑うべきなのか、さすがに迷った。
 実にしっかりしているが、小学生のガキ二人が取り残されたってのか? しかも、既に何日も経ち、二人だけで暮らしているという。勿論、学校にも通っていると。
 そして、先生とか、誰にも話していないらしい。公共の支援を請えば、きっと施設に送られ、最後は離れ離れにされてしまうに違いないと、何より恐れているようだった。
 しかし、大人が必要とされる機会も多い。殊に学校行事に於いては。そんな時に「父親の振りをしてくれ」というのが「パパになってくれ」の意味だった。
 初日はドジを踏んだ“仕事”のためもあり、暫く双子の家に腰を落ち着けていたが、その仕事も果たし終えれば、もう用はない──はずだった。双子と喧嘩じみた諍いもあり、家を出てしまったが──その後も気になっていたのは否定しない。
 どこかで、自分の境遇と重ねて見ていたんだろう。我ながら、甘いことだ。

 友達のために、警察の厄介になったと知らされ、結局、迎えに走ったりもした。ま、その時は会えずじまいで、口煩い熱血担任教師とかち合ってしまったりもしたが……。
 二十年後の自分に宛てた手紙を収めたタイムカプセルを埋めるというその日、学校に行った。行ってしまった……。
 大喜びで飛びついてくる双子たちの周囲には当然、先生やクラスメート、その親がいて、俺たちを見ているわけで──……。
 それが仕事に忙しく、余り姿を見せないという宗野兄弟の父親“宗野正雄”の顔見せとなった。





『ステップファーザー・ステップ with 隠蔽捜査(後篇)』 (お礼SS No.139)

 図らずも親に捨てられた双子のことは気にはなっていたが、俺としては最初の約束だったタイムカプセルのイベントに付き合うだけのつもりだった。ところが、俺の雇い主のお節介もあり、『ステップファーザー契約』なるものまで、無理矢理、結ばされてしまい、今に至る。悪徳弁護士だってのは百も承知だったが、あくどいなんてもんじゃないだろうが。
 こうなったら、『乗りかかった船』と諦めるしかないか。両親の一方だけでも戻ってくるまでは父親として、振る舞うこと、と……それで、笑い話のような親子ごっこに興じているわけだ。因みに『ステップファーザー』とは何のことかと思えば、“継父”という意味だそうだ。
「でも、パパ。ネクラだけど、ちゃんと挨拶はしてくれるよね」
「だね」
 妙に嬉しそうなのに、素っ気なく適当に相槌を打つだけだが、ふと思う。確かに、億劫でも挨拶には一応、応じている。ここに出入りするようになった当初から、そうだった。
 この双子くらいの年の頃は「ただいま」と言っても、返事などない、誰もいない家に帰るだけだった俺には、その響きも結構、新鮮なのかもしれない。

「そうだ。ね、直。あのこと」
「うん♪ ねぇねぇ、パパ。聞きたいことがあるんだけどな」
 ソファにドカッと座り、とにかくも寛いだ俺は「何だ」と親しみさの欠片もなく、応じていた。尤も、俺の無愛想さにはとっくに順応している双子たちは気にも留めない。
 顔を見合わせ、悪戯坊主そのままの笑顔で、
「「ね、パパ。パパも本当は双子だったりするの?」」
 想像を絶する唐突さも完全突破したような質問に、俺は絶句するだけだった。

「実はさ、僕たち、見つけちゃったんだ」
 またまた、お互いを見つめ、「へへっ」と笑ったかと思うと、完全に声をハモらせながら、
「「パパのそっくりさん☆」」
「…………はい?」
「テレビにね、出てたんだよ」
 何だか、気が抜けた。TVに偶然、似てる奴が映ったってことか。それで、俺が双子か? てな質問に繋がるわけか。ま、そんなこともあるだろう。
 ところが、俺が「あっそ」としか言わなかったのが双子には不満だったようだ。
「反応薄いなぁ」
「パパ、気にならないの?」
「もしかしたら、カッコいい俳優さんかもしれないよ」
 激しくどうでもいいが、適当に応じてやる。
「そういや、前に言われたことあるなぁ。何てったっけ、あの俳優……上…、上──何だったかなぁ」
「そっちは知らないけど、今日、僕たちが見たのはねー、何と! 警察署長さん☆」
 さすがに、鼓膜が緊急制動をかけたような気がした。
「…………今、何つった。誰に似てるって?」
「だーから、警察署長さん。警視庁のね、どっかの署の記者会見を偶然見たんだ。そこの署長さんがパパそっくり♪」
「僕たち、ビックリしちゃったよー」
「あんまり喋らなくて、スッゴく無愛想っぽいとこもパパそっくり」
「でもさ、その正体は世を賑わす“怪盗キング”なパパのそっくりさんが追っかける側の警察署の署長さんだなんて、面白いよね」
 当人にとってはあんまり面白くない偶然だ。
「ね、本当に実は双子なんて、オチとかないの」
「ない。俺に兄弟なぞ、おらん」
「えー、知らないだけかもしれないよ。実は生き別れの兄弟とかさー」
「だとしても、俺には関係ない」
 今更、兄弟なんて、現れても困るだけだ。ましてや、それが警察の人間なんてこと──いやいや、んなことがあるはずがない。三文小説のお涙頂戴物語じゃないんだぞ。そんな都合のいい話がそこらに転がっているわけはないんだ。

「途中からだけど、録画したんだよ。見てみるでしょ」
 俺の返事なぞ待たずに、TVを再生にする。
「…………ウソ、だろ」
 さすがに呟きが漏れた。画面の中には、確かに俺がいた。
 勿論、制服を着けているので、全く別人であるのは疑いないと判るが、それでも、この人物が俺のような格好をしたら、相応に印象も変わるかもしれない、と思えるほどではあった。
「ね、スゴイでしょー」
「やっぱし、実は双子なんじゃないの?」
 双子ネタを引っ張るのに、俺は無理に、意識を画面から逸らした。
「いつまでも、馬鹿なことを言ってるんじゃない」
 と突き放してみたが、暫くはこのネタで盛り上がるだろう。

 俺は、自分によく似た男がどこの署長かだけは確認しておいた。
 警視庁、大森署署長・竜崎伸也か。東京に出た時も、できるだけ、大森近辺には行かない方がいいようだと、心に留めた。





『ステップファーザー・ステップ 最終回直前祭☆』 (お礼SS No.145)

「「ね、パパ。動物園に連れてってよ」」
 “俺”を『パパ』と呼ぶ双子は時々、突拍子もないことを言い出す。
「動物園だ?」
「「うん。上野動物園♪」」
「なんで、わざわざ、上野……」
 東京まで出なくても、近場にも動物園くらい、あるだろうに、と気乗りしない雰囲気丸出しで、不機嫌そうに言うが、とっくに順応してくれた双子は全く動じもしない。
「だって、パパも今度の日曜、東京に行くんでしょ?」
「だからー、ついでに、僕たちも連れてってよ。上野動物園」
「パンダに会いたいよー。まだ、会ったことないんだもん」
 それで、上野か、と少しだけ納得する。久しぶりに上野にパンダの姿が戻ってきたとか、結構、騒いでいたからな……。

 ……いやいや、そうじゃないだろう!? 確かに日曜に東京には行くが、何だって、こいつらが知ってるんだ? と疑問に思ったのはほんの数瞬だ。
 別に遊びで行くわけでもなく、仕事──『悪徳弁護士』親父の依頼なのだから、親父がこいつらに教えたってわけだろう。
 『ステップファザー契約』を結ばせるだけでなく、やたらと「本当に父親らしいことをしてやれ」てな感じのことを言ったりする親父は「金金」とか口にしながら、案外、この双子を気に入っているし、案じてもいるようなのだ。
 しかし、あっさり折れて、『何でも言うことを聞く都合のいい親』などと思われては後々、面倒だ。
「俺は仕事で行くんだぞ」
「でも、午後でしょ。ちゃんと、柳瀬のおじいちゃんに聞いて、知ってるもん。だから、午前中にさ、連れてってくれればいいんだよ」
「パパがお仕事の間はどっかで、おとなしく待ってるからさ」
 どっか=ファミレスの類なのは明らかだった。
 沈黙した俺に、後一息とでも思ったか、双子は声を揃えて、
「「ねぇ、パパ。お願い☆」」
 いつもながら、感心するほどに美事なハーモニーだ。
 俺は諦め半分で嘆息し、「仕様がねぇな。めんどくせぇ」と呟くと、双子は小躍りするように手を合わせ、喜んだ。

 日曜前日の土曜日、双子は準備に余念がない。殆どピクニック気分で、リュックに色々と詰めている。
 学校の遠足行事などは準備をするところからが楽しい──そんな感覚は俺には無縁のことだった。
 だが、双子たちは俺の荷物も一緒に作って、何と、オヤツらしき菓子まで、突っ込んだりするのだ。
「楽しみだなぁ。ね、パパは昔いたパンダに会ったことはあるの?」
「……さぁ、どうだったかな」
 動物園なんぞに連れていってもらった覚えなどない。あるとしたら、それこそ、学校主催だったのだろうが、本気でよく思い出せなかった。
「でも、初めてなら、僕たちと同じだね」
「そっか! じゃ、パパもワクワクするでしょ」
 二人でいるのが強みかもしれないが、それでも、まだまだガキにすぎないのに、ある意味、理不尽な境遇になぞ、絶対に負けない。
 パンダパンダと騒ぎながら、目をキラキラと輝かせているのだ。
 正直、こいつらに教えられたような気分になることも少なくはなかった。

「……とにかく、明日は寝坊しないようにしろよ。起きられなかったら、置いていくからな」
「えー、パパ、起こしてよー」
「甘えるんじゃねぇ。パンダに会いたかったら、自力で早起きするこった」
「よし、哲。今日は早く寝よう」
「うん、直。お風呂、入れちゃおう」
 バタバタと早寝をするための支度を始める双子に、俺は独り、苦笑した。



 『黄門様』終了枠での最初のドラマ『ステップファーザー・ステップ』で、しかも、『with 隠蔽捜査』と銘打った前後篇。某署長が“俺”だということで、またまた、そっくりさん物となったわけです。『隠蔽捜査』のDVDも 到着、視聴したし、原作も予想通り♪三巻が出るし、雑誌の連載も始まったし……。
 ステップ・パパは卒業──と思いきや、またまた本物が逃げてしまったので、この世界も続きます。だから、続けようと思えば、続けられるかな。『動物園』編、書こうかな。

2012.04.13.

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