誕生日


「おめでとさん」
 プレゼントだ、と称して渡されたのは、仮にも戦艦内にはあってはならないだろうモノだった。
「ありがとうございます」
 心底からの言葉には違いない。
 尤も、ソレは自分も飲むために、用意したのだろう。
 集まっているのは前大戦時からの旧アークエンジェル・クルー。艦がオーブのモルゲンレーテのドックに身を休めている、束の間の平和の間に、離れていった者も幾らかはいた。
 後に残される連中は同胞意識も手伝って、口実を作ってはこうして、集まったりしている。
 それが今回は俺の誕生日ということだ。

 とりあえず、曹長からの祝いの酒を開ける。これもまた、口実か。
 そして、乾杯。
 俺の誕生日に、
 ともかく今は、こうして、語り合えることに。

 持ち寄ったツマミと多少の酒。細やかな時間だが、皆はこの時間を大切にしていた。
 残った旧クルーだけでは艦は動かせない。オーブの人間もかなりが乗り込んでいる。その新たなクルーとの関係は決して悪くはない。
 それでも、いざという瞬間に最も頼れるのが互いであるのを実感しているからかもしれない。
「ホラ、少尉。一応、主役なんだから、もう一杯」
 曹長が手酌してくれる。皆で分けると一人一杯がやっとだが、今回は優遇されているようだ。
「いいなぁ、ノイマン」
 チャンドラが心底、羨ましそうに呟く。
 解った解った。お前の誕生日はもっと盛大に祝ってやるさ。
 大体、艦にいる間に誕生日を迎えたってのは、良いのか悪いのか。勿論、無事に迎えたことはめでたいのだろうが……。

「……誕生日、か」
 そして、連想する。二年前まで同い年だった彼女を──そう、同い年だった。二年前までは、だ。
 二年前、彼女は死んだ。彼女の時は止まった。もう年を重ねることはなくなった。
 ふと蘇る。少しだけ、むくれたような彼女の顔。とても珍しく、普段より幼く見えた。

『追いついても、また離される』
『同じ日の生まれでもない限り、仕方がないだろう』
『仕方がないのは解っている。だけど、悔しい』
『あのね^^;』

 誕生日は俺の方が半年ばかり早かった。だから、俺の方が(月齢は無視して)一歳年上になる期間が半年ほど続いた。

『そんなの、たまたまだろう。君が拘るなんて意外だな』
『そうか?』
『個人の才とも関係ないしな』
『……そう、だな』

 生まれた日など偶然の産物だ。偶然の巡り合わせというだけで、早い遅いに拘る必要はないはずだった。
 だが、彼女には何か思うところがあったのかもしれない。俺自身が気にしてもいなかったためもあるが、結局、それを確めることはなかった。

 ……俺が誕生日を迎える度に、一歳《ひとつ》また一歳と、彼女との年の差は開いていく。
 どこまで、開いていくのだろうか。
 俺は、また次の誕生日を迎えられるだろうか。そして、また一つ……。
 同い年だった彼女が年々、年下になっていく。
 離れた年の分だけ、彼女を亡くした年数を数え、思いを馳せる。
 まるで、儀式だ。
 普段、忘れているわけではない。
 なのに、俺にとって、自分の誕生日は、それだけのためにある日となった。



  ノイマン独り語り? えー、六月はノイマン君のお誕生日月でして、オーブ出奔後のアークエンジェルで、その日を迎えたということになりますか。でも、何か……、ちと暗い?

2005.06.18.

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