『聖闘士星矢〜期間限定・ちょっと早い射手座誕生祝い』 お礼SS No.70

 それは十一月に入って、間もなくのことだった。
「シオン様。お願いがあります」
「何じゃ、アイオロス。忙しいのだぞ」
 執務と会議のため、教皇宮に上がってくるなりの言葉に、シオンはジロリとアイオロスを睨めつける。傍らで、会議前に早々に報告を終えた書類を纏めていたサガが不安そうに二人を盗み見ている。
〈またアイオロスが馬鹿なことを言って、シオン様を怒らせなければいいが……〉
 しかし、その願いも空しいものに──つーか、ブチ切れるのはシオンばかりではなく……。
 さておき、
「ハ? 何と言った」
「お耳が遠くなりましたか」
「喧しいわっ。今度の誕生日に必ず休める確約が欲しいだと?」
「何だ。聞こえてたんじゃないですか。今度こそ、アイオリアと旅行に行きたいのです。ですから、何があろうと、私たち二人には務めを回さないようにして頂きたいのです」
 八月のアイオリアの誕生日に兄弟水入らず小旅行を計画したものの、アイオリアに任務が舞い込み、お流れになってしまったのは確かに残念なことではあったが──にしても、怖い物知らずにも程がある内容だ。
 案の定、シオンはフルフルと震え、一括☆
「お主という奴は! それが聖闘士の言い草かっ。黄金聖闘士ともあろう者がっ!!」
「アイオリアではないが、お前、本当にアイオロスか? 私が言うのも何だが、嘗て、アテナを命懸けでお救いし、お守りした者の科白とは、とても思えんぞ」
 サガまでが呆れたように溜息をつくのに、アイオロスであるはずの男は手を振る。
「いや、それは勘違いですよ、シオン様。私は何も、何事かが起こっても、放ったらかしで遊びに行くなどとは申してはおりません。大体、アイオリアがそんなこと許さないし」
 お前の行動基準は最早、どこまでも弟か、と突っ込みたかったが、気付くこともなく、更に言い募るアイオロス。
「ですから、そうならないように、この十一月は完璧に…、いや、十二月頭分まで仕事を終わらせるように尽力し、世界の監視も怠らず、悪い芽は早く摘み、交渉が必要ならば、火種が大きくならないように進め──とにかく、この月末を静かに過ごせるようにしようと! まぁ、そういうことです」
 長々と一気に告げると、ニッコリと爽やかなまでに笑った。
「ですから、シオン様。誕生日には必ず休みを──」
「「こんの……阿呆がっ……っ」」
 ボソリと地を這うような響きがハモり、アイオロスも目を瞬かせる。
「はい?」
 一瞬後には、二人の小宇宙が爆発的に高まる。執務室近くにいた者はスッ飛んで、逃げたものだ。目の前にいたアイオロスは逃げようがなかったが。
 そして、

「こんの、戯け者がっっっ。 十一月限定かっ! 年中無休でやらんか〜〜〜!!! with スターライト・エクスティンクション☆」
「えー加減にせんかっっっ。できるなら、普段から真面目に仕事を片付けろ〜〜〜!!! with アナザー・ディメンション☆」

 ビッキ〜〜ン★ 空間が軋み、裂ける音が教皇宮どころか、聖域中に響き渡った。

「あ〜ぁ、今回はまた、派手だなぁ」
「爆裂技でないだけ、まだ理性が残っているのでしょうけどね」
「あの二人の技をダブルで食らったんじゃ、どこまで飛ばされたんだか」
「あの世の、更に異次元とか?」
「ひょっとして、エリシオン辺りまで、飛ばされていたりしてな」
「うわ。帰ってこられるのか、それ」
「帰ってくるだろう。じゃなきゃ、リアと旅行に行けないじゃん」
「……というか、俺は行くと言った覚えはないんだが」
「相変わらず、独りで突っ走ってるわけだ」
 少し離れた会議室では黄金聖闘士たちが苦笑交じりの会話を交わしていた。
「今日の会議は、お流れかなぁ」
「さすがに、それはないだろう。ま、アイオロスは不在かもしれないが」
「よぉし。んじゃ、いつロス兄が帰ってくるか、賭けようぜ」
 何でも、直ぐに賭け事にしてしまう誰かさんはさておくとしても、これも平和だからこその騒動なのかもしれなかった。





『星矢・星影篇・射手座誕生祝い?』 お礼SS No.71

「お、定期便の到来だな」
「妙な言い方すんな。ホレ」
「何だい?」
「お前さんへの誕生日プレゼント」
「へ?」
 間抜け面のアイオロスなんて、そうそう、見られるものじゃないだろう。まぁ、狙い通りだ。どう転んだところで、俺が今更、同年代の男に誕生日プレゼントなんぞ、贈るはずがない。
 案の定か、アイオロスも一寸だけ顔を顰めた。
「リア? これは……」
「例のマニュアルだ。作ってきたけど、英語だからな。ギリシャ語に翻訳は任せる。さすがに、まだ、そこまでは使えないからな」
 報告書作成のマニュアルを作って欲しい、と教皇様御自らに言われたのは、先月、聖域に来た時だった。

「お主、FBIの捜査官なのだから、それ相応の大学も出ておるのだろう」
「えぇ、まぁ。一応、幾つかの博士号も持ってますけど」
「では、一寸、頼まれてくれんか」
 で、任務報告書を統一するので、マニュアルを作って欲しい、との仰せだった。
 今まで、統一規格もなかったのかと少しばかり、唖然としたが、何せ、神話の時代から続く異界のようなもんだからなぁ。
 参考までにと、聖闘士や兵が提出する無統一報告書を見せて貰い──頭が痛くなった。よくまぁ、こんなもんを取り纏めて、処理してきたもんだ。

「有難う、リア。助かるよ」
「どこまで、役に立つか分かったもんじゃないけどな。つーか、それよりまず、もうちっと読めるような字を書かせろ。アルファベットの手習いから、やり直すべきだぞ」
「そんなに酷いかなぁ」
「自覚がないのが困るんだ。あーゆーのをな、金釘流って言うんだ」
「俺もか?」
「……お前さんはまだ、マシな方だな」
「それを聞いて、安心した。でも、ま、俺も練習しようかな」
 などと、軽快に笑った。笑い事でない連中の方が多いだろうがな。とにかく、戦うべき存在である聖闘士を筆頭に、戦い方の訓練ばかりを積んで、その他のことは疎かになっているのだろう。
 何だか、一寸、心配になってきたな。こいつらの殆どが、所謂『普通の生活』すら営めないんじゃないか?

 一通り、マニュアルに目を通したアイオロスは書類を揃え、笑った。
「それにしても、博士号を持った黄金聖闘士か。それはそれで、希少だよな。君の存在は」
「好きでなったわけじゃないってことを忘れんなよ」
「解かってるよ。そういえば、キャット捜査官は『X−FILE』のモルダー捜査官のファンなんだってな。それで、FBI入りを目指したんだと聞いたよ」
「どこまで本当かは解からないけどな」
 只人のはずの相棒は、霊感が強く、全くの普通の人間ではなかったりする。
「リアも、そういうドラマの影響を受けてるのか」
「別に入る時に、何かに影響されたってことはないが──」
「ないが?」
「今は『クリミナル・マインド』が最高だな。中でも、アーロン・ホッチナーには憧れるぜ」
 拳を固めて、力説すると、アイオロスは呆れたように呟いた。
「……現役の捜査官が、ドラマの捜査官に憧れるものなのかねぇ。それも、聖闘士である捜査官なんて、全米でも君一人だって言うのに」
「それを言うなっての! あー、さっさと結界を強化して、ニューヨークに帰るっ」
「ま、待ってくれ、リア。今年は俺の誕生パーティに参加してくれよ」
「──考えておく」
「全然、考えてないじゃないか」
 邪険にしつつも、言葉遊びを楽しんでいるような気分ではあった。ま、今年は出てやってもいいかな。





『聖闘士星矢〜射手座誕☆後始末編』 お礼SS No.72

 遠く日本では師走とも称される十二月──聖域の雰囲気も慌しくなっていた。
「よし、では、このような取り決めで頼む。以上だ。解散」
 教皇補佐の一人、射手座のアイオロスは宣言すると、真先に席を立ち、会議室を後にした。
 それを、他の黄金聖闘士たちは目を丸くしながら、見送る。
「アイオロスの奴。最近は随分と真面目にやっているな」
「あぁ。アイオリアとの旅行から帰ったら、またグ〜タラするんじゃないかとか思ってたんだがな」
「デスマスク。サガの勤勉さとは比べようもないが、アイオロスとて、それほどグウタラしているわけではないぞ」
「何にしても、意外と思わぬ効果があったようだね」
「効果ね…。いっそ、たまには外で兄弟揃って、遊ばせてやるとかさ、御褒美出したら? 三日坊主にならずに、ずーっと真面目になるかもよ」
「うむ、名案かもしれんな」
「……俺は、御褒美なのか?」
「何だ、アイオリア。疲れた声を出して」
「三日間、とにかく、あちこち連れ回されたんだぞ」
「何です。獅子座の黄金聖闘士ともあろう人が随分と情けない科白じゃありませんか」
「…………少しばかり、遠出をしたくらいならな。それより、兄さんの思考の吹っ飛びようについていけなくてな」
 幾らか納得するような乾いた笑いが漏れる。
「今でも、疑うことがある。あの兄さんの魂は、やはり実は別人のものではないかと」
 そうだとしたら、アイオリアが「兄さん」と呼ぶのは正しいのか、そうでないのか……難しいところだ。
「いや〜、それは考えすぎだぞ、アイオリア」
「そうかな」
「そうだって! 昔っから、あんなもんだったって」
「……………………」
 更に大きな溜息が幾つか漏れた。

 などと言われている射手座の男は執務室に入ると、即座に本日分の書類の決裁に取り掛かった。
「ここまで来ると、何か企んでいるのではないかと、つい思ってしまうな」
「どーゆー言い草だ、サガ。やらなければ、文句を言う。やっても言われるのか」
「やらない奴に文句を言うのは当たり前だろうが。とにかく、長続きしてくれることを祈るよ」
 仕事を始めるサガを横目で見遣り、そして、アイオロスはニヤリと笑った。
〈年末から正月は、何処に行こうかな〜☆〉

 どうやら、壮大なる計画があるらしい。さて、今度は果たせるかどうかはまだ判らない。



 『星矢拍手』 2009ロス誕期間限定物特集でした。
 『(SE→冥界行き)+(AD→異次元行き)≒エリシオン?』で、どこぞに飛ばされても、根性で帰ってくるだろうロス兄ちゃん☆ お祝い小説の方では見事に『任務→兄弟旅行^^』をもぎ取ってました。でも、兄さんの幸せは弟の苦労^^;;;

2010.01.07.

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