もはやこれは常識


我らが女神様はどうやら恋をしているらしい☆
とゆーか、ほぼ確実。てか、もう解りやすすぎるくらいに。
幾ら、人の身に降臨された戦女神《アテナ》とはいえ、人としては十四歳の少女に過ぎない。
しかも、自らの素性を知ったのも比較的、極最近となれば、
感覚は普通の日本人なところが相当にあったりする。
さて、問題のお相手だが──人智を超越《こ》えた女神様のわりには本当に丸解りなのだった。


「やっぱり星矢かなー。何だかんだで、いっつもギリギリのトコで、アテナを守ってきたのは星矢だろう」
「それなら、他のブロンズにだって、可能性はある。あぁ、しかし、紫龍はないな。五老峰に彼女がいるんだろう?」
「一輝と瞬も何というか、想像がつかないのですけど」
「ならば、氷河とて同じだ。あれがマーマをも越えて、愛する人を見つけたのなら、大歓迎だが」
 などと、黄金聖闘士までが休憩中と称して、噂話に花を咲かせている始末。
 最初は不敬だとか、不謹慎だとか、不真面目だとか、仕事しろだとか、注意していたサガも既に諦めたらしく、嘆息している。一応、会議のはずだったのだが……。
 書類を纏めて持ってきたアイオリアが気の毒そうに苦笑しながらも、妙な慰めは控えたのは賢明だったろう。
 ところが、率先して?噂の輪に加わっていた兄アイオロスが、いきなり矛先を向けてきた。
「アイオリア。お前はどう思う?」
「どうって……聖闘士とは限らないんじゃないのか。アテナは聖域より日本に居られる方が多いし、向こうでは学校にも通われているのだろう」
 何とも至極真っ当な意見だろうか。ついつい、う〜んと唸る黄金聖闘士たち。そして、顔を寄せ合って、ヒソヒソと^^;
「おい、マジに全っ然、気付いてないんじゃないのか」
「まぁ、アイオリアのことだから、多分というか、絶対そうだとは思ってたけどな」
「鈍いなんてものではありませんからね」
「ムウ……言いすぎだぞ。俺の弟を貶すな」
「いいえ。さすがに貴方の弟だと言いたかったのですよ」
「つまり、俺も貶しているわけか」
 アイオロスがげんなりと呟く。尤も、この程度はお遊び感覚で、嫌味にすらならない。
「しかし、アテナがお気の毒だ。あんな鈍チンが相手でははっきり言わん限り、一生、想いなど通じんぞ」
「煽るなよ。ややこしいことになりかねん」
 ここまでの流れで判るだろうが、女神アテナ=沙織の想い人は何がどーしてどーなってか、鈍チンな獅子座の黄金聖闘士アイオリアだったりする。ところが、当人は当たり前のよーに全く想われているのに気づいていない。
 なので、周囲は気を揉んでいたわけだ。それとなーく、ざーとらーしく話を振って、興味を持たせようとしても、第三者的客観的意見が飛び出してくる始末。あんまりにも真っ当すぎて、とても沙織には聞かせられない。
 それにしても、トップがこれで良いのか、聖域よ。平和ボケしすぎだぞ、お前ら。もう一遍、聖戦演じてこい。……とか、天界の神々の声が聞こえてきそうだった。
 尤も、トップもトップの戦女神様からして、春真っ盛りらしいのでは、それも致し方なしか。

 話題の主たるアイオリアは何も気付かず、退出の挨拶を寄越す。
「それじゃ、俺は失礼する」
「聖闘士候補生の指導だったか」
「あぁ。魔鈴がアテナの護衛で、日本に行っている間の指導を頼まれたんだ」
 言いつつ、弟が執務室を出て行ったのを見て、アイオロスは「イーグルか」と小さく嘆息した。
「にしても、何で、アイオリアなのかねぇ。この前、俺なんか、アイオロスって、本当にアイオリアに似てるのね、とか言われたぞ」
「それはまた、遣る瀬無いですねぇ」
「弟に似てるとか、そっくりとかなんて言われたら、兄貴の立場ないよなぁ」
「普通、アイオリアの方がアイオロスに似てるって思うのになぁ」
 兄弟の順番からいえば、そーなるだろうに、既に沙織の頭の中ではアイオリア主体に物を考えるようになっているらしい。アイオロスとて、沙織にとっては『命の恩人』だろうに^^;
「まぁ、さすがにアイオロスでは年が離れすぎているでしょう。星矢たちも……あの年頃の女の子は同年代の男子なぞ、見向きもしないって言いますしね」
 サラリとムウが言うが、他の者は『長年、人外魔境に住んでいたくせに、そんな知識《こと》どこで仕入れたんだよ』と胸の内で突っ込んだ。あくまでも、胸の内で……。ムウに正面切って、意見できる者なぞ、彼ら黄金聖闘士の中でも話題のアイオリアくらいなものなのだ。
 それはさておき、その知識の内容は決して、間違っていない。思春期真只中の少女から見れば、同年代の男子はお子様過ぎて、相手にならないというのは確かにある。
「でもさぁ、アイオリアはイーグルとイイ仲なんじゃないのか? 俺、そんな噂、聞いたぞ。実際、まぁ、親しいようだし」
 アイオロスは弟から「聖矢の師匠だ」と紹介された時のことを思い出す。それ以上のことは特には言わなかったが。
「ミロ。お前も彼らとは親しいだろう。実のところはどうなのだ」
 珍しくカミュが突っ込んだことを聞いてくるのに、ミロは目を瞬かせたものだ。
「どうって──そりゃ、親しいっちゃ、親しいけど、そういう意味でかと言われたら、どうかねぇ。確かにアイオリアと魔鈴は昔から色々と言われてたけどさ」
「へぇ。お前さんも銘じゃなくて、名前で呼んでるのか。イーグルを」
「深い意味はないって」
「解ってるって。で、色々ってのは?」
「だから、逆賊の弟と日本人、聖域のハグレ者同士が慰め合ってるだの、馴れ合ってるだの」
「う゛っ」
「サガ、サガ。気にしないように」
「おい、ミロ。それは禁句だ」
「だーっ! 面倒だなぁ。もういい加減、時効だろうが。サガ、もちっとカノンを見習って、大らかになれよ」
「あんな愚弟の、どこをどう見習えと言うのだーーっっ!!!」
「話、逸れてますよ」
 その実、マイペース揃いな黄金連中が集まっても、それなりに話が進むのは実に不思議だ。

「でも、確かにイイ仲なら、アイオリアも俺にはそう言ってくるよなぁ。ちゃんと、彼女だって紹介してくれるはずだ」
 ウンウン頷きながら、自己完結するアイオロスを他の者は生暖かい目で見遣る。
「この人と結婚しますなら、紹介もすっだろうけど、彼女できましたくらいで、一々、兄貴に報告せんだろう」
「幾ら、あのアイオリアでもねぇ」
 また、少しだけ話逸れました;;;
「でも、あいつらが一緒だったのって、本当に鍛錬ぐらいで、それも大抵は星矢を交えていたしな。たまーに、魔鈴にも稽古つけてたけど」
「じゃ、結局のところは?」
「う〜ん。艶っぽいことはないと思うけど、そういう気分になってるのもありえるんじゃないか」
「何だか、思わせ振りだな」
 カミュの言葉にミロは肩を竦めた。
「だって、あいつらは何より聖闘士なんだぜ。互いを聖闘士として見ている。魔鈴はアイオリアを尊敬してるし、アイオリアも魔鈴を高く評価している。でも、男と女だってのも確かだろう?」
「だから、そういう気分でも不思議ではない、と」
「全く不思議じゃないだろう? アイオリアはいい男だし、魔鈴も──顔は知らんが、性格は好い。……ちょい、足癖悪いけどな」
「……蹴られたこと、あんのか?」
 星矢はしょっちゅう、蹴り飛ばされてました^^;
「気になるなら、アイオロスが聞いてみれば? アイオリアに魔鈴のこと好きなのか、とか」
「聞いて、どうするんだ。というか『勿論、好きだぞ』とか返ってきそうだ」
「好きの意味まで、問い質すのは気が引けますよねぇ」
 結論は出そうで、出ない。というより、結論があるのかどうかも不明だった。
 そんなことに感《かま》けているのに、最後にはもいい加減にサガがキレた。
「…………仕事しろ、お前ら」
 黄金聖闘士すらが背筋に悪寒を覚えるような妙な気配に、即刻、会議室を飛び出したのは言うまでもない。辛うじて、気配は鎮まったようだ。


☆        ★        ☆        ★        ☆


 日本──聖域での女神たる城戸沙織の今一つの顔はグラード財団総帥である。まだ少女に過ぎない沙織だが、祖父光政が育成し、残してくれた側近たちは十分に彼女を盛り立て、支えてくれている。
 勿論、少女とはいえ、全てを任せているわけではない。祖父より帝王学を学んだ沙織は側近たちの言葉に耳を傾け、可能な限りの判断を下し、総帥の任を果たしていた。
 思えば、この帝王学も聖域を統べるためにも役立っている。祖父はそれも計算に入れていたのかもしれないと想像し、感謝するのだ。
 とはいえ、少女の身には重責であることも疑いない。プライベートともなれば、一気に気が緩む。それも本拠地たる城戸本邸の私室にいる時は──さすがにここには護衛でも、信頼できる青銅聖闘士か女聖闘士しか入れないので、尚の事だった。

「お疲れでしょう、アテナ」
「あぁ、魔鈴。本トに疲れたわぁ。足が痛くて」
 滅多に泣き言など言わない沙織が漏らしたのだから、相当なのかもしれない。
「お揉みしましょうか?」
「悪いわよ。貴方は私の護衛で、そんなことをするために呼んでいるわけじゃ……」
「お気になさらずに、どうぞ靴をお脱ぎ下さい」
「そ、そう? それじゃ、お言葉に甘えて」
 ソファに凭れた沙織は靴もストッキングも脱ぎ捨て、素足を曝した。屈んだ魔鈴がその足を揉み始める。
「あぁ、気持ちいい…。魔鈴、上手ねぇ」
「師匠に教わりました。修行の後、何もせずに放っておくと、翌日は筋肉痛で動けませんので」
「当然ね。でも、聖域でもそういったスポーツ科学的なことは行われているのね」
「それほど、大層なものではありません。経験による必然の教えといった方が適当ですね」
 確かに、科学的に証明されていることを系統だって学んだわけではないようだ。
 それでも、魔鈴のマッサージは十二分な効果があった。疲れもあり、うっとりとしつつ、沙織は俯き加減にマッサージしてくれる魔鈴の顔を見ていた。
 聖域では仮面に隠している素顔を今は曝している。グラード財団総帥の護衛につく女聖闘士はさすがに怪しげな仮面などはつけられないので、普段はボディガード宜しくサングラスで代用しているのだ。だが、この沙織の私室に入る時はそれも外している。沙織がそう頼んだのだ。
〈やっぱり、魔鈴って美人よねぇ。仮面で隠すなんて、勿体ないなぁ〉
 女聖闘士の宿命とはいえ、彼女たちは本当に納得しているのだろうか。
〈……アイオリアは、魔鈴の素顔、見たことあるのかしら?〉
 などとボンヤリ考えた時だった。コンコンと軽いノックの後、直ぐにドアが開いた。
「夜食をお待ちしました、アテナ」
「あぁ、シャイナ。悪かったね。アテナ、お食べになりますか」
 だが、沙織には反応がない。寝ているのか? しかし、目は開いている。
「アテナ?」
「ハ、ハイッ!? な、何かしら、魔鈴。あら、シャイナ?」
「……大分、お疲れのようですね。お食事はやめて、直ぐに寝《やす》まれますか、アテナ」
 窺っていたのはシャイナの方だった。ライバルとも思う魔鈴と間違われたのには一寸だけ、頭に来るのかもしれない。
「ゴ、ゴメンなさい。あんまり気持ちがよくて……」
 半分トリップして、妙なことを考えてしまった気もする。急に恥ずかしくなり、頬に熱を覚える沙織だった。
「それで、お夜食は?」
「頂きますわ。折角、シャイナが用意してくれたんですもの」
「では、どうぞ。魔鈴、あんたも食べるだろう?」
「へぇ、私の分も用意してくれたのかい」
「序でだよ。序で」
「ハイハイ、それじゃ、ありがたく」
「コーヒーと紅茶、どっちがいい」
「あんたに任せるよ」
 二人の軽口の応酬を耳にしなから、沙織は自分のグラスを見る。もう夜半に入り、直ぐに寝ることを考えてか、オレンジ・ジュースが用意されていた。
〈気遣いは嬉しいけど、せめて紅茶くらいは……〉
 とにかく、過ぎるくらいに色々と心配してくれるのは沙織が女神アテナだから、に他ならない。
 魔鈴とシャイナの腹を割ったような、遠慮のない会話が実に楽しげ(二人は幾らか毒吐いてるが)で、沙織は心底、羨ましいと思う。とはいえ、どんなに望んでも、女神である限り、対等に接してくれるはずがない。

 夜食のサンドウィッチを摘みながら、二人の様子を窺う。大した距離ではないのに、『距離』を感じるのも仕方のないことなのか。
「紅茶にしたのかい」
「まぁね。実はホラ…、いいモンがあるんだよ」
「あぁ…、なるほど」
 何やら、ヒソヒソと話している。
「でも、護衛中に拙いんじゃないかい」
「大丈夫。紅茶に一寸、垂らしたくらいで、どうにかなるわけないだろう。あんたも私も」
「そりゃ、まぁね」
 何の話だろうか。沙織は静かに立ち上がり、二人に近付く。素足のままでもあったので、長い毛足の絨毯では全く音など立たない。普通なら、考えられないが、顔を寄せ合って、小さめのボトルをカップに傾けている二人は沙織に気付かなかったのだ。そして、
「私にも紅茶、頂けるかしら」
「え? ア、アテナッ!?」
 沙織は話しかけるのと同時に手を伸ばしていた。二人分しか用意されていないカップの一つをさっさと奪うように取ってしまう。この辺はやはり“天上天下唯我独尊《お嬢様》”的行動だ。
 慌てた二人が止めるも遅かった。はしたなくとも、女神様は立ったまま、紅茶のカップに口をつけてしまったのだ。
「あら? 少し苦いかしら」
「アテナ! それ以上はお止め下さい」
「そっ、それには──」
「まぁ、いいわ」
「「いけませんっ」」
 聞いちゃいない;;; ソファに戻ると、サンドウィッチの残りを平らげ、勿論、紅茶も飲み干してしまった。……そして、

「魔鈴! シャイナ!! 紅茶のオカワリィ〜♪」
「なーんか、フワフワするぅ」
「気持ちイイ〜」

 ……見事に、酔っ払ってしまいましたとさ。
「あ〜ぁ、アテナを酔わせるなんて、拙いよねぇ」
「さ、さすがに、一寸。誰かに知られたら、大変だわ」
「今夜は部屋から出さなきゃ、大丈夫よ」
「そうね。それにしても──」
「もぉいっぱーい☆」
 二人は顔を見合わせ、嘆息した。
「「弱すぎ;;;」」

「味が違う! ねぇねぇ、さっきのボトルでしょ? あれ、入れて」
「駄目ですよ、アテナ。これ以上は」
 ブランデーですから……と、はっきり言えないところが弱い。もう、私室に引き籠もっているとはいえ、護衛中には違いない。なのに、少しとはいえ、ブランデー入り紅茶を飲もうとしていたとはさすがに言えない。しかも、二人にしたって、日本での飲酒は違反だぞぉ。
「……弱いくせに、酒好きなタイプなのかも」
「将来が楽しみね……なんて、言ってる場合じゃないか。あっ」
 ボトル、奪われました★ 聖闘士の不意を衝くとは時々、信じられないことをする女神様だった。(尤も、黄金聖闘士が渾身で投擲した槍を、見もせずに掴むような戦女神だからなぁ)
「何やってんだよ、シャイナ! アテナ、いけませんっ!!」
 ダバダバッ、と紅茶の味なくなるくらい、入れているではないかっ!? 飲んだら、間違いなく卒倒する。
「いっそ、飲ませて、このまま眠って貰った方が良いんじゃない?」
「バカ言わないでよ。アテナのお体に障りでもしたら、どうなるのよ。後で、アイオリアたちに殺されるのはゴメンだよ」
 大抵のことには動じず、大らかと見える黄金聖闘士たちだが、こと女神沙織に異変あらば、殆どが豹変すること疑いない。
「アイオリア? ねぇ、魔鈴。一寸、聞きたいんだけど」
 今正に、ブランデー入り紅茶(というよりは紅茶入りブランデー?)を飲もうとしていた沙織が何故か、思い止まってくれた。
「ハ、ハイ。何でしょうか」
 尋ねつつ、意識が逸れたのをこれ幸い、さり気なーくカップを預かる。直ぐにシャイナに渡し、沙織から遠ざける。その時、カップの中味を少しだけ啜ったシャイナが顔を顰めたほどだった。
「ねぇ、魔鈴。貴方、本当にアイオリアと付き合ってるの?」
「…………ハイ?」
 何を聞かれたのだろうか、と魔鈴が茫然とした。シャイナも危うくカップを落としかけた。魔鈴が持ったままだったら、間違いなく高価な絨毯を汚していただろう。
「ねー、どうなのぉ、魔鈴?」
「ど、どうって……アテナ?」
 返答に窮するという体験を初めて味わう魔鈴に、沙織はにじり寄り、酔いに潤んだ瞳で問い質してくるのだ。
「魔鈴…。アイオリアのこと、好き…なの?」
「アテ……」
 コテン……
 そこで、電池切れのオモチャのように、沙織は魔鈴の膝の上に丸まってしまう。魔鈴とシャイナが窺うと、スヤスヤと寝息が聞こえる。どうやら、眠り込んでしまったようだ。

 盛大に溜息をつく魔鈴。
「ハァ〜、驚いた。何なの、一体」
「何のも何も、気になってんだろう。というか、本当だったんだね。アテナがアイオリアのこと好きらしいっての」
「…………」
 魔鈴が複雑そうな顔をして、膝の上の沙織を見下ろすのに、シャイナも苦笑する。
「で? 実際、どうなんだい。アイオリアと付き合ってるわけ?」
「何だい、シャイナ。あんたまで、そんなこと気にするなんて。青天の霹靂ものだね」
「セイテンノヘキレキ?」
「真っ晴れに、いきなり雷が鳴るような大変事ってこと」
「……あんた、それ、惚気に聞こえるよ」
「ハ? バッ、馬鹿。日本じゃ、普通の言い回しだよ。他意なんか、あるかい」
 雷──雷撃といえば、獅子座のアイオリアの必殺技に通じる。そこを指摘され、些か慌てた魔鈴が少し動いたので、沙織が小さく声を上げた。
 とりあえず、二人は沙織をベッドに横たえた。ドレスだけは脱がせ、きちんと布団も被せる。
「二日酔いとかならなきゃいいけど」
「さすがに、そんなには飲んでないだろう。で、魔鈴。さっきの話だけど」
「はぁ〜? あんたもしつこいね。まさか、星矢からアイオリアに乗り換えたいのかい」
「な…っ。あんたこそ、何、馬鹿なこと言ってんのさ」
「だって、シャイナ。あんた、アイオリアにも素顔見られてんだろう? でも、殺そうとはしてないしさ」
「黄金聖闘士を私が殺せるわけがないだろうがっ!」
「あんたの性格なら、敵わないまでも、意を示すために、挑みそうなもんだけどね」
「あの時は……私も結構、重傷だったし、切羽詰まった状況で、気が回らなかったんだよ。今となっちゃ、それこそ今更だし。アイオリアどころか、紫龍や氷河にも見られてるんだよ」
 そういえば、そうだった;;; これだけ他の聖闘士に素顔を見られている女聖闘士もいないかもしれない。一寸だけ遠い目をしている。とにかく、シャイナの仮面はやたらと飛ばされたり、壊れたりする。どんな目に遭っても、仮面だけは外さない(外れない?)魔鈴とは大違いだ。
「でもまぁ、頼まれてはいるけどね」
「頼まれてる? 誰に。まさか、アテナじゃ」
 そんなはずないか。それくらいなら、直接、聞いてくる。……というか、酒の勢いで先刻、聞かれたばかりだった。
「だから、他にもアイオリアのこと、気にかけてる娘《こ》は結構、いるんだよ。でも、あんたと噂になってるから、本当のところはどうなのかって、私に確めてくれって、頼んでくるんだよ」
「何で、あんたに。自分で聞けばいいのに」
「怖いんだろう。玉砕するのが」
 その可能性が大だとは思われているらしい。つまり、本当にアイオリアと魔鈴が付き合っている、と。
 魔鈴は嘆息し、髪を掻き回した。
「最初から諦めてるってことかい。もし、私らが付き合っているとして、それでも、想いをぶつけようとは思わないんだ」
「相手が相手だからね」
「どういう意味よ」
「“逆賊の弟”って、ずっと言ってきたからね。気が引けるんだよ。今更って、思うわけさ」
「ふうん? なら、あんたに頼むのもやっぱり筋違いだね」
 腹立たしげに言い捨てると、シャイナも反応に困っている様子だ。
「にしても、あんたも随分と下らんことに親切じゃないか。頼まれて、聞き出そうだなんて」
「勝手に頼んできてるだけだよ。引き受けたつもりなんか、更々ないしね」
「その割には、しつこいじゃないか」
「その程度の好奇心は持ち合わせているんでね。でもね、魔鈴」
 不意に声も表情も真剣さを帯びたのに、魔鈴も態度を改めて、見返す。
「私を当てにしている連中はともかく、アテナは……沙織お嬢さんは御自分で、尋ねられたんだよ。酒の勢いってのもあるけどさ。だからこその本音だろう。だから、魔鈴。あんたも、ちゃんと答えてさし上げるべきじゃないかい」
「…………そうかもね」
 長い沈黙の後、ポツリと漏れた呟きには普段の快活さが弱かった。


★        ☆        ★        ☆        ★


 翌朝、沙織の目覚めは決して快適とはいえなかった。
「シャワーも浴びずに寝るなんて」
 お嬢様としては全く正しくない。しかも、やけに喉の渇きを覚える。ベッドサイドに用意してある吸い飲みをあっという間に空にしてしまった。
「お目覚めですか、アテナ。水をお持ちしました」
「おはよう、魔鈴。有り難う。何だか、今朝は妙に喉が渇いて。よく解ったわね」
 それはまぁ、慣れないアルコールを摂取したまま寝落ちしたのだから……。
「ところで、私…、夕べはいつの間に眠ったの」
 答えようもない。絡み酒?の挙句に、この膝の上で寝落ちしました……なんて^^;;;

『あんたも、ちゃんと答えてさし上げるべきじゃないかい』

 とはいえ、今の沙織の様子からして、全部忘れているようだ。
〈私も、忘れたいね〉
 あんなことを聞かれたことも。
 大体、女神沙織は本当に、あの獅子座のアイオリアを好きなんだろうか。いや、好意を持っているのは解る。ただ、それがどういった種のものなのかが今一、掴めない。
 というのも、沙織に尋ねられた自らのアイオリアへの気持ちというものが曖昧だからだ。
 好ましい男だとは思う。聖闘士として尊敬もしている。けれど、それ以上の想いがあるのか、と問われると正直、困る。それ以上とは何だ?

『アイオリアと付き合ってるの?』

 付き合っているといえば、確かにそうだ。聖闘士として、稽古には随分と付き合ってもらった。
 そんなことを言ったら、アイオリアに好意を持つという娘たちは怒るだろうか。彼女たちが気にする意味が『どういう意味』かくらいは、魔鈴とて理解しているつもりだが。
〈ホント、困ったな〉
 勘弁してほしい。自分は、『それ以上』のアイオリアとの関係とやらを望んでいるとは……今は思えない。それとも、いつか、そう望む日が訪れるんだろうか。
「魔鈴? どうしたの」
「え。い、いえ。あの…、アテナ。夕べのことなのですが」
「夕べ? 何かあったかしら」
「ハ、アテナの御質問に……」
「私、何か聞いたの?」
 改めて、そんな風に問われると却って困る。
「魔鈴?」
 一寸だけ不安そうに、それでも、真直ぐに見上げてくる少女に、魔鈴は密かに嘆息する。
 ただの少女ではない、多くの人々に責任のあるグラード財団総帥であるだけでなく、人知れず、全世界の人という人なる存在をその懐で護る女神アテナ……。
 それだけの重責を、この細い肩に負っている。
 ただの少女ではない──けれども、やはり一人の普通の少女に過ぎないのだ。せめて、その心くらいは護ってやりたいと望んでしまう。
「あの…、魔鈴?」
「お答えだけしておきます。最初の質問には、いいえ。次のは──秘密です」
「……何なの? よく解らないわ」
「でしょうね。でも、お答えはしましたから」
「ちょっ…、魔鈴。私、何を聞いたの」
「それは──シャイナにでも聞いて下さい」
 如何にも困ったように言うと、それ以上は沙織も尋ねてこなくなった。



 自分は一体、何を問うたたのか──妙なことを聞いたかもしれないと思うと、シャイナに尋ねるのも躊躇われた。かなり恥ずかしいことを口にしたような気だけはしていたのだ。
 結局、確かめることもできないまま、沙織は聖域へと戻った。
 女神の帰還は聖域を更に輝かせる。聖域を包む光の結界も一層、輝きを増すのだ。
 だが、女神自身がその表情《かお》を輝かせるには一人の黄金聖闘士の出迎えがあれば、十分だった。

 アテナ神殿は十二宮を上がった、更なる頂上部にある。
 当初は沙織が帰る度に、聖域中が全ての業務を止め、教皇を筆頭に出迎えに出ていたものだが、非効率だと説いて、止めさせた。
 聖域の中心に聳え立つ十二宮に向かう沙織は途中の道すがら、巡回・警備につく兵や闘技場で鍛錬に励む聖闘士候補生にも声をかけた。皆、感極まり、更なる忠勤を励む。
 そして、幾つかある闘技場の一つで、
「アテナ、お戻りなさいませ」
「アイオリア……。えぇ、ただいま、戻りました」
 傍で見ていても、そのはにかむ様は可愛らしい。と周囲の者は戦女神の愛らしさに感銘すら受けるが、当のアイオリアには全く通じていないようだ。それも仕方あるまい。彼にとっては、それが沙織の『極自然ないつもの反応』なのだ。見慣れていては特別なものとも思うまい。
〈アイオリア様。本当に、鈍すぎますTT〉
 聖闘士候補生すらが、内心では滂沱の涙を流していることなど、考えもつかないだろう獅子座の黄金聖闘士は聖域に戻り、仮面姿に戻った護衛の女聖闘士たちを見遣り、労う。
「魔鈴、シャイナ。アテナの護衛、御苦労だったな」
「これも聖闘士の務めだ。あんたに礼を言われることでもないさ」
「そっちこそ、連中の面倒見てもらって、悪かったね」
 遠巻きにしている候補生たちを顎で示す魔鈴に、アイオリアは苦笑した。
「いや、皆の成長を見るのは楽しいよ」
「やっぱり、あんたは師匠向きだね。個人的に引き受ける気はないの?」
「一人に絞るのは難しいな」
 アイオリアの稽古を望む候補生は多い。その他の兵たちも最近はよく希望してくるそうなので、特定の弟子を持つことはないだろう。

 これも極自然に、親しげに会話を交わす二人を見つめていた沙織は少し切なげにも見えた。
「シャイナ、十二宮に参りましょう」
「え? ですが、魔鈴は」
「いいのですよ。貴方が一緒なら、シオンやサガも文句は言わないでしょう」
 魔鈴を残して、十二宮へと歩き始めた沙織には当然、アイオリアと魔鈴も気付く。
「アテナ…!」
「お待ち下さい、アテナ! アイオリア、一寸、来て」
 アイオリアの腕を引っ張り、沙織の元に急ぐと、思わぬことを言ったのだ。
「アイオリア、私たちの代わりに、アテナをアテナ神殿までお送りして」
「は? 俺がか。だが……」
「どうせ、十二宮に上がるのなら、白銀聖闘士《わたしたち》より黄金聖闘士のあんたの方が適任だろう」
「それは……しかし、護衛の務めはアテナ神殿までお供しなければ、終わったとは」
「固いこと言いなさんな。黄金聖闘士《あんた》に預ければ、この上ないだろう。ホラ、行った行った」
「マ、魔鈴;;;」
「あいつらの面倒はちゃんと引き継ぐから。あ、これ、荷物ね」
 背中を押され、荷物を押し付けられた上で沙織の隣に追いやられる。
「魔鈴、あんた」
「アテナ、この先は獅子座のアイオリアがお供しますので、私たちはこれにて」
 それこそ、思わぬ成行に些か呆けている沙織に一礼し、魔鈴は候補生たちの待つ方へと歩いていった。どうすべきか迷っているシャイナをも促す。
「あんたも付き合いな、シャイナ」
「でも──」
「構いませんよ、シャイナ。有り難う。二人とも、ゆっくり休んで下さいね」
「ハ、ハイ。アテナ。では」
 やはり一礼し、シャイナも魔鈴の後を追う。
 少しだけ茫然としているアイオリアを沙織は窺う。
「アイオリア。申し訳ありませんけど、アテナ神殿まで、御一緒してもらえますか」
「──承知致しました。アテナ」
 気を取り直したようで、微笑を返され、沙織は僅かに頬を赤らめ、顔を伏せた。
 少しだけ遅れて従うアイオリアが気付くことはなかった。


★        ☆        ★        ☆        ★


「……この馬鹿。なーに、敵に塩、送ってんのよ」
 仮面がなければ、苦虫を噛み潰したような素顔を拝めるかもしれない。
「そんなんじゃないって。ただ、何というか、応援したくなるのよね」
「余裕ってわけ? 絶対、取られるわけがないって、自信かい」
「違うわよ。取る取られるも何も、そもそも私のものでもないじゃない」
 誇り高き黄金の獅子は、誰のものでもないのだ。
「……そうなの?」
「そうだよ。……それはアテナも同じだけどね」
 神であるアテナが人のように恋を語るなど、俗すぎると神官などは良い顔をしないのは解っている。
 けれど、人の身に神を宿した少女の、人としての仄かな想いくらい、そっと見守ってやりたいと望んでしまう。
 恐らく、適うことはない。しかも、相手は女神の聖闘士。それも黄金聖闘士だ。女神である限り、成就を望むべくもない心の内に住まわせるだけの想いならば、そっとしておいてもいいではないか、と。

「でもさ、魔鈴。本当にそれで済むと思う? 育った想いはいつかは心から溢れてしまうかもしれないよ」
「あんたみたいに?」
「うっ。私のことなんか、どうでもいいんだよっ」
「そうかい? でも、あんただって、最初から星矢に受け入れられようとまではしなかったんじゃないかい」
 言葉もない。言われてみれば確かに──星矢に告白はしたが、彼の心を欲しいとまでは望まなかった。ただ、ひたすらにあの純粋な少年を守り、力になりたいと望んだだけだった。
「結局のところ、どう転ぶか解らないだろう。もし、アテナがアイオリアに……心を打ち明けるようなことになったとして、アイオリアがどうするかもさ」
「もし…、もし、アイオリアがアテナを受け入れたら、あんた、どうするのさ」
「そりゃあ、勿論、祝ってやるよ。神官たちがどんな文句を言ってもさ。教皇も認めないかもしれない。でも、私くらいはね」
「……本気なんだね」
「あんな顔、見せられちゃね」
 魔鈴は苦笑し、腐れ縁ともいえる僚友を見返した。
「シャイナ。あんたももう一回、星矢に向き合ってみたら? 人のこと、どうこう言うよりさ」
「なっ☆ なななななっ★ 何なの、いきなりっっ!?」
 仮面がなければ、今度はユデダコのように真赤になっている様を見られるだろうか。
「いきなりも何も、今度は落とすつもりでアタック(古ッ★)してみなって言ってんのよ」
「オトッ!?」
「前に告ったっても、あんた『迷惑だろう』とか言ったんだって? 幾ら何でも、そりゃないよ」
「そ…かな」
「そうだよ。ハナっから身を引いてて、どうすんのさ。その気があったって、男の方も手が出せなくなっちまうよ」
 手を出すも何も、相手の星矢など、そういう意味ではまだまだお子様もいいトコだが、要は心構えか。考え込んでしまったシャイナだが、不意に我に返る。
「なっ! 何で、あんたにそんな忠告《こと》言われなきゃなんないのよっ。つーか、あんたこそ、自分はどうなんだよっ。本当に本気で、アテナを応援する気? アイオリアのこと、どう思ってんのさ」
「どうって……」
「逃した魚の大きさに、後で悔やんだって知らないからね」
「言ってくれるじゃないのさ」
 白銀聖闘士でも屈指の実力者であるはずの女聖闘士二人──しかし、やはり年若い女性であることも間違いなかった。
 少しだけ離れたところで、聖闘士候補生の少年たちが、どうしたものかと窺っているのも忘れて、言い合っていた。


 十二宮の階段をひたすらに登る。アテナ結界のために宮を越えてのテレポートができない十二宮内では女神も黄金聖闘士も、とにかく、己の足で歩くしかない。
「アテナ。お疲れではありませんか」
「大丈夫です。私なんて、まだ若くて丈夫ってくらいしか、取柄はありませんから」
 ニッコリと笑って、先に階段を一歩一歩、登っていく沙織に、「抜け道を使いますか」という言葉をアイオリアは飲み込んだ。
 とにかく、沙織は聖域を統べる女神アテナとして、範を垂れようと潔癖であろうとしている。その姿勢は見事だが、自らに課すものが大きすぎると思う。
「アテナ……あの」
「ハイ?」
 振り返り、階段の上から見下ろしてくるのはまだ十四歳の少女なのだ。
「いえ、その…。黄金聖闘士《われわれ》の前でまで、無理をなさらなくても宜しいのですよ」
「え?」
「余り、無理をなさらないで下さい。心配です」
 地上の民を護る戦女神にとっては──それが己がために戦う宿命にある聖闘士すらもが護るべき対象となる。そのために、この少女は独りきりで、戦うべき神々に立ち向かおうとまでしたのだ。
 それがアテナなる神であると解っていても尚、無力だった己に歯噛みする悔しさは未だに忘れられない。

 その時のアイオリアの表情に、沙織は胸を衝かれた。
 自分が如何に無理を、というよりは無茶を重ねてきたか。海界でも、冥界でも……その都度、自分は多くの人々に心配をかけてきたのだ。
 目の前の、この優しい人にも……。
 ポセイドン神殿に赴いた際には、聖域に残された黄金聖闘士たちはどれほどの不安を抱え続けたことだろう。アイオリアは長き不遇を分かちてきた友人《ムウ》と対峙してまで、海界に向かおうとしたのだ。
 それは射手座の黄金聖衣が聖域を飛び立ったがために、辛うじて回避されたが。
 勿論、女神の聖闘士が女神を案じるのは当然のことだろう。それでも、その気遣いを格別に嬉しく覚えてしまう。勘違いしてはいけない、と思っても、心は躍る。
 心を鎮めようと僅かに顔を伏せる。しかし、階段を後から登るアイオリアが訝しげに見上げてくる。
「アテナ? どうされました」
「い、いえ。何でも」
 いけない。ますます、火照ってくる。多分、赤くなっているはず。見られたくない……。
 といって、俯いても、下から見上げるアイオリアに隠せるはずもないのだと、気付かずにいる。更にアイオリアの不安を掻き立てるとも……。
「アテナ。やはり、お疲れなのでは? 白羊宮を借りて、少しお休み下さい。今、ムウに──」
「え? いえ! 大丈夫です」
「御遠慮なさらずに。ムウにお茶を用意して貰いましょう。彼の淹れるお茶は絶品ですよ」
 何だか、もう決めてしまったようで、先触れ宜しく、白羊宮に報せに向かうアイオリアの押しの強さに沙織は困惑する。
 テレパシーも使ったらしく、小さな影が迎えに出てくる。
「沙織さーん、お帰りなさーい」
「ただいま、貴鬼。元気にしていたかしら」
「ハイ! 毎日、ムウ様のお手伝いに励んでいます」
 少年はムウの弟子であり、幾多の戦いでも色々と手伝いに文字通り、飛び回っていた。ポセイドン神殿での戦いでは星矢たちの元に天秤座の聖衣を運び、また、護るために深手を負いもしたのだ。
 聖闘士ではないが、立派な女神の闘士である。
「アテナ。御無事で何よりです」
 次いで、かけられた涼やかな声の主こそが白羊宮の守護者、牡羊座のムウだ。
「大袈裟ですね。戦いに出向いていたわけではないのですよ」
「それもそうですね」
「ムウ。アテナに一服さし上げてくれないか。少しお疲れのようだから」
「えぇ。構いませんよ」
 相変わらず、当人は差し置かれたまま、話が進められるのに沙織は慌てた。
「あ、あの、ムウ。気にしないでいいのよ」
「いえいえ。是非、召し上がって頂きたいですね。グラード財団総帥たる御方のお口に合うかどうか」
 ニッコリ笑いながら、……挑戦?
「ムウ、ワザとらしいぞ。素直に、味わって頂きたいと言えばいいだろうが」
「ハイハイ。どうぞ、アテナ。お入り下さい。歓迎致します」
「沙織さん、どうぞ。ムウ様はね、お菓子作りも上手なんだよ」
「そ、そうなの?」
 さすがは長年、人外魔境で独り暮らしを続けていただけのことはある──と感心すればいいのか? とにかく、侮れない人物だと再認識する。
 結局、断りきれずに白羊宮に入っていく。

 出された紅茶と手作りお菓子!?は本当に美味しかった。ムウの腕前を堪能しながら、ふと想像する。
 聖域の十二宮などではなく、アテネの街でも日本でもいい──洒落たお店で“この人”と二人だけで……などと、ついつい夢見てしまうくらいは許して欲しい。
 我らが女神──しかし、十四歳の華も恥らう乙女なのだから……。



 またしても、オチで時間が……六月に間に合わんかった★ とりあえず、『小宇宙なお題』半分達成記念☆ つーことで、シリアスよりは楽しい?話にしようとしたら、コレになりました^^ 三ヶ月ぶりの『沙織→アイオリア』第2弾ですよ。
 さぁ、どうだ!! てな沙織の恋バナ。果たして、進展するのか? 絶対、これ以上は無理!な気がするけど;;;
 大体、沙織と魔鈴、どっちが本命なんだ。輝は? どっちもいいなぁ。とかマジに思っていたりして☆

2007.07.02.

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