タンデム


 今日も今日とて、戦いは続く。
 ゾーリ魔のくせに、やたらとキラッキラしていて、上位種のはずのカンブリ魔にまで、命令口調というエラっそうな奴だったが、最後はキョウリュウジャー全員が力を合わせることで、撃退した。

 獣電戦隊と共にスピリットベースまで、やってきた…、というか、引きずられてきたキョウリュウグレー・鉄砕はふと頬を緩めた。
「しかし、ああいうものを見せられると、我が身がないことが惜しいな。俺もスピリットでなければ、お前たちやブンパッキーとともに、戦えるものをと、つい考えてしまう」
 そして、「是非もないな」などと苦笑し、誰かがフォローする前に、トリンに話しかけ、離れていった。

 他の仲間たちの間には微妙な空気が流れる。こればかりは致し方ないことだ。で、切り替えも早かった。
「それはそうと、プテライデンオーとドリケラのカミツキ合体って、初めてだったんじゃないか?」
 イアンが思い出したように話を振ると、皆が皆、首を傾げる。
「えーと、そうだったっけ?」
「そうだよ。少なくとも、テレビ的には」
「こら、イアン。そういう大人の事情は口にしちゃ、ダメ」
「悪い悪い。でもさ、何か、唐突だったじゃないか。カミツキ合体は新たな絆によって、なされるってことじゃなかったか」
「それはそうだけど、ウッチーと私なら、もう今更って感じじゃない」
「うわ、アミィ。その言い方、かなり思い切った大胆発言なんですけど」
「いやいや、ノッさん殿。アミィ殿のお言葉の通りでござる。アミィ殿は拙者にとっては正に恩人。今も感謝を忘れておりませぬし、信じております故」
 至極、真面目な金色の武士の言い様が苦笑を誘う。
「まぁ、そうだよな! 今となっちゃ、どんなカミツキ合体も、ドンと来いだぜ」
「テレビでやってないだけで、もう一通り、体験済みでも全然、おかしくないとかな」
「だーから、それはNGだっては★」
 どこからともなく、ハリセンが出現し、イアンの頭にヒットした☆


「でも、アミィさんには先を越されたな。ザクトルはまだ、単独ではプテライデンオーとは合体してないから……。あんなに一緒に稽古もしてるのにさ。先週^^なんて、考えてみたら、スゴいチャンスだったはずなのに」
「ソウジ君はまだいいじゃないの。ウェスタンの経験はあるんだから。僕のステゴッチなんて、プテライデンオーにカミツいたことすら、ないんだから。中里の時とか、タイミング良さげな時もあったのにね」
 妙な不幸合戦になっているが、とあることに思い至ったらしい二人は顔を見合わせ、揃って、大きく溜息をついた。
「何か、腹立つよね」
「うん、悔しいね」
「アミィさんはともかく」
「「イアンのパラサガンだって、単独でカミツいてんのに!!」」
「って、俺かよっ」
 いきなり、引き合いに出されたイアンは顔を引き攣らせた。案外に、二人の目が本気で、睨んでいるように見えたからだ。
「俺のせいじゃないだろうが……。文句なら、監督とか脚本家とかに言えよー」
「「NGッッ!!」」
 今度のツッコミは強烈だった。

 余りの惨状に、一方の当事者であるはずの空蝉丸が被害者を介抱しながら、窘《たしな》めようとするが、
「ちょ…、お二方、やりすぎでござるよ。プテライデンオーと合体していようと、いまいと、よろしいでは――」
「「よろしくないっ」」
 戦国生まれで、誰よりも過酷な戦いも潜り抜けてきた伝説の豪剣士も、タジタジに撤退を余儀なくされる。
「こうなったら、どちらが合体できずに残る羽目になるかが勝負だね」
「恨みっこナシだからね」
 フェアスポーツの精神の元、誓い合うかのように、二人はグッと右手を握り合った。
「…………キング殿ォ〜★ 何やら、責任重大のような気がしてきたでござるよ」
 イアンを引きずって、ダイゴの傍らに逃げてきた空蝉丸が泣き言を口にするのに、ダイゴは笑った。戦闘中ですら、こんなに怯えた表情は見せないだろうに。
「気にすんなよ、ウッチー。それに、二人は程々にしてくれよ。俺のガブティラや弥生のプレズオンなんか、合体のしようがないんだぜ。ブラギガスもだろうけど」
 その“相棒”は向こうで、鉄砕と何やら、話し込んでいる。
「でもさ、キングだって、ブンパッキーやアンキドンでなら、プテライデンオーと戦えるじゃない」
「俺はそうでも、ガブティラはやっぱし、残念がってるぜ。ま、ライデンキョウリュウジンになれば、皆、一緒なんだから、それでイイじゃねぇか。だよな、ミニティラ」
 実は最初から、ダイゴに引っ付いていたミニティラはガウガウと答える。どうやら、肯定らしい。
 ミニティラの方がよっぽど、大らかな態度なのに、ノブハルとソウジは幾分、バツが悪そうに顔を見合わせたが、
「っても、諦めないからね」
「僕だって」
 戦いはまだ、始まったばかりのようだ。



 離れたところで、トリンと話し込んでいた鉄砕はククッと笑いを漏らした。
「……カワイイ戦いだな」
「君のことだから、真面目にやれと、怒るかと思ったが」
「今になって、そんなことを言ってもな。しかし、トリン。実はお前も、本当は残念に思っているのか? プテイデンオーとはブラギガスも単独ではカミツキ合体はできないからな」
「今更だ。そうではないか?」
 ブランク有りとはいえ、空蝉丸とは戦国時代以来の戦友だ。長く信頼を築いてきたのだから、それは些細なことでしかない。大体、創造者であった賢神自身が漸く、“強き竜の者”として、その力を纏えるようになったのだ。億を超える遥かな道程を思えば、それこそ、カワイイ戦いと表現もしたくなる。
「しかしな、トリン。ブンバッキーはプテライデンオーと合体し、戦ったことがあるが、中々、昂揚感に溢れていたぞ」
「──解るものなのか?」
 プテライデンオー・ブンバッキーでは鉄砕から預けられたダイゴが空蝉丸と共に戦ったわけだが、
「当たり前だ。俺はスピリットに過ぎないとはいえ、ブンバッキーは我が相棒。いつでも、一緒《とも》に在る」
 常に冷静な鉄砕が珍しくも少しばかり、気を昂らせているようにも見えた。
「そう言われると、些か、羨ましいという気にもなるものだな」
 そも、変身もできなかった頃はそれが当たり前であり、“強き竜の者”たちの絆を羨むまでもなかった。しかし、奇蹟の元、自身にも“勇者”たる資格が与えられると、更なる絆の深まりも願うようになるのだから、不思議なものだ。

「それで、トリン。次はどれだ」
「もう読んだのか。早いな」
「頁《ページ》数は多いが、一頁当たりの文字数は大したことはない。直ぐに読めてしまうぞ」
「しかし、漫画というものは画と併せて読むものだ。微妙な表情や仕草を読み取り、科白の奥深さを楽しむのだぞ」
「…………読み込みすぎだろう、トリン;;;」
 もう驚かんぞ、と呟きながらも、鉄砕は子孫が作者であるアミィの愛読書《らぶ・タッチ》の次の巻を開いた。
「それにしても、君がこれを読みたいといった時の方が驚いたがな」
「真也《あいつ》がどれほどの強い思いで、描いているのか良く解った。だから、せめて、目を通してみたいと思ってな。……理解できるかどうかは判らんが」
「理解するものではないだろう。感じれば、それで十分ではないかな」
「悪かったな。堅苦しくて」
「そうは言っていないだろう」
 苦笑するトリンを軽く睨み、鉄砕はページを繰り始めた。



 シリアスに過ぎる話が続いたので、ちょっと息抜きを。38話その後──唐突な金桃単独カミツキ合体から湧いたバカ話です。最初はプテライデンオーの取り合いみたいだったのが、最後は一億年以上、生きる賢神と1500年以上、存在するカンフー使いの読書会になってしまいました。

2014.07.23.
(Pixiv投稿:2013.12.04.)

トップ 小宇宙な部屋