招き厄難《ねこ》


 俺は途方にくれ、疲れ果て、公園のベンチに座り込んでいた。膝の上から時折、ニャ〜と鳴き声を上がる。まだ仔猫と呼べる黒猫は冷たい機械鎧《オートメイル》の腕に抱かれても、嫌がらずに大人しくしている。
「ったく、アルの奴。どこ行っちまったんだよ」
 目下、喧嘩決行中の弟は半日探しても見付からなかった。あんなにデカくて、目立つくせに! しかも、喧嘩の種となったこの仔猫を置き去りにして……。
「あ〜ぁ、やってらんねぇ。今をときめく天才錬金術師エドワード・エルリック様が、町中走り回されて──」
「誰が今をときめく天才錬金術師だね」
 何度目かの溜息をついた時、ベンチの前に影が射し、声が降りかかる。聞き覚えのある、だが、どこか揶揄するような響きにはいつも苛つかされる。こういう状況では尚更だ。
 無視するわけにもいかず、顔を上げるに従い、黒の軍靴と青い軍服が視界を走る。そうして、認めたのは当然、知った顔だけど、やっぱ何度も拝みたくはない面だと改めて思う。
「何だ、大佐か。また、サボりかよ」
「またとは何だ。大概、失礼だな、君も」
 あんまし、つーか、全然ありがたくもないけど、俺の後見人でもある東方司令部の大佐が然も不愉快そうに眉を顰めた。っても、童顔のせいか、大した威圧感はない。
 今更、この程度で怯えを覚えるような相手じゃない。それでも、こいつが本気で怒れば、多分、俺だって、無事《ただ》では済まないんだろうけど。少しだけ、初めて会った時のことを思い出したのはアルがいないから、不安になっているのかもしれない。
「視察だ。向こうにホークアイ中尉もいる」
 公園の入口に軍用車輌が停まっていて、副官の中尉が外に出て、待っている。油断なく、周辺に注意を払っているのが判る。疲れていたのもあって、つい、本音がポロリと口をついた。
「お守り兼護衛役も大変だなー、ムグッ」
「どの口が、そーゆー生意気を言うかね」
「イヒャい、ニャにしゅるっ、はにゃしぇ!」
「で、今をときめいているらしい天才錬金術師殿が何を黄昏ているんだね。似合わんぞ」
「うるしぇぃっ」
 解放されたのに、まだ口がヒリヒリして、呂律が上手く回らない。
「朝とは変わり果てた姿になって……格好も君自身も随分とクタびれているじゃないか。おまけに猫なんか抱えて」
「悪いかよ」
「だから、似合わんと言っているんだ。アルファンスなら、ともかくな」
 そりゃ、見た目はデカい鎧《ナリ》でも、アルが仔猫を抱いて、撫でているのは様になっているのは確かだけどな。
「そういえば、ハボックに聞いたぞ。今朝、報告を済ませた後、司令部の真ん前で事故りかけたそうだな。気をつけたまえ。仮にも国家錬金術師が司令部前で事故死など、面倒だからな」
「…………へぇ〜い。大佐殿に御面倒なんぞ、おかけしませんよ」
「それから、アルフォンスを探しにいったのではなかったのか。まだ、見付からないのか」
「──大佐には関係ねーよ」
 つまらない喧嘩の経緯なんて、大佐に話したくなんかない。
「そうはいかん。私は君の、君達の後見人だからな。それに私の管轄下の、それも膝元で、何かあっては困る」
 いきなり、腕を掴まれ、車の方へと引きずられていく。驚きのあまり、一瞬、抵抗が遅れた。
「な、何すんだよ、大佐。離せよ」
「断る」
 引きずられる俺には大佐の斜め後ろからの頬の辺りしか見えない。どんな表情をしているかが分からないのは結構、怖い。
 後見人とはいえ、上官とはいえ、大佐に諂《へつら》ったりはしない。縋りもしなかった。背伸びして、対等であろうとさえしてきた。けど、こんな風に不意打ちで『力』の差を『経験』の差を見せ付けられることは、ままある。
「彼の鋼の錬金術師が、公園で凹んでいるのは見物ではあるが、外聞のいいものではないからな」
「だっ、誰が凹んでるんだよっ」
「そうとしか見えん。なぁ、中尉」
「はい、大佐。とにかく、エドワード君。乗って頂戴」
 司令部に帰る時間だから……と、中尉に言われ、無理矢理、車に押し込められてしまった。んなの、そっちの都合で、俺には関係ねーじゃん!! 慰めるように、抱えたままの黒猫がニャ〜と鳴いた。



 思い返せば、今日は朝からツイていなかった。
 昨夜、最終列車でイーストシティに到着した割には、定宿に転がり込めたのまでは良かったかもしれない。朝一で、東方司令部に出頭して、大佐に定期報告をすると、案の定、嫌味を聞かされた。まぁ、大佐が皮肉屋なのはいつものことだ。適当に聞き流したけど、それでも、本音を言えば、大層面白くない。
 っても、仮にも後見人、今後を思えば──俺とアルの未来のためにも! 腹ン中で罵しるくらいしかできない。
 不機嫌さを抑えて、大佐の執務室を後にして、アルが待っているところに戻ると──アルは仔猫と遊んでいた。俺の顔を見るなり、慌てて、大きな鎧の体の陰に隠したけど、遅いっての。
 それだけなら、司令部の敷地内に紛れ込んできた猫と戯れているのかとも思えるけど、その猫には見覚えがあった。司令部に来る途中で、見かけた奴だ。野良のくせに、ツヤツヤとした綺麗な黒い毛並で、俺でさえ、一瞬だけ足を止めた。いや、案外にどこかの飼い猫なのかもしれない。
 だから、俺はすぐに通り過ぎてしまった。ところが、後から付いてきていたアルの奴はいつの間にか、そいつを拾って、またぞろ空洞の鎧の中に潜ませ、連れてきてしまったらしい。
 俺が気付かなかったのは多分、司令部が近かったからだ。嫌味を言われる覚悟くらいはしておかないと──いやいや、んなコトは関係ないっ。
 とにかく、アルは趣味か!? と突っ込みたくなるくらい、猫やらを拾っては鎧の中に入れてやる。可哀想、だという気持ちは理解《わか》らないでもない。理解るけど、行動には責任が伴うことも知っている。
 猫は生き物だ。拾えば、面倒を見てやらなければならない。でも、家もない、帰る処もない俺達がまともな世話をしてやれるはずがない。その理屈はアルも解っている。それでも、同じことを繰り返す。
 そして、同じようなやり取りをした挙句、時々、爆発する。……要するに、喧嘩だ。愚にもつかない兄弟喧嘩。黒猫を抱えたまま、「兄さんの馬鹿ッ、分からず屋! ヒトデナシ! ニンピニン〜!!」と叫んで、逃走した。

ひ・と・で・な・し? に・ん・ぴ・に・ん??

 人でなしに人非人!? そこまで言うか、おい。さすがに俺は暫く、呆然と立ち尽くし──気が付いたら、アルの姿は影も形もなかったという次第。
 慌てて、追いかけようと、外に飛び出したら、危うく軍部の車輌に跳ねられかけた。自分でも毛が生えているんじゃないかと疑う心臓がバクバクと跳ね回った。
 こちらも仰天したらしい運転手が車から飛び降りてきたが、見覚えのあるどころではない、嫌味な後見人の直属の部下だったりする。
「大将。軍の狗の人生に絶望して、別の世に旅立ちたくなったのか?」
「……人を跳ねそうになっといて、言うセリフがソレ?」
 気のいい青年でも、やっぱり、あの嫌味な大佐の直属だと、ハボック少尉の緊張感の欠片もない顔を見て、俺は脱力した。少尉は苦笑しながらも、手を差し出してくれた。無様に腰を抜かし……違うっ、驚いて、バランス崩して、ちょっと倒れちまっただけだっ!
 とにかく、少尉の手を借りて、立ち上がり、わざとらしく服に付いた埃を払ってみせた。
「しかし、何をそんなに急いでたんだ」
「あ、あぁ、アルの奴を探しに」
「アルフォンスか? さっき見たぞ」
「どこで!?」
「いや、あっちで。血相変えたみたいに突っ走っていくのと、擦れ違って──おい、大将?」
 少尉が何か言ったようだけど、構わず、指差した方へとダッシュした。

 ……車で擦れ違ったという『さっき』がいつ頃で『あっち』がどの辺だったのかくらいは聞いとくべきだった。やっぱ影も形もない。一度、宿にも戻ったけど、帰った形跡はないし、宿の主人も知らないと言っていた。
 それで、イーストシティの街を駆け回り──おまけにやたらとトラブルに見舞われることになった。そりゃ、普段から割りと巻き込まれやすいっつーか、そーゆー体質だけど……。アルがいたら、単にすぐに首を突っ込むだけだって、言われるだろうけどな。


「しかし、歩くトラブルが何事に首を突っ込んだら、そんなズタボロになるんだ」
 あんたが言うなよ。でもまぁ、俺ら(一緒にしないでくれ、とアルは言いそうだけど)が各地で起こした?騒ぎは回り回って、大佐の耳にも届いているらしい。報告をサボっても、しっかり把握してて、嫌味を言うんだから、堪らない。
 何しろ、公園で会った時は陽気のおかげで生渇きくらいにはなってたけど、ずぶ濡れにまでなったほどだ。コートも服も汚れて、一部は裂けてしまったり──もう最悪。
「まず、ハボック少尉に跳ねられかけただろう。あれを皮切りに車絡みが他に三件、人間相手が四件、動物が二件、無生物が四件……」
「何だ、その無生物ってのは?」
「看板や植木蜂が上から落ちてきたり、梯子が倒れてきたり」
「お前ね、他に車って……よく生きてるのな」
 少尉達が奇妙な方向で感心しているけど、ここでそれなりに親しくなった連中に囲まれ、椅子に座って、落ち着いたのか、急に疲れを覚えた。……ところが、
「ホント、自分の悪運の強さに感心──ドワッ」
「大将っ!?」
 突然、体がガクンと後ろ向きに倒れる。皆からすれば、俺が急に机の向こうに消えたように見えただろうなぁ。痛くはあったけど、もう諦めた。離れたところで、中尉が用意したミルクを舐めていた黒猫が寄ってきて、ニャ〜と一声。慰められてるのか、俺? 余計に疲れるだろうが。
「ありゃ、椅子の足が折れてるぞ」
「機械鎧《オートメイル》の重みのせいかねぇ」
「幾ら、重いったって、豆タンクがぶら下げてられる程度だろう。それくらいで、いきなり折れるかよ」
 誰が豆タンクやっ! でも、いつものように抗議しつつ、制裁を加える(何だかんだで、この連中がまともに食らうこともないけど)余力もなかった。
 黙って、中尉だけが立ち上がるのに手を貸してくれた。
「とにかく、今日の大将は厄日ってこったな。後半日、気をつけた方がいいぞぉ」
「お、脅かすなよ、少尉」
「でも、今日は13日の金曜日でもありますしね」
「……何それ? 何か関係があるのか」
 珍しくフュリー曹長までが乗ってくるので、余計に俺は不安をかき立てられる。
「何でも、とある古い宗教の聖人が処刑されたのが13日の金曜日で、不吉とされているとか」
「や、やめてくれよ。んなの、俺には関係ないっての!」
「まだあるぞ。おまけに今日は仏滅の上、三隣亡だ」
 ここで、意地の悪そーぉな顔で口を挟んだのは大佐だ。
「…………何、それ」
「ファルマン、知ってっか?」
「仏滅は、確か東の宗教の聖人が亡くなった日だったと記憶していますが」
 生き字引とまでいわれるファルマン准尉が幾分、自信なさそうに答える。てか、ソレもどこぞの聖人の命日かよっ★
「サンリンボウ、とは……初めて聞きます」
「東の暦での凶日だよ。三隣亡はこの日、建築をすると、近隣三軒をも亡ぼす火災を起こすという忌み日だ」
「………………」
 さすがは『焔の錬金術師』──炎絡みで、どーでもいいようなことを知ってやがる、と感心すりゃいいのか?
「仏滅は釈迦入滅の日だが、やはり暦注では何事にも強運を齎す最悪の日だ。残念だな、鋼の」
「あぁ、そう……ってか、それが俺と何の関係があるってんだよっ!!」
 大体、俺が家を建てるわけもねーし、昔どこの聖人が何人死のうと、祟られる謂れはないぞ。
「そういう不信心すぎる態度に、神の怒りを買ったのではないかね」
「その科白、そっくりそのまま、お返し致しますよ、マスタング大佐殿」
 錬金術師は科学者で、信仰心薄い者は珍しくない。大佐だって、その最たるモンだろうが。
 ニッコリ笑いながらも、睨み合う俺達に、中尉が溜息をついた。それが頃合だと、互いに瞬時に判断する。あぁ、確かにここじゃ、最強は中尉かもなぁ。
「それで、アルフォンス君とはどうして、喧嘩したの」
「あー、それはこいつのせい」
 腹が膨れたからか、人の気も知らずに膝の上で寝ちまった黒猫には、疲れしか覚えない。とりあえず、朝からアルが飛び出していくまでの経緯を簡単に説明する。
「……なぁ、大将。今日の運勢が最悪ってのはさ。朝っぱらから、黒猫を見たのがマズかったからじゃねーの」
「もしかして、エドワード君。梯子の下を潜ったりしなかった」
「靴はちゃんと、左から履いたか?」
「ブレダ。それはお前の験担ぎってだけだろうが」
 ……どこまで、本気なんだ、この連中。本当に大佐直属の精鋭なのかよ??
「とにかく、エドワード君。今日は宿で静かにしていた方がいいんじゃないかしら」
「でも、アルの奴が──」
「すぐに戻ってくるわよ。アルフォンス君もきっと後悔してるでしょうからね」
 喧嘩して──後悔して──照れ臭くなって──それでも、俺たちは一緒にいるしかない。二人きりの兄弟……。
「う…ん。今頃、アルも宿に戻ってるかもしれないしな」
「待て、鋼の。下手に歩くと、凶運を回りに振り撒きかねん。宿には人をやるから、ここで大人しくしていたまえ」
 立ち上がりかけた俺は、いきなりの大佐の『命令』に驚き、同時に反発する。如何にも馬鹿にしたように鼻を鳴らしてやる。
「あんだよ、大佐。んな迷信《モン》を本気で信じてんのかよ」
「信じはせんが、現実に君の周囲で騒ぎが起こっている。鋼の錬金術師が破壊活動をしまくっているという苦情は全て、司令部に回ってくるんだぞ。今日もな」
「破壊活動って、何だよ!」
「君が関わると、そういう規模になるということだ。覚えておきたまえ」
 それで、ついでもあって、視察中に俺を見つけて、引っ立ててきたというのにはグウの音も出ない。『鋼の錬金術師』の名もかなり売れてきて、アルと連れ立っていると、デカい鎧からの二つ名と誤解されることもしばしば。
 でも、このイーストシティに限れば、間違われることはない。二人で『鋼の兄弟』などという呼ばれ方までされている。

 ともかく、ここは言われた通りにする他なさそうだった。結果的に騒ぎを起こして、逃げちまったようなもんだからなぁ。公園で「面倒はかけない」と胸を張って、言っちまったのも今となっては恥ずかしい。あの時点で、疾うに面倒をかけていたってことは──そのまま、借りができちまったに等しい。
 大佐の命で、ハボック少尉が宿に向かってくれることに。確かに任務かもしれないけど、俺とアルの兄弟喧嘩のとばっちりと考えると、バカバカしいだろうなぁ。少尉はそんな顔はこれっぽっちも見せないけど、本心では迷惑なガキとか思ってんのかなぁ。
 頼れるのは自分と弟だけ──軍の連中なんぞと馴れ合うつもりはないし、利用してやるくらいに思っていたはずなのに、殆ど帰ることのない故郷の代わりのように、居心地のいい場所にもなっている。……大佐の膝元ってのが癪だけど。その上官だけは思いっきし、ヤな奴だけどなっ!!



 ところが、少尉が出かけて、五分もしない内に戻ってきた。それもアルを連れて!?
「宿に向かう途中で会ってな」
 一緒に司令部に戻ろうと説得すると、あっさり承諾したという。
 鎧の弟は大人しく入ってきたけど、目を合わせづらい。
「ったく、どこをほっつき歩いてたんだ。街中を探し回ったんだぞ」
「そうらしいね。で、街のあちこちを破壊して回ったわけ?」
「んな゛っ、何のことだよ」
「あちこちで、お前の兄貴が壊したモンを直していけって、呼び止められたからね」
 う゛ぞっ。さすがに言葉に詰まる。思っていた以上に、俺ら兄弟のことは知られているらしい。
「な〜る。それで、すれ違い」
「というよりは、大将の破壊の後をアルが辿っていたと」
「それじゃ、会えませんよねぇ」
 そこそこ、セリフ割って、納得すんじゃねぇ★
「わっ、悪かったな。心配で、居ても立ってもいられなかったんだよ」
 早口で謝る。とても謝っているようには聞こえないかもしれないけど……。アルがクスッと笑ったようなのは、俺の不器用な謝罪を受け容れたってことだろうな。
「兄さん、酷い格好だね」
「お、おぅ。少尉達が言うには、今日は俺の厄日だとよ」
「優しくしてくれないからだったりして」
「へっ、黒猫の呪いか? 大体、お前こそ、こいつを放しちまったんじゃないのかよ」
 膝の上で眠っている黒毛の仔猫は撫でてやると、コロコロと喉を鳴らした。
「え? 猫なら、ちゃんと──この中に入れてるけど」
 知った面々しかいないためか、何の躊躇いもなく、鎧の兜を外すと、空洞の体から二ャーと一声。しっかし、よくよく考えてみると、薄暗い腹の中に一匹だけで入れられてるってのも、猫にはありがた迷惑じゃね?
「あれ? じゃじゃあ、こいつはっ!?」
「別の猫だったと。まぁ、エドに区別がつくわけもなしか」
「そんなぁ、こいつ抱えて、走り回ってたのって……あの苦労は何?」
「破壊活動をしていただけで、大した苦労なんぞしとらんだろうが」
 五月蝿いわいっ! あぁ、もうマジに疲れた。
「でも、有り難う。兄さん」
「あん?」
「その仔のことも心配で、拾ってくれたんでしょう」
「バッ、馬鹿言うな。だからって、飼えねぇからな」
 顔が赤くなっているのは自覚していた。俺も結局は甘いのかなぁ。
「アルフォンス、その猫を出したまえ」
「え? あ、はい」
 いきなりの大佐の言葉にアルは兜を戻し、腹を開けて、黒猫を取り出した。並べてみると、確かに微妙に違う。大きさも俺の膝の上で眠っている方が僅かに大きい。
「黒猫が二匹、か。司令部で引き取り手がいないかどうか、張り紙でも出してみよう」
「ほ、本当かよ、大佐」
「有り難うございます、大佐!」
 思わぬ申し出に、初めて?大佐に感謝したくなった。アルも大喜びで、頭を下げている。
「何、この程度は貸しにはしないので、安心したまえ」
 ……本心か? マジに信じていいのか?? そーやって、笑うなよっ。クソ大佐がっ!!


 引き取り手が見付かるまでは司令部の一角で、誰彼が面倒を見てくれていたらしい。仮に見付からなくても、司令部を根城にして、立派に野良化するだろう、なんて、ハボック少尉が言ってたっけ。
 俺達はその翌日にはイーストシティを離れた。
 次に東方司令部に顔を出した時には貰われていった猫達の姿を見ることはなかったけど……。

 そして、後日。

「鋼の! いい加減にしたまえっ」
「んだよ、この程度は貸しにはしないって言ったろう」
「ものに限度がある。司令部は猫の飼主斡旋が本業ではないのだぞ」
「ケチ。張り紙しといて、引き取り手が出るまで、ちょっと面倒見るくらい、いいじゃないか」
「ちょっと面倒? 君が見るわけでもあるまい」
「大佐、エドワード君。こんなところで、錬金術を使わないで下さい」
 錬成反応の嵐に、銃弾の嵐。そして、阿鼻叫喚の嵐。
 ある意味では平和な平和な、司令部の一日……かな?

おわし^^


 オフお友達サイト『私立山崎学園!』さま四周年記念に捧げ物とした作品です。『厄難を連れてきた猫』改題で、意味不明なタイトル^^ TERU君の希望は『エドとアルのギャグ』だったんだけど、輝にはギャグは無理と判明しただけだった^^;;;
 蓋を開ければ、辛うじて『エドと軍部のほのぼの?』つー代物だったと。
 コミック的描写?を意識して、くどくどとした地の分の説明を控えました。作品を知ってる人向きになっちゃうけどね★
 そして、唐突ですが『猫祭』と題しての第一作。今年の干支は『酉』なので? 干支に入ってない猫をお題にして、各作品で書いてみよーかなぁ…。などと思いついてしまった次第。

2005.01.04.

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