『八周年記念拍手VI〜銀河鉄道物語』 お礼SS No.66

「へェ、もうすぐなんだ。アルデバラード8号が走るのって」
「アルデバラード8号? どこの列車です」
 デイビッドに尋ねる学に、ルイは呆れたように口を挟む。
「やだ、有紀君。知らないの? アルデバラード8号といったら、888《スリーエイト》じゃない。中々、クラシカルな蒸気機関車よね。私も見てみたいな」
「蒸気機関車なら、ビッグ・ワンをいつも見てるじゃないか。こないだ会った999《スリーナイン》だってさ」
「やーねぇ。クラシカルなとこが良いんじゃない。二年に一度しか運行しないから、いつだって、満席よ。でも、考えてみたら、乗ってると走ってるとこは見られないのよね」
 888──別名アルデバラード8号は野の花線・アルデバラン環状線のローカル線でのみ運用されている。橙を基調にしているが、如何にも蒸気機関車であるという形態の車体は確かに人気があるらしい。
「じゃあ、休みを取って、乗りに行ったらどうだい。有休、溜まってるんだろう」
 ルイは腰に手を当てて、学の顔をじっと見つめた。
「有紀君。人の話、聞いてた? いつも満席だって言ったでしょ。席なんて、取れっこないわよ」
「いや、走ってるところが見たいんだろ? だったら、擦れ違う路線とか調べて」
「ローカル線だから、それも難しいわよ。大体、遠いし……」
「まぁまぁ、調べるだけ調べてみたら、いいじゃないか」
 デイビッドが執り成すように言うと、心が動いたのか、ルイも考える様子を見せた。
「そうだよ。やるだけやってみたら」
「そ、それもそうね」
「それにしても、ルイは結構、鉄道マニアなんだな」
「マニアってほどじゃないわよ。でも、鉄道嫌いで、SDFに入隊する人なんて、いないでしょ」
 銀河鉄道を愛する思いを持っているからこそ、護ろうという思いも生まれるのだ、と…。

 翌日、ルイは首尾よく? 888と擦れ違う列車に席を確保できたという。
「学は一緒に行かないのか」
「なっ、何で僕が…!」
「どうして、私と有紀君が一緒に行かなきゃ、ならないんですかっ」
「何でも何も、お前たち、そーゆー仲だろうが」
 ニヤニヤ笑うデイビッドに、二人は顔を真っ赤にした。
「そんなんじゃありませんっ」
「大体、二人も休み、取れないでしょう」
「いいからいいから、そんなに照れるな」
 顔を見合わせた二人は、声を揃えて、叫んだ。
「照れてませんっ!!」
 デイビッドが大笑いしたのはいうまでもない。





『八周年記念拍手VII〜鋼殻のレギオス』 お礼SS No.67

「ねぇ、知ってる? 明日の決定戦の掛け率、半端ないわよ」
 そう言われても、興味の欠片も見せない様子の不機嫌そうな顔の男に、アルシェイラは肩を竦める。
「聞いてんの? 大多数はアンタに賭けてるから……本ト、賭けにならないってのはこのことね。極大大穴狙いで、相手に賭けてるのもいるけど、何と、倍率八万倍よ」
「……だから、何だ。お前もそっちに賭けたのか」
「何で、そうなるのよ」
 少しばかり、声を尖らせたが、男は意に介した様子もない。
「わざわざ、そんな話を持ち出してきたのはお前だろうが。まさか、八百長でもしろと言うんじゃないないだろうな」
「バカ言わないでよ。そりゃ、アンタが負けたら、相当な大金が転がり込むでしょうけど、あたしが欲しいのは金なんかじゃない。そこらの武芸者如きでは太刀打ちなどできない、圧倒的な力を持った天剣よ。リン」
 明日の天剣授受者決定戦への出場を決めている男──リンテンス・ハーデンは胡乱げな視線を少女に振り向けた。姿は少女でも、アルシェイラはこのグレンダンの女王なのだ。
 それこそ、天剣授受者ですら届かぬ高みにいる絶対者。

「まぁ、勝敗の賭けは賭けにならないけど、別口は結構、面白そうね」
「別口?」
 あっけらかんとした口調で、話を変える女王に、リンテンスも肩透かしを食う。
「そっ☆ アンタが残りの天剣の何れの銘を授かるのかって賭け。何なら、あんたも賭ける? ぜーったい勝てるわよ」
「…………下らん」
 『絶対勝てる』──その心は『今、好きなのを選んでいいわよ♪』 それこそ、八百長ではないか。
 別に潔癖であろうとしているわけではない。ただ、どの天剣でも構わないのだ。この力の全てを預けることのできる錬金鋼であるのならば、それだけで、銘になど拘らないのだから……。


 リンテンスは翌日の決定戦でも、大方の予想通り、危なげのない戦いで、勝利を収めた。対戦相手とて、天剣授受者決定戦まで上がってきた力ある武芸者だったが、リンテンスの鋼糸の前には手も足も出なかったのだ。
 そうして、他都市からの流れ武芸者だったリンテンスは、その文句のつけようのない実力を見せ付け、天剣を授けられた──その手にしたのだ。

 “サーヴォレイド”……それが彼が主と認められた天剣の銘である。





『八周年記念拍手VIII〜彩雲国物語』 お礼SS No.68

「仙人なんて、結局は空想の産物じゃねぇのか。あれだろ。真白な髭の爺さんで、雲に乗って、霞食って──」
「君の知識は民間伝承の影響が強すぎるな。国試を通った者の言い様とも思えん」
「うっせぇ! 爺さんばっかだってことは変わんねぇだろうがっ。ま、綺麗な仙女様なら、お相手、願いたいもんだがよ」
「最後はそれか。飛翔らしいといえば、それまでだかな」
「それはともかく、女仙がいても、不思議ではないと思いますよ」
「だろ〜☆ そんなら、会ってみたいよなぁ!」
「そうですね。興味深いお話ができそうですからね」
「笑えるくらいに、関心の対象がズレてるな」
「フン。彩八仙なぞ、所詮は御伽噺だ」
「黎深。お前は仮にもその彩八仙の色を戴いた紅家の当主だろうに」
「だから何だ。私が好き好んで、紅家に生まれたわけではない。たまたまだ」
「……たまたまで、こんな奴がよりにもよって、彩八家筆頭の直系に生まれんでもいいような気がするけどな」
「同感だ」
「フン! 再び仕えるに足る王が現れた時、仙洞宮に集うだと。彩雲国に何事かあれば、彩八仙が現れ、その窮地を救ったりしてくれるのか? 眉唾物の伝説だな」
「しかし、建国の頃、彼らが蒼玄王を助けたのは事実のようだが」
「それが今も生きていると、信じるのか。先代の暗黒時代に、それらしい奴が現れたか?」
「さぁ、どうなんでしょうね。意外と近くにいるかもしれませんよ?」
「はっ、そこらで茶飲み話をしているとでも言うのか」
「かもしれない、と言っているだけですよ」
「おー、若人たちよ。元気にやっとるかね」
「霄大師。いきなり現れましたね」
「フン! ジジイと話したりしたら、生気を奪われる」
「全くですね。ところで、そろそろ、お昼休みも終わりですよ」
「そうだな。では、大師。失礼致します」
「ジイさん。あんまり茶ばっか、飲んでると、水太りするぜ」
「ごゆっくり、どうぞ」
 『悪夢の国試組』とも呼ばれる面々は席を立ち、形ばかりの挨拶を残し、戻っていった。
 ポツネンと取り残された霄大師はズズッとお茶を啜った。
「……冷たいのぉ」
 先王“血の覇王”の片腕とも称された御老体は、少しばかり寂しげにまた、お茶を啜った。



 『八周年記念拍手』纏め其の三です。
 スンゴい久々な『銀鉄』はもう、設定忘れかけているような……。相変わらず、女王様とその僕?な『レギオス』で、何となく二人の世界? 『彩雲国』は地の文を使わずに、掛け合いだけで、誰の台詞か判るように頑張ったつもりだけど、さて?

2008.12.25.

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