不器用な恋 アークエンジェルの旅は当初の予定や予想を遥かに越えて、続き、取り巻く状況も変わっていった。最初は緩やかな変化が激流の如く……。 そうして、揺るがされたものも多い。 自分が何のために戦っているのか、とか。所属してきた組織への信頼感、絶対感とか。 絶対的なものではないのだと惑わされ、それでも、そこで戦うのか、と……。 それは軍人がそこまで考える必要はないのかもしれない。上層部の決定に盲目的に従うのも軍人としては当たり前だけど、どこか人としては悖《もと》るような──といって、その選択にも絶対の自信を持つことができない。 それしか取るべき選択《みち》がなかったとしても、迷ってしまう。 迷いもせずに、掴み取ったかに見える者もいるのに。……眩しいほどに、躊躇わずに!
「おい、手伝うって」 「結構よ。大体、あんた。機体の整備はどうしたのよ」 「あのマードックって、おっさんが近付けさせてくんねーの。まだ信用されてないみたいね。俺ってば」 「当ったり前でしょ。散々、私たちを追っかけ回してくれたくせに、一度や二度、助けたからって、ハイそうですかって、言える?」 最近、よく見かけるようになった光景。 「でもさ、その一度が中々、劇的だったじゃない?」 「そりゃそうだけど……。いいえ! まだまだよ。あんたが逆の立場なら、信じられるの!?」 「う〜ん。無理かも」 「でしょう。だったら、グダグダ言わないで、地道に努力なさい」 「努力ね…。俺って、嫌いかも」 「あっそう。いいわねぇ、努力もせずに、なーんでもできて」 ムカっ腹を立てた少女が背を向けかけると、慌てた少年が追い縋る。 「いや! 何でもってわけでもないけど」 「ふうん? じゃあ、苦手なこともあるんだ」 「そりゃ、当たり前だろう。何、コーディネーターは本当にマルチなスーパーマンだと思ってる?」 「私らから見れば、十分そうよ。でも、あんたたちの中でも個人差はあるのよね。当然」 「そっ、当然」 「じゃ、あんた。誰かに負けて、悔しかったことは?」 「そりゃ、あるさ」 「それで、どうしたのよ」 「そりゃあ──」 努力したんだな。そんな顔だ。 「頑張ってね。心から、信じられるように」 少女はニッコリと笑うと、仕事に戻っていく。 「ホントに? ホントに頑張ったら、信じてくれるか」 少年も後を追っていく。何というか、意外と純な少年だ。彼がザフトのエリート中のエリート、赤服の一員で、我々からGを奪い、その機を以て、苦しめてくれたとは──想像するのは難しかった。 だが、それも紛れもない事実で、今は頼りになる味方だというのも現実だ。
少女──ミリアリア・ハゥは厳しい姿勢で臨んだが、それも必要なことではある。この艦のクルーの一人一人が異なる思いを彼ら元ザフトのパイロットには抱いているはずだ。 俺は艦橋から、その戦い振りを見たし、接している内に彼が本気だと理解したつもりだ。 だが、未だに不審の念を持つ者や、裏の思惑があるのではないかと疑っている者がいるのも事実だ。 その目を変えていくには彼ら自身の行動で示すしかない。 即ち、同胞とも戦い得るという行動で──……。 「余りと言えば、余りだがな」 その同胞には彼の家族や友人もいるだろうに。 まだザフトと事を構えると決まったわけではないが、その可能性は大だ。そんな選択をあんな少年に強いるのか。 「キラ君には散々、強いておいて、今更だな」 こちらにとっても、苦渋の選択だったとしても──彼にとっては言い訳にもならない。 なのに、一度は戦線を外れ、平安の中に過ごしていくこともできただろうに、彼は…、キラ君は戻ってきた。再び、戦場へと──……。 その重い選択を、俺たちは決して忘れてはいけないのだ。 そして、あの少年も……ハゥに特別な想いがあるとしても、それだけで、軍を抜け、誇りであったろうザフトの赤服を脱いだりはできないだろう。況してや、仮とはいえ、全く別のモルゲンレーテ技術者の制服を着て、付け狙っていたはずの艦に留まったりなどは。 「特別な想い、か」 あの二人の間にあるのが恋、といっていいのかは解らないが。まだまだ、そこまで育ってはいない淡い感情──けれど、何かを賭けるには十分なもの。 「それも、重いな」 心だけを唯一の拠所として、行動するなど…… 不意に己が信念に賭け続ける人を思い起こす。軍人であっても、惑う者が多い中、彼女は揺らぐ姿など見せようとはしなかった。無論、そんな彼女も完璧ではなく、時には悩むことはあったが。 既にこの艦は連合を脱走し、敵対すらしている。何れ、彼女と相対することにもなるのだろうか。そうなった時、彼女はどう思うだろう。いや、我々のこの選択を、どう考えるだろう。 「馬鹿なことを、と思うかな」 何故、艦長を止めなかった、とか。諌めなかった、とか。責められるだろうか。 もう…、面と向かって、会うこともないかもしれないというのに、ついつい考えてしまう。 それとも、選び取った途ならば、もう迷うな、と叱責するだろうか。 「やはり…、重いな」 信じるものが揺らいだまま、彼女と戦えるはずなどない。迷いを感じ取った瞬間、彼女の強い意志は貫いてくるだろう。 覚悟を、決めるべきだった。先送りなどせずに、そうなるだろうと──彼女と戦う時を覚悟しなければなるまい。 せめて、彼女に呆れられないように、真向かわなければ……。
『お題』はどこ行ったぁ? まぁ、ジャレ合うディアミリに、一寸だけ自分たちを重ねた……かもしれないノイマン君でした^^ ディアミリも結構、密かに応援してたんだけど、続く『種D』ではどーなったことやら。やはし『住む世界』とやらが違ったのかね。アスランにディアッカに会ったと言われて、「あぁ?」と凄んだ(ように見えた)だけのミリィ。それきり、だったしな★
2007.07.31. |