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 『星矢・星影篇?』 お礼SS No.8
 「アイオロス!」「おー、新年おめでとう」
 「あぁ、おめでとう。じゃなくて! あれを何とかしてくれ!」
 「何とかって、何を」
 「だから! 何かとゆーと、飛んでくる。あのバカ猫だっ」
 「バカ猫……また、レオが泣くようなことを」
 「知るかっ。いきなり、人の頭の上に出てきやがって! 誰かに見られたら、どーするっ」
 「でも、君が喚んでるからじゃ」
 「喚んでないっ。そりゃ確かに、あったら便利かなーと思うこともないわけじゃないが……。いや! しかし、断じて喚んではいないぞっ。大体、捜査中に、あんなモン着けて、出て行くわけにはいかんだろーがっ」
 「あんなモンとは酷いな。至高の聖衣なのに」
 「至高も究極もあるかっ! とにかく、獅子宮の台座に括りつけるなり何なりして、簡単に寄越さんよーにしてくれっっ」
 「括りつけたって、無駄だ。振り切って、スっ飛んでいくよ」
 「少しは堪え性をつけさせろっ! ミャーミャー、ニャーニャー、煩いッたらありゃしない」
 「それくらい、君が好きなんだよ。役に立ちたいと思っているんだ。解ってやってくれ」
 「ワカライデカッ。この前なんか、帰れと言ったら、キャンキャン鳴いたぞ。何処の仔犬だっ、あいつは! 獅子じゃなかったのか!!」
 「それは一寸、見てみたい気もするな」
 「アイオロス!!!」
 「まぁまぁ。第一、俺は射手座だ。レオにどうこう命令はできんよ。主の君が躾けてやるしかないぞ」
 「躾って……本トに犬か猫かよ」
 「今年の目標だな。ま、気長にやることだ」
  後に『聖衣に最も愛された者』と称されることになる某獅子座の苦悩は尽きない。 
  
 
 『星矢・期間限定七夕篇』 お礼SS No.21
  暑さを纏わせながら、しなやかに真直ぐに、空の一点を目指すかに伸びる青い棒。その先には尖りのある葉が生い茂っている。「話には聞いたことがあるが、これが竹か」
 言われるままに立てかけようとすると、先端部が良く撓《しな》り、葉がシャラと擦れた。
 「何と言うか、不思議な植物だな」
 以前、やはり日本で目にしたアフロディーテが「エキゾチックで綺麗な植物だった」とか話していたのを思い出す。緑が好きな彼もかなり、興味をそそられたらしい。尤も「エキゾチック」という表現は今一、理解しにくかったが。目にしてみて、何となくニュアンスは掴めた──気がする。
 「感心ばかりしてないで、しっかり立てかけなよ」
 「あ、あぁ」
 魔鈴の指示通りに、真直ぐではなく、また傾き過ぎないように気をつけて、柱に固定する。
 弓なりに撓った竹は風に揺られ、シャラシャラと音を立てる。葉擦れの音だけでなく、その葉に吊るされた色取り取りの長細い紙も静かなハーモニーを生む。
 完成を見た姿に、飾り付けをした子供たちがワッと歓声を上げた。
 「折角だから、あんたも書きなよ」例の長方形の色紙を魔鈴に手渡されたものの、首を傾げるしかない。
 「何を書けばいいんだ」
 「願い事だよ。この短冊に書いて、星に願を懸けるのさ」
 「星に? 大体、これは何の儀式なんだ」
 「儀式だなんて、大仰だね。七夕の祭りさ。彦星と織姫がこの日、一年に一度だけ再会するのを祝うんだよ」
 「一年に一度? 一日だけなのか」
 「まぁね」
 肩を竦めながら、魔鈴は七夕伝説を説明してくれた。
 「ま、やるべきことを、きちんとやっていれば、引き離されることもなかったのにって思うけどね」
 何だか、身も蓋もないことを言っているような気がする;;;
  ともかく、短冊を見つめるが、さて、願い事とはどんなものにすればいいのだろうか。『アテナの御許、平安が長く続きますように』とか?
 「コラコラ、んなドデカイ願いがあるかい。書や裁縫の上達を願うのが元来の星祭なんだよ。もっと、身の丈にあった細やかなモンでいいんだよ。世界平和なんて願われても、彦星も織姫も困るだろうが」「そ、そうか?」
 細やかな願い、か…。もっと個人的な願いの方がいいということだろうか。
 ふと、傍らに立つ友人を見返す。日本にいるため、仮面姿ではなく、サングラスをかけている。
 そして、聖域に思いを飛ばす。仲間たちと、多分、周囲に迷惑をかけながら、自分の帰りを今か今かと待ってくれているだろう兄の姿が甦る。
  あの十三年の間、望むことはおろか、夢見ることすら叶わなかった光景……。細やかだが、本当に、何よりも幸せなこと。
 『大事な人たちと、いつまでも一緒でいられますように』聖闘士たる身には或いは大それた願いかもしれないが──……。
 「ま、いいんじゃない」サングラスの奥の瞳も口元も、笑みを含んでいた。
 微笑を返し、同じように笹に吊るす。
  シャララ……幾つもの願いが風に巻かれて、星空へと駆け上がっていった。
 
  
 
 『星矢・期間限定七夕奇譚篇』 お礼SS No.23
 「ところで、願懸けをする彦星と織姫とは、どの星なんだ」「あぁ、天の川を挟んだ、あの二つの明るい星さ」
 「……アルタイルとヴェガ? 魔鈴の星じゃないか」
 アルタイルは鷲座の一等星だ。一方のヴェガは琴座の一等星。
 「ま、そうだけど、ギリシャ神話と東洋の七夕伝説は関係ないからね」
 「それはまぁ、そうだろうが」
 「神話と私ら聖闘士の格付けだって、案外、関係なかったりするけど。獅子座のあんたが特別な黄金聖闘士なのは黄道十二星座に由縁するからだろう? でも、獅子座の伝説だと、ありゃ、ネメアの化け獅子だったよね。英雄ヘラクレスに倒された」
 「まぁな」
 「だからって、あんたがアルゲティより弱いってことはないもんね。現に前にも、聖衣もなしで──」
 「魔鈴、それは……」
 複雑そうな顔に、さすがに口を滑らしたと悔やむ。普段なら、気をつけているのに、日本に来て、少し気が緩んでいるらしい。
 「済まないね。悪気はないんだよ」
 殊更に明るく、広い背中をバンッと叩いた。おまけに、
 「尤も、神話云々なら、我らがアテナも結構、怖いとゆーか、えげつないこともしてるってゆーか」
 「魔鈴、何てことを言うんだ。調子に乗りすぎだぞ」
 「ハイハイ、悪かったね」
 自分のことよりも女神に関しての方が反応が大きいのが笑える。本当に真面目な奴。
 「ま、どこの神話も伝説も悲劇が多かったりするけど、七夕伝説は一応、ハッピーエンドなんだろうね」一年に一度、一日しか会えないが故に、相手が愛しくも、掛け替えのない大事な存在だと気付いたに違いない彦星と織姫。だからこそ、その一日をも、とても貴重なものと感じ、幸せを覚える。
 「だから、あんたの願いも聞き届けてくれるんじゃないかな」
 何気なく呟きながら、切なくも思う。
 今は私にだって、大事な存在はたくさんある。それでも、たった一つ、見つからないものもある。
  ポン…肩に置かれた手が光溢れる温もりを伝えてくる。見返すと、何故か、明後日の方を見遣りながら、
 「お前も願い事は書いたのか?」
 「え? そりゃまぁ……」
 「それなら、星が叶えてくれるかもな」
 らしくない科白に、笑ってしまう。気を遣わせるほど、顔に出ていたのかね。
 「──それにしても、よく晴れたね。今の日本は梅雨の時期だから、中々、七夕に星は見えないんだよ」「は? 星の祭を何故、そんな時季に」
 「元々は旧暦の七月にやってたからねぇ。大体、一月遅れくらい」
 「……本当に今日、再会できてるのか。その彦星と織姫は」
 「…………どうだろーねぇ」
 思いもかけない指摘に、答えようもない自分が妙に可笑しかった。
 「まー、信じてあげればいいんじゃない」
 「そうかもな」
 空を見上げる。
 瞬く星々の中、一際明るく輝く二つの星……。
 きっと、あの星々に祝福されて、久方振りの逢瀬を楽しんでいるに違いない。
 
 
 『星矢拍手三部作第三弾』 季節物特集でした。
 『星影篇』は正月物なのに、何か気に入ってたので、長いこと残してましたが、さすがにもう夏だからね^^;;;
 2008.07.31.   
 
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