『聖闘士星矢』 お礼SS No.2


 所謂、『十二宮の戦い』の後、各宮の再建と修復にはかなりの時間と労力がかかると予想された。
 中心となっていた牡羊座のムウは、その全てを調べ、嘆息し、生き残った黄金聖闘士たちを睨んだものだ。何処も彼処も無傷な宮は皆無に等しかったためだ。
 勿論、窘《たしな》められた黄金聖闘士たちの殆どは、さすがに反論せずに恐縮し、率先して、修復作業に従事していた。

 とりあえず、結界点の固定が済むと直ちに十二宮結界も敷き直された。
 獅子座のアイオリアも勿論、今は獅子宮に在り、自宮の修復作業に時間を費やしていた。
 そして、守護結界の強化を為し終えた時、訪れたのはムウだった。
「相変わらず、見事ですね」
「……何か用か、ムウ」
 ムウが聖域に戻ってからというもの、まともに会話をしていない。小宇宙のみで接触していた頃の方がよほど、親密だったように思える。
「作業の進み具合を確認して回っているんですよ。こちらはどうですか」
「大方は済んだ」
「そのようですね」
 確かに、獅子宮は嘗ての威容を取り戻しているようだった。
 思い出すだけでも、頭痛がするほどに、獅子宮の破壊度は酷かったものだ。

「アイオリア、一つだけ言っておきたいのですが」
「何だ」
「次に敵の襲撃があった時は是非とも、獅子宮の手前で迎撃して下さい。中ではなく」
「…………は?」
 アイオリアが呆気に取られた顔をしたのも無理はなかった。
「貴方の技は周囲への被害が大きすぎます。また、宮を壊されるのも面倒ですから」
 お願いしますね。と付け加え、上へと登っていく。


「白羊宮を突破されるのが前提なのか?」
 暫くしてから、アイオリアは呟いた。勿論、答えはない。





『聖闘士星矢』 お礼SS No.5

  既に異変は残る黄金聖闘士は気付いている。この後は、隙を突くようには突破できないだろう。況してや、次の宮は獅子宮──守護《まも》る黄金聖闘士は獅子座のアイオリア……。

「聞けっ、獅子の咆哮を! ライトニング・プラズマ!!」
 無数に走り抜ける雷光は愚かにも、真正面からの突破に出た冥闘士を完膚なきまでに打ち据えた。冥衣が弾け飛び、主はズタズタに引き裂かれ、勢い余ってか、冥闘士が駆け上がろうとしていた階段まで切り裂いた。

『恐ろしいほどに絶好調だな。アイオリア』
『うむ。しかし、相変わらず、傍迷惑な技だな』
『貴方に言えることですか、シュラ。聖剣《エクスカリバー》とて、大地まで割るのだから、似たようなものでしょう』
『なっ…』
 人知れず、小宇宙通信で囁き合う三人──サガ、シュラ、カミュは、しかし、どうしたものかと思案する。
 本気になった獅子は正しく、百獣の王そのものだ。普段、抑えに抑えている分、一度、枷を外した時の破壊力は凄まじい。
 何があろうと、アテナ神殿まで行く。たとえ、立ち塞がる嘗ての同胞を手にかけようと──そう決意した彼らではあったが、相手がアイオリアとなると、夫々の理由から、決意も揺らぐ。

『こうして見ると、本当にアイオロスに瓜二つだ……』
『済まん、アイオリア。だが、冥界でもアイオロスは会わなかったな。何処に行ったんだろう』
『あぁ。あのアイオリアがあんなに溌剌として……私は嬉しい! ミロも喜んでいるだろうな』

 何だか、自分たちの置かれた状況を忘れて、大分、見当違いの方向の感慨に浸っている三人だった。
 事態が先に動いたのは三人がある意味、呆けていたからだろうか。ミミズ……もとい、ワームのライミが地下に潜り、先に立つ残りの冥闘士が獅子宮へと突撃をかけたのだ。
 僅かに遅れて、続く三人は「来るかっ」と翻るマントを外し、身構えるアイオリアへと迫る。次第に縮む距離の中、一瞬、アイオリアが途惑いを見せた。その刹那、互いの小宇宙が感応したのが判った。
 それでも、それはほんの一瞬のこと。アイオリアは直ぐに迎撃態勢に移ったが、僅かとはいえ、隙となったのもまた事実。地下からアイオリアを囲むように突き出した幾本もの触手──ライミのものだ──が若き獅子を捕え、締め上げたのだ。
 雁字搦めにされたアイオリアはさすがに動きが取れなくなる。
 一人の冥闘士がトドメを刺そうとしたが、三人は冥衣のマスクの下で、唇を噛みしめながら、手を出せない。出すわけにはいかなかった。
 だが、獲物をいたぶることを欲したライミによって、その場を抜けていく。

「ま、待て…っ!」
 五体がバラバラになりかねない力で締め上げられているはずだが、アイオリアは意識を手放しはしなかった。
『待て、お前たちは……!?』
 小宇宙による咄嗟の呼びかけに、だが、三人は振り返るわけにもいかなかった。
 冥闘士たちとともに、一気に獅子宮を抜け、処女宮へ続く階段を駆け上がっていく。


 他の冥闘士たちは獅子座のアイオリアの命運も尽きたと信じているようだが、彼ら三人の見解はまた別だ。
『あの獅子が、あんなミミズもどきに、大人しくやられるはずがない』
 案の定、処女宮に達する前に、背後の獅子宮で爆発的な小宇宙が上がった。
 あっさりと、決着はついたらしい。

 彼は、追ってくるだろうか。いや、確実に追い縋ってくるだろう。
 護るべき宮の突破を許し、しかも、こちらの正体にも感付いた節があった。留まっているはずがない。

『……できれば、彼とは戦いたくはないが』
 恐らく、それは叶わぬ願いだ。

 死闘の舞台は処女宮に移る。





『聖闘士星矢』 お礼SS No.11


 怒りと哀しみと──身の内に沸く衝動を持て余し、アイオリアは沙羅双樹の園へと続く扉脇の壁に拳を叩きつけた。勿論、黄金聖闘士の力の前に、あっさりと壁には穴が開いた。
「シャカ…。この仇は必ず」
 敵となった嘗ての同胞──サガ、シュラ、そして、カミュ。因縁ある二人はともかく、カミュさえ、最早、許せるものではなかった。姿を現したら、即刻、シャカの後を追わせてやると、拳を固めた。
 だが、その時、
「アイオリア。何てことをするのですか」
「……何? 何のことだ」
 ハラハラと涙していたムウが、何に気付いたのか、怒りの滲んだ言葉を放った。苛立っているのか? それはアイオリアも同じだ。つい口調がキツくなる。
 だが、次のムウの言葉はアイオリアの予想を、空の月にまで届きそうなほどに、軽ぅ〜く越えていた。
「何を穴なんか開けているのですか。人の宮を破壊しないで下さい」
 アイオリアだけでなく、居合わせた紫龍までが絶句したのは言うまでもない。
 ムウの吹っ飛んだ思考論理には、それなりに耐性があるが、さすがに今回は極め付きだ。
「全く、貴方って人は。獅子宮も随分、あちこちに穴開けてくれて──趣味ですか」
「んなわけあるかっ! あれはミミズの仕業だっっ」
「馬鹿おっしゃい。どんなミミズが、あんなバカでかい穴開けるってんですか。壁から天井、柱に床まで」
「喩えだ喩え! 冥闘士に決まってるだろうが!! ワームのライミとかいう」
 いや、ワームの仕業は床だけかもしれないが……^^;;; あ、柱もか?
「ホゥ、そうですか。ということはアイオリア。貴方、私のお願いを全然、聞いていなかったのですね。獅子宮の手前で迎撃して下さい、と言ったはずですよ」
「迎え撃ったさ。ちゃんと、外のテラスで──」
「そのようですね。階段も派手に切り刻まれていましたからね」
「お前! 俺にどうしろと言うんだ。レオの必殺技を封じろとでも言うのか」
「別に、そんなことまでは──」
「言ってるも同然だろうがっ!!」
 紫龍はオロオロとしながらも、口を挟めない。どう考えても、話が明後日どころか、一週間くらいは別の方向へ向かっている。しかし、目が見えないだけに感覚は研ぎ澄まされているのは厳しい。二人の小宇宙が、こんなんでも高まっていくのを感じてしまう。
 それと、他に三つの小宇宙が──ハッとする紫龍。
「ちょ…、ムウ、アイオリア。喧嘩などしている場合では──」
 勿論、聞いちゃいない。

「とにかく、不覚を取って、中に入り込まれたわけですね」
「お前はどうなんだ。そもそも、白羊宮を突破されたのはお前だぞ!」
「……言うに事欠いて、それですか。何でも、私が最初に──非常に不公平ですよね」
「そういう星回りなんだから、仕方ないだろう。だから、言ったじゃないか。何も守護宮に留まることはないと。各個撃破されることもあるわけだぞ」
「黄金聖闘士が守護宮を離れられないのは神代からの掟です。それに、聖闘士の戦いは一対一──」
「相手が徒党を組んできているのに、馬鹿みたいに拘ることか!」
「馬鹿!? 貴方に馬鹿とか言われたくありませんよ」
「何だと! どーゆー意味だっ!?」
「そのまんまの意味ですよ」
 言い争いは留まることを知らない。

「……こいつら、何やってるんだ」
「口喧嘩だろう」
「あぁ…、アイオリアが言いたいこと言ってる。私は──」
「カミュ、止めておけ。頭が痛くなってきた。行くぞ」
「放っておくのか」
「眠れる獅子やら羊やらを相手にしたいか?」
 互いが互いを相手にしてくれている今はチャンスだろう;;;
 三人の元黄金聖闘士は、こそこそと先へと向かおうとする。
 気付いているのは紫龍だけだが、無策に飛びかかるのは躊躇われたのだ。
「二人とも、いい加減に──」
「そう簡単に通すと思うか。貴様らこそ、ここで皆殺しだっ」
 怒れる蠍の叫びと小宇宙に、全員が注視する。勿論、口喧嘩中の二人も。
 その登場が余計、混乱を深めたか、それとも、進展を齎すのか──……。

 直後、処女宮は完全に吹き飛ぶことになる。



 『星矢拍手三部作?』 …いや、まぁ、一応、オチがついたかな? ということで。バカ話なんだかシリアスなんだか、よー解らんです。特に『慟哭の三人』が……まるで、三馬鹿;;; 個人的には世話焼きタイプなカミュの反応がお気に。
 にしても、本当にロス兄ちゃんは嘆きの壁破壊まで何処に隠れていたんでしょう。動き回っていた射手座の黄金聖衣に憑いてたのか? でも、そうすると、『ポセイドン編』で、やっぱ勝手に飛んでった水瓶座の黄金聖衣にもカミュがってことになっちゃう?

2008.03.19.

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