雷鳴の翼 ――来たれ、プテラゴードン!
戦場の何処《いくさばのいずこ》に在ろうとも、届く声……。 静謐さに伴う厳かな響き。 己が魂を掴んでは離さぬ、正に雷鳴の如き轟き。 初めて、彼に己が名を呼ばれた、その刹那を、 この身が斃れ、滅する瞬間まで、決して、忘れまい……。
己が生まれたのは遙か太古の時代だ。 食うか食われるかの連なりはあろうとも、数多《あまた》の命がこの大地《ほし》には繁栄していた。 だが、億を数える永き栄華の時代は突然、断ち切られることとなった。 遙か空の彼方より現れた賢神の警告と、ほぼ時を同じくして、出現した災厄ども――大地が大海《うみ》が、そして、大空《そら》までもが蹂躙された。 災厄どもの力は凄まじく、多くの命が為す術もなく、奪われ、散っていった。 このままでは何れ、全てが絶滅させられてしまう。この星の命という命が根こそぎ、消し去られる。欠片も残さず――僅かな残滓すらも完全に。そして、二度と命は誕生しない暗黒の星と化すだろう。 そんな未来など、受け入れられるはずがない。多くの種が、己が種は滅んでも、次の世に継がれる命の欠片くらいは守らねばならない──そう、願った。 或いは、種を超越《こ》えての生存本能にも似たものだったのかもしれない。 散り逝く同胞たちの残した魂《スピリット》が集い、明確なる意思を有し、願いを賢神にと託した。彼の災厄どもと戦いうる力を……! こうして、生み出されたのは機械の体を持つ竜――これこそが我ら獣電竜だ。スピリットを集約する獣電池を糧とし、食らい喰らわれる連なりは、ともに運命を切り拓く絆へと変わった。
一方的だった殺戮に抗し、だが、永きに渡る熾烈な戦いの始まりともなった。 それでも、災厄どもは恐るべき敵だった。賢神の協力を得ても、圧されるのは如何ともしがたい。 犠牲も少なくはなかった。最後には獣電竜を生み出した種は絶え、願いを託され、戦い続けた獣電竜さえもが数多く破壊されていった。 そして、長たる獣電竜も大地の魔神と相討ちとなった――その際、辛うじて、最大の災厄は倒せぬまでも、封じることはできたが、眠っているようなものに過ぎず、災厄どもの残党もまた、世界の其処彼処で蠢《うごめ》いていた。 激闘の傷跡は深く、大地も大海も、大空までも荒らされ、再び命が芽吹き、花咲くにも永き時を要した。 それまでも、災厄の残党どもとの戦いは断続的に続いた。母なる種は疾うに失われ、願いを受けた我らだけが、ひたすらに戦った。 永き永き、悠久ともいえる刻を……。 ☆ ★ ☆ ★ ☆
永き戦い――どちらも手詰まりというべきだろうか。危うい均衡の下、永劫に続くかと思えた。 彼の最大の災厄の封印とて、それほどの刻を経れば、次第に弱まり、いつかは破られるかもしれない。そうなれば、この均衡は崩れ、一気に傾くのは必至だと……。 何れ訪れる破局を憂う賢神は獣電池に改良を加えた。母なる種のスピリットだけでなく、新たにこの星に生まれ出でた種の“力”と融合することで、大いなる力を為すのだという。 ここで、重き役目を果たすこととなる新たなる種――それが“人”だった。
ただ、己には疑問だった。“人”とは見るからに脆弱な種だった。鋭き牙も爪も持たず、動きは鈍く、力も弱い。現に、他の種の多くから隠れ、大地の片隅で、ひっそりと暮らしているようだった。 だが、そんな弱い種が、危険を切り抜け、細々とでも生き延びているのは或いは驚異なのかもしれない。 何故なら、“人”は他の種は到底、及ばぬ力を間違いなく得たからだ。それは“知恵”というものだった。 “知恵”を以て、“人”は恐れるべき獣すらも狩るようになった。牙や爪の代わりとなる道具を作り、罠を仕掛ける――無闇に恐れるのではなく、冷静さを伴う心で、己が種の弱さを補うようになったのだ。 一個の種としては、“人”の脆弱さは変わぬというのに、“知恵”を得たことによる心の強さが“ブレイブ”に通ずるのだと、賢神は語った。 その“ブレイブ”を獣電竜の獣電池に籠める――ともに戦う“相棒”を得た瞬間、我らの力は爆発的に高まるだろうと……。 しかし、そんな“相棒”を見い出すにもまた、幾多の昼と夜を重ねることになった。 強き心を有した者は時折、現れても、最後の一線を越えられないのだ。我らとともに戦うのは、彼の災厄どもと死地に赴くほどの戦いに身を曝すということだ。 その恐怖に克てる者は希だ。更には我ら獣電竜にも打ち勝てなければ、とても、死地には誘《いざな》えない。 獣電竜たちは“相棒”の出現を心待ちにしながら、時に挑戦を受け――しかし、結果的には誰も“相棒”を見い出せぬまま、終わりの見えぬ戦いを続けていた。 “人”なる若い種も果てしない代を重ね、いつしか、この大地に君臨するほどに数を増やしていた。大海にも漕ぎ出し、何れは己が舞う大空にも昇ってくるのだろうか、などと漠然と思うほどだった。 しかし、“人”とはどうにも理解《わか》らぬ種だった。数を増やしながら、減らす方向へと走る。互いに喰らい喰らわれる関わりでもないはずが、同種同士で頻繁に殺し合い、奪い合う。 彼の災厄どもが息を潜めるようになったがために、余計、感じるのだ。 今回ばかりは賢神の見込みは外れたのではないかと。己が魂に力を与えてくれるという“ブレイブ”とやらを持つ“相棒”なぞ、決して、現れぬのではないか、と……。 諦念に支配されかけた頃だった。最大の災厄を封じてから、如何ほどの歳月が流れたのだろうか。 だが、間違いなく、一筋の光明が射し込んだ! 遂に…、遂に獣電竜の一体が“相棒”を認めたのだ。 ともに戦う“強き竜の者”――“激突の勇者”は“相棒”だけでなく、全ての獣電池に“ブレイブ”を“ブレイブ・イン”した。 確かに、今までとは全く違う。その昂揚感は喩えようもないものだった。 そして、誰もが夢見るのだ。己が真の“相棒”が“ブレイブ・イン”すれば、更なる昂りを得られるのではないか、と。 不意に現れる災厄と真向かいながら、その刹那の瞬間を待ち望んでいた。
最初の“強き竜の者”が現れ、戦い、そして、死して尚、魂の戦士《スピリット・レンジャー》として、いつまでも、どこまでも、獣電竜に寄り添うのだと、知らしめた。 だが、次なる“強き竜の者”の出現にも、人の世が移ろうほどの時を経た。我らが存在した悠遠さに比すれば、ものの数ではないが、積み重ねられた人の代に、“相棒”との邂逅はやはり、奇跡に等しいのだと、誰もが信じた。 それでも、待ち続けるのだが、己は――己だけは、再び、諦めを覚えるようになっていた。
相変わらず、同種で争う“人”だが、今以て、空には届かずにいる。なれば、果たして、己に勝てるだろうか。 遙か上空を舞い、“人”が恐れる雷霆をも纏う、この翼の竜に、何者の手が及ぶというのか。 ……決して、得られぬ“相棒”ならば、最早、待つことに意味などない。独り、災厄どもとの戦いに集中する方が良いだろう。 そんなことを考えながらも、嘗て現れた“強き竜の者”たちの“ブレイブ”を享けた瞬間も忘れることもできずに、懊悩した。
そんな中、己は彼に会ったのだ。 予感などというものは全くなかった。 ただただ、突然に唐突に、正しく青天の霹靂の如く……!
その頃、鳴りを潜めていた災厄どもが再び蠢動しつつあった。 怨敵の気配を辿りながら、飛翔していた己に、突如、襲いかかった閃光!? さすがに仰天する。 己が操る雷霆《イカズチ》とも天が下す雷鳴《カンナリ》とも違う。だが、遥か空の高みを、凄まじく高速で飛ぶ、この雷の翼の竜に何者かが攻撃を仕掛けてきたのだ。 よもや、災厄どもかと一瞬、疑ったが、そこまで濃い気配はない。しかも、今のは──明らかに雷撃だ。確かに雷と雷は引き合うものだが、己も天も、今は稲妻を発してはいない。誘雷ではないはずだというのに、間違いなく地上《した》から上空《こちら》へと放たれた。見えるはずのない、この翼の竜を狙い撃つかのように! その正体は何か? どうしても、知りたい──欲求を抑えられず、地上へと急降下をかけた。雲を抜け、“人”の領域へと急速に迫る。思えば、ここまで、己が“人”の領域に近付いたことはない。“人”なる種を間近で、とくと眺めたことさえ……。 次の瞬間、第二撃が来た。我に返り、躱すと、その発生源を辿る。
荒れ果てた山野に立つのは一人の“人”──それが雄…、いや、男なのだとは後で知る。考える前に、三撃目が! 間違いなく、その“人”が発生源だった。細長い鈍い輝きを頭上にかざし、振り下ろすと、発した閃電が雲を裂き、空を駆け抜ける。 直撃を受ける。己が雷霆には遠く及ばぬ威力でしかない。だが、己が魂《スピリット》は激しい衝撃を受けた。 動揺もあろうか。“人”の身でありながら、雷を生み放つことができるなぞ!? だが…、もっと近付きたい。もっともっと、間近で、己と同じく雷を纏う者を見てみたい。 そんな衝動から、不安定ながら、滑空を続ける。 そして、真正面からの第四撃目──目も眩むような眩さ、その美しさをきっと、生涯、忘れない。 この身が斃れ、魂までが滅したとしても、きっと、忘れない……。 《了》
てなわけでのプテラ視点話。ブラギガス復活で、超カミツキ合体されると、ライデンキョウリュウジンの出番がなくなるのかな、とか考えていたら、何か、湧いてきてしまいました。プテライデンオーで一緒に戦っていたのに、ギガントになったら、取り残され組のプテラ。操縦者のゴールドも移っちゃうもんだから──その辺を飛んでいたのかしら? とね。 興に乗って、書いたのに、データが一寸したポカで全部、吹っ飛んだもんで、大ショック★ マジで泣きましたよTT そんな時に限って、バックアップを取っていなかったという。絶対、小マメにコピーしときましょうね…。何とか書き直したものの、微妙に違うんだろうなぁ。でも、まぁ、気を取り直して、プテラの気分を想像してみました。 バイオレット(やラスト際でのグレーとシアン)の例を見ると、獣電竜と対になる“強き竜の者”は必ずしも一人だけということではないのだろうけど、やっぱり、“相棒”を見つけるには途方もない時の果てにあるんだろうな、とか思った次第で☆ しかも、プテラはせっかく、見つけたのに、行方不明になられるわ、敵方に取り込まれて、デーボス・インされちゃうわと、泣きたいくらいですけど;;;
2014.03.13. (Pixiv投稿:2013.11.05.)
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