闇と光 「まさか――」 目の前の光景が信じられない。
一億年を越える我が宿敵――だが、同じデーボスの生まれである弟が、キョウリュウジャーに変身するなど!?
「そうだ、カオス! 私が閃光の勇者だっ!!」
高らかな宣言に、呻き声も震えていたとは――信じたくもない。
我らはデーボス様により、“星の病”たる星の破壊者として生み出された。 それも最初に我ら二体だけが――故に我らは互いなくしては存在し得ないほどに特別なのだという自負もあった。 “百面神官”たる我と唯一、並び立てる“魔剣神官”は鋭き猛き剣を振るい、絶大なる力を持つ、頼もしい弟でもあった。
星々を渡り歩き、デーボス様より与えられた使命を確実に果たしていった。 共に、永き刻を――それはこれから先も永劫に不変であると確信していた。 疑う要素など微塵もない。同様に、我らが使命に疑問を覚えることも全くなかった。
……だというのに、よもや、最も信頼すべき弟が――デーボス様を、この兄を裏切るとは!?
そこは今までで最も生命《いのち》とやらに溢れた緑の星だった。遠き未来には「地球」と呼ばれることになるが、この頃は星は星…、我らによる滅びを持つ、単なる星に過ぎなかった。
別行動をしたのが不味かったのだろうか。一足先に、その星に降り立った弟は、何故か、その“生命の楽園”とやらに魅せられてしまったのだ。 とても、信じられなかった。一緒《とも》に生み出され、在るべきはずだった弟が何故、刃向かうのか!? しかし、弟は――これまで、我らのために振るっていた剣を、よりにもよって、この兄に向けてきたのだ。 そればかりか、星で最も繁栄している生命体に、我らと戦えるだけの力まで与えた。 ここに至り、弟は本気なのだと嫌でも理解した。デーボス様と、我らと本気で矛を交えるつもりなのだと!!
それでも、デーボス様よりの使命は必ず果たさねばならない。そも、そのためにこそ、生み出された我らなのだ。何故、弟はそんな簡単なことも判らなくなってしまったのかと。 いや、弟がいようといまいと、必ず使命は果たす!! そして、デーボス様の御意志に逆らうなぞ、全く無駄なのだと思い知らせ、己の無力さを痛感させてやるのだ。 そうして、叩きのめされれば、頭《こうべ》を垂れ、赦しを乞うだろう。 再び、デーボス様に忠誠を尽くし、我が右腕となってくれるのならば、一度だけなら、共にデーボス様に赦しを乞おう。 そして、死の星と化した星を飛び出し、星の破壊者として、宇宙を巡るのだ。
そう…、信じていた。一度はデーボス様の心が封印され、如何様に戦いが長引こうと、あれもデーボスの生まれであることは間違いがない。 一億年以上が過ぎた今、あれほど強かった弟は弱り果て、かつての如き目も瞠るほどの鮮烈な剣すら振るえなくなっていた。 “喜びの戦騎”と“楽しみの密偵”の奏でる“魔の歌”に揺さぶられ、操ることすら可能だったのだ。 もう一息だ。もう一息で、弟をこの手に取り戻せる――その確信は、だが、再び覆された。 自分の命を削るようにして、生み出した獣電竜が合体した獣電巨人と戦わされながら、弟は凄まじき精神力で抗った。 真実、命まで投げ出すほどの覚悟に、どうにもならない絶望感すら覚えた。
そして、弟は死んだ。その存在は消えた。 もう二度と、我が前に立ち塞がることはない――その喪失感は計り知れぬものではあったが、無論、表に出したりはしなかった。 何より、同時に安堵も覚えたことは否定できない。最早、弟と争うこともないのだと……。 そう、我に並び立つ存在はもうない。我らを脅かすこともない。死んだはずだった。
だが…、蘇った!? スピリットや“ブレイブ”とやらがそれほどに、無視できぬ力であったとは――正に予想外だった。 そして、幾度となく、諦めることもなく、星の側に立ち続けるのだ。
そこまでする、弟は無論のこと、ニンゲンたちも理解ができない。何故、敵であるはずの、デーボスの生まれである“あれ”を受け入れられるのだ。 内から崩れることを期待しないでもなかったが、むしろ、より結束が強まり、我らに対抗するようになったかに見えたのだ。
何もかもが裏目に出ている気がしてならない。“ブレイブ”に対抗すべく生み出した“怨みの戦騎”は奴らを苦しめはしたが、撃退され、どうやら、“怒りの戦騎”に取り込まれたようだ。 “怒りの戦騎”は鎧だ。憑代が強ければ強いほど、強大な力を発揮する。かつては“強き竜の者”の一人“雷鳴の勇者”を取り込んでいたが、奴らの“ブレイブ”とやらに奪い返された。 以来、新たに力を振える憑代を探していたのは知っている。確かに弱ったとはいえ、“怨み戦騎”は申し分ないだろう。 “怨み戦騎”を失うのは痛いことではあっても、一度、取り込んだ憑代を手放させることは不可能に近い。今や、“怒りの戦騎”に勝る戦闘力を持つ“戦騎”もいない。力尽くなど、叶うはずもないのだから。
ならば、創造《つく》るまでだ。幸い、デーボス様は今、この“百面神官”に宿っている。再度、御力を得て、新たな“戦騎”を生み出す!! いや…、と思い直す。奴らは明らかに力を増している。となれば、既に“戦騎”ですらが心許ないではないか。第一、幹部たる“戦騎”たちとて、所詮は手駒に過ぎぬ。 そうして、持てる限りの力を注ぎ込み、生み出したのは――“魔剣神官”たる“弟”だった。
デーボス様により生まれし頃の姿を映した“魔剣神官”は遙か遠き昔、ともに在った頃の弟同様、従順だった。 我がために、力を尽くしてくれる頼もしき片割れ――“相棒”だ。“戦騎”たちとて、我らよりも後に生まれた存在に過ぎない。やはり、我と並び立てるのはこの“弟”しかいないのだ。 復活した“弟”はあの頃のままに、凄まじき剣撃をもって、奴らを圧倒した。奴らの“ブレイブ”で蘇った弟の成れの果ても、滅してくれよう。 そう…、目障りな、かつての片割れなぞ、一刻も早く消し去ってほしかった。 この星諸共、“あれ”も、奴らも、悉くをこの宇宙から、抹殺するのも時間の問題――そのはずだった。
――ブレイブ・インッ ――キョウリュウ・チェンジッ! ――ファイヤーッッ!!
目も眩む光が、かつての片割れを包む。 光は散り散りに乱舞し、“あれ”に収斂する。 そして……、
――閃光の勇者! ――キョウリュウシルバー!!
光が収まった場には白銀の剣士が立っていたのだ!?
デーボスであるが故に、たとえ、獣電竜たちの長の“相棒”であろうとも、真の“強き竜の者”に選ばれるはずはなかったのではないのか!? それとも、これも“ブレイブ”とやらが起こした奇蹟なのか。 信じられない。信じ難い。いや、信じてなるものかっ!!
だが、“閃光の勇者”は古き遠き記憶も遙かに越えるほどの力を見せつけた。 最盛期どころではない。強大な獣電竜のスピリットの力も享けた“閃光の勇者”の剣は光の残滓を煌めかせ、鋭く烈しく…、何より、息を呑むほどに美しかった。 “弟”を両断した瞬間すら、目が離せずにいたのだ……。
絶望は深かった。渾身の思いで創造した“弟”も所詮は紛い物でしかなかったと思い知らされた。 結局、遙かな過去、ともにデーボス様によって生み出された我が片割れは過去も現在も、そして、未来でも、“あれ”しか、いないのだと。 しかし、何にも増して、我に衝撃を与えたのは――その、かつての片割れの、眩き姿だった。 いつかは必ず、我が元に戻ってくるものと、心の片隅では信じていた。 どう足掻き、正義とやらに生きようと、“あれ”がデーボスであることは未来永劫、変わらない。どれほどの時間を要しても、必ずや、戻ってくると――信じていたのだ。
その全てが、あの眩き刹那、あの閃光の一瞬に微塵に打ち砕かれてしまった。 暗黒種たる我らが抱えるはずの闇とは正に対極の光……。 “あれ”とても、闇に身を委ねるべきデーボスの生まれたるは変わらぬというのに、何故、その闇を払拭するほどの光を、その身に宿すことが叶うのだ…!?
最早、我の片割れが、我が元に戻ることはない。 ともに、宇宙へと旅立つこともない。
何れかが滅するまで、死力を尽くして、戦うしかないのだと――……。
「暫く、君に…、軍の全権を、預ける」 “怒りの戦騎”は心底、驚いたようだが、無論、引き受けてくれよう。 他の“戦騎”たちが騒いでる声を背に、その場を離れる。 デーボス様を、この身に宿していることは、かなりの負担にもなっていた。加えて、“魔剣神官”を創造り、しかも、失ったこと。何より、完全に弟が敵となったことに、心身が想像以上の痛手を負っていた。
それでも、我が存在しているのはデーボス様のため。 片割れがなくとも、必ず…、必ず使命は果たす。 そして、取り戻せないのならば、完全に滅してやるのみ。 それが兄としての、せめてもの情けというものだ。 そのためには、今は力を回復せねばならないのだ。
《了》
36話で、「従順な頃の弟」とやらを創ってはみたものの、それが本当の弟に案外、あっさりと倒されてしまい、37話ではショックで?フラフラしていたカオス様に、こんなん話が湧きました。しかも、ショックが思いの外、大きくて、寝込んでいるのか、38話では影も形もなかったと★
にしても、メデタくも“閃光の勇者”になった賢神までが、ある意味、弾けつつあるような? カンペなしの『らぶタッチ』のスラスラ解説には吹きました♪ まぁ、鉄砕は鉄砕で、ラグビーの基礎知識もちゃんとあるのに、笑った。でも、子孫って、鉄砕…、子供がいたんか? それとも、単に一族の子孫ってことかねぇ。 っても、一番、驚いたのは唐突な金桃単独カミツキ合体。予告にチラチラ出てたから、どんな流れがあると楽しみにしてたのに、本トに唐突で、しかも、あっちゅー間に決着つけちまったな、と。
2014.05.30. (Pixiv投稿:2013.11.30.)
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