『星矢〜期間限定バレンタイン狂詩曲』 お礼SS No.42

 二月──日本では最も寒さの厳しい冬の最中だが、乙女たちにとっては一年で最も燃え上がる勝負の季《とき》でもあった。
 そう、二月十四日──聖バレンタイン・ディ☆

 聖域の女神にして、グラード財団総帥たる少女は忙しい執務の合間を縫って、お絵描きの真っ最中♪
 息抜きの紅茶を運んできた魔鈴は、その熱の入れように少しばかり気圧された。何というか、他の神々を相手にしている時よりも、気合が入っているのではないか?
「あぁ、あれね。どうやら、チョコの下描きらしいよ」
「チョコって、もしかしなくても、バレンタインの?」
「手作りに挑戦するんだってさ。本トは材料も自分で買いに行きたかったって、零してたよ」
 手作りチョコは買い物から楽しむものだそうだ、とシャイナが苦笑するが、魔鈴は何となーく、嫌な予感に襲われれた。
 でもっての予感的中☆

「魔鈴、シャイナ! 手伝って頂戴」
 戦闘服《エプロン》を纏いし戦女神は二人の女聖闘士を随従《おとも》に戦場《キッチン》にと御降臨あそばされた★
 勢いで、殆ど無理やり連行された二人は困惑気味だが、準備万端な材料や器具を見れば、女神沙織が本気なのは一目瞭然だった。顔を見合わせた二人は勿論、弟子まで取って、面倒を見ていたくらいなので、そこそこ自炊もするが、お菓子作りとなると全くの別次元だ。
「あの…、アテナ。私たちでは大して、お役に立てないと思いますが」
「そんなことないわよ。というか、手伝いというより、一緒に作りましょうよ。その方が楽しいわ。シャイナだって、どうせなら、星矢に手作りチョコ渡したいでしょ?」
「〜〜〜〜!!!!????」
 今は仮面どころかサングラスも外している、整った面に朱が走る。全くの不意打ちだ。
 引きつる頬も火照っている様子のシャイナに苦笑する魔鈴だが、次なる爆弾発言は魔鈴を狙い撃った。
「そ、それで、魔鈴は──渡したい人って、いないの?」
 正面突破をかけるような問い。酔ってもいないのに、余りにもストレートな勝負。真向から当たって砕けるつもりだろうか。シャイナなど、自分の熱も冷めるような気分に陥った。
 だが、問われた魔鈴の方は殊更に冷静に振る舞った。
「特に当てはありませんが」
「──本トに? 一寸でも気になる人とかもいないの」
 それが誰のことかもまた、明らかだ。魔鈴とて、実をいえば、過《よぎ》る面影がなかったわけではない。だが、
「……私は聖闘士ですから」
「聖闘士だって、人間じゃない。男であり、女でもある。当たり前のことよ」
「アテナがそのようなことを……」
 それがある種の逃げであることを、魔鈴も自覚しないわけにはいかなかった。
 大神の信を担い、数ある神々とも戦う戦女神アテナ。少女の身には過酷なはずの運命を負いながら、人を思い、そして、想いも懸けられる──強き娘。

「ま、いいわ。とにかく、手伝って頂戴。私一人じゃ、ちょっと自信ないから」
 あっけらかんとした表情で、沙織は腕捲りをする。
「作ってから、上げる相手を決めてもいいものね。星矢に義理チョコでもいいし……」
 苦心するに決まっている作品《チョコ》を馬鹿弟子にくれてやるなんて、勿体ない。それなら、自分で食べた方がマシだ。などと考えたが、
「間違っても、自分で食べようなんて、思わないわよね?」
「…………」
 すっかり、お見通しのようでもある。
「さぁ、戦闘開始よ!」
 そう、既に戦いは始まっているのだ。

 てなわけで、奮戦するアテナ沙織の傍らで、仕方なく?共に戦う女聖闘士が二人。ひそひそと言葉を交わす。
「でもさ、シャイナ。あのイラストの通りにって……ちょいとハードルが高過ぎない?」
「あくまで、目標だからね。獅子の鬣は難しいと私も思うけど」
「で、あんたは天馬《ペガサス》を描くの? やっぱし鬣が大変そうだね」
「無理言わないでよ。……って、煩いわねっ! あんたこそ、どんな絵にするのよ」
「別に……ちょっと、星を散らせばいいかなって」
 最初から失敗の少なそうな絵を選ぶべきか否か、少しばかり迷うシャイナだった。


☆オマケ☆

 その頃の聖域──日本を遠く離れたギリシャはアテネにあるはずが、乙女の祭典のはずが、今年も見事に勘違いしたらしい三十路目前の男が約一名、暑苦しいくらいに燃え上がっていたりもしたが、それはまた別の話♪





『星矢〜期間限定ホワイトディ小夜曲』 お礼SS No.45

「フッフッフッ。とうとう、この日がきたか」
 待ってましたとばかりに、カレンダーを見る暑苦しい……、もとい、熱き男が一人。その一日に花丸がついている。

「あぁ、早いものね。もう一月、経ってしまったわ」
 ホゥと溜息を零しながらも、もしかしたら、あの人が今日、声をかけてくるかもしれないと、ソワソワしつつもドキドキしている乙女が一人。

「そこっ、動きが遅いっ。もう一度!」
 特に過大な期待をするわけでもなく、日々と変わりなく過ごす女性が一人。

「「──今日はホワイトディだっ/よっ☆」」
 ここは日本を遠く離れたギリシャはアテネ近郊にあると云われる聖域……のはずである。


 東洋の島国のイベントが聖域に意外と浸透したのはそも、聖域には『お祭』が少ないからかもしれない。ともかく、この日、珍しく、聖域は朝から華やいだ、浮かれたような雰囲気に包まれていた。
 そして、昼休み時間ともなれば──『お返しイベント』の開催で、それが本命へか義理へかは別にしても、相手から『返して貰える』ことこそが嬉しいものだったりするのだろう。

 アテナ神殿──女神アテナと教皇補佐のアイオロス、他数名が居合わせた眼前で、アイオリアはあっさりと『お返し品』を二人に渡した。
 こんな公衆の面前で! と赤くなる沙織と、感激の余りに打ち震えるアイオロス。
 何か、勘違いしているに違いないと思う他数名はアイオリアが『お返しの日』をよく知っていたな、と別の意味で感心する。
「星矢たちに付き合わされてな」
 つい先日、訪日した際、『お返し日』を知り、一緒に買いに行ったそうな☆
「しかし、兄さんも本ト、お祭好きだよな。女性が男性に贈る日に、弟にまで贈らなくてもいいんだぞ。ま、くれたんだから、お返しはしとかないと、後が怖いからな」
「え、リ、リア?」
「アテナも、有難うございました。心ばかりのものではありますが、お受け取り下さい。あぁ、星矢たちも何か買ってましたよ。日本にお帰りになられたら、渡すと言っていました。楽しみにして下さい」
「え? えぇ、有難う……」
 何だか、反応が──もしかしなくても、思いっきり『義理』だと思っている?
「それでは、私は午後の訓練指導がありますので、これで……」
「は、はい。宜しくお願いしますね」
「…………」
 頭を下げ、踵を返すアイオリアを皆、呆然と見送った。

「……通じて、ないな」
 ボソリと呟いたサガをアイオロスがギンッ★と思いっきし睨み付けるが、ムウも淡々と付け加える。
「まぁ、最初から、あの人に、その種の機微を期待するのが無理なような気も……」
「はっきり言わん限り、通じないと思ったが、あの大イベントでも通じないって、相当だぞ」
 アイオロスはともかく、女神が気の毒だと思いつつ、ミロが嘆息する。
「いえっ、仕方ありません。きっと、私の愛が足りなかったのです」
「へ?」
 何だか、疾うに獅子座の黄金聖闘士への想いを隠す気もない女神は熱く語る。
「だから、アイオリアが“義理”だと思ってしまったのですわ。もっと真摯に、想いを籠めて、作るべきだったのです」
「いや、そんな……」
 ……大体がして、女神沙織が『手作りチョコ』を渡したのはアイオリアだけだというのに──多分、それにも気付いていないかもしれないとなると、いい加減、腹立たしくも思うが。
「アテナ! 全く、仰せの通りです。このアイオロスの愛も足りなかったのだと、目を開かされた思いです」
 いや、あんたの愛とやらはとっくに過剰だ、と皆が内心で突っ込むが、獅子座の黄金聖闘士への気持ち?を伝え損ねた??二人は手を取り合った。
「アテナ! いつか、アイオリアに解って貰えるよう、精進致しましょう」
「えぇ、アイオロス。でも、貴方には負けませんわ」
 アイオロスに負けないくらいに沙織が積極的になったら──これまた別の意味で、アイオリアは大変かもしれない、と他数名は不安に思った。


 その頃、闘技場。ボチボチと訓練生たちも集まり出している中、魔鈴は木陰で休んでいた。そこに馴染んだ小宇宙が近付いてくるのを感じ、視線を返す。
「アイオリア」
 声をかけた途端に何かが飛んできた。慌てて、手を出すと、ポトンと掌に収まったのは聖闘士には不釣合いな小さな袋だ。綺麗なピンクのリボンまでかかっている。
「何だい?」
「いや…。この前の、礼だ。今日は、その……」
「あぁ、ホワイトディだね。あんたが知ってたとはね」
「星矢たちに聞いた。一緒に買いに行かされたよ」
「フゥン? 開けてもいい」
 リボンを解こうとすると、慌てたようなアイオリアに止められる。
「いや! ここでは一寸…。後にしてくれ」
「──そう? ま、もう訓練も始まるしね」
 魔鈴はあっさりと引くと、立ち上がり、袋を木の枝に引っ掛けた。
「じゃ、そろそろ、始めようか。指導の方、宜しく頼むよ。レオに見て貰えるって、今日は朝から、皆が楽しみにしているからね」
「あぁ。連中がどれほど、腕を上げたか。俺も楽しみだ」
 二人は並んで、闘技場の中心へと向かった。





『星矢〜期間限定・獅子座誕生祝』 お礼SS No.57

 暑い季節が再び廻ってきた。
 この暑さの中、弟が生まれてきた日のことを、アイオロスは懐かしく思い起こす。そう、ハッキリと覚えている。あの日のことを──……。

「アイオロス、トリップするなら、仕事を全て、終わらせてからにしろ」
「〜〜〜サガァ★ せーっかく、好い気分に浸ってたってのに。水、差すなよ」
「私は親切のつもりだがな。毎日毎日、少しとはいえ、仕事を残しおって。アイオリアの誕生日当日に、どれだけ溜まっても、私は手伝わんからな」
「────そんなに、溜めな…」
「ホウ? 毎度、月末には大騒ぎするくせに? 確か、数日前にも、そんな騒ぎ《こと》があったような」
 正しく、その通りなので、アイオロスには反論のしようもない。
 黙り込む親友に、一つ嘆息したサガも表情を改める。
「アイオロス、解っているだろうな? そんなことになって、お前がアイオリアの誕生日を理由に、溜めた仕事を後回しにしようとしても、当のアイオリアがそれを許さんぞ。賭けてもいい」
「……何を賭けるんだか」
 賭け事なぞ、関心どころか、聖域内の一寸した賭けすら、撲滅しかねない潔癖な男がそんな台詞を吐くのだ。賭けにすらならない、単なる事実確認だと思うべきだろう。

『兄さん、ちゃんと仕事を終わらせないのなら、今日の約束はキャンセルだぞ』
『そんなぁ。リア、固いこと言わずに』
『固いも柔らかいもないよ。ホラ、手伝ってやるから、片付けよう』

 なんてな展開が目に見えるようだ。それはもう、くっきりハッキリと☆
 ま、それはそれで、弟と一緒に過ごせるが──いやいや、やはり、特別な日には二人だけで過ごしたい。時には夫々の宮を訪れ、時を楽しむようにはなったが、聖域を出て、一寸した旅なぞ──……。
 そう、今年は月一黄金誕生会も日程をずらし、兄弟水入らずな小旅行を計画したのだ。それもこれも、アテナ沙織の計らいである。
 お陰様で、それ以来、弟大好き兄ちゃんはバラ色の毎日を送り、幸せな想像…、つか、妄想に浸りきっている次第だ。

 何を想像しているのか、またぞろ、仕事を進めるでもなく、ポーッとしている親友に、溜息しか出てこないサガだった。
「……忠告は、したぞ」
 そして、自分の仕事に戻る。泣きついてきても、絶対に手伝ってやらんと、心に誓いながら。

 果たして、聖域の英雄殿は無事に、弟と旅発つことができるのだろうか?
 某蟹座の黄金聖闘士が胴元となり、賭けの対象になっているとは──無論、当事者たちと真面目な教皇補佐だけが知らなかったりする。
 さて、賭けの結果は如何に!?



 今頃なバレンタイン&ホワイトディ拍手話回収☆ 相変わらず、進展しているんだか、してないんだか。頑張れ、女神様♪ …………+射手座の男^^;
 んでもっての獅子誕は、本人出てないけど、兄ちゃん…、相変わらずっス★

2009.09.01.

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