『聖闘士星矢〜獅子誕+星影篇』 お礼SS No.87

「日本に? あぁ、城戸総帥が帰られるんで、お供ってわけか」
「そういうこと。で、君も一緒に行かないかと」
「俺が? 何で」
「いや、何でって……特に理由は」
「じゃ、却下」
「リア〜、そんな即答で、断らんでも」
「暇がないっての。城戸家御用達の専用ジェットのシートは魅力的だがさ」
「でも、星矢も君に会いたがってるぞ」
 前に会ったのは、例のペラム・ベイ・パークの事件の際だ。元気な少年のことは結構、気に入っているが、彼に会うためだけに、わざわざ、日本に行くのはFBI勤めの身には難しい。
「なら、聖衣で──」
「却下だ」
「……少しは考えてもいいと思うけどな」
 アイオロスは諦め口調で、溜息までついた。

 聖域との往復に聖衣を使うことは──まぁ、納得している。自分が聖闘士だということを認めたのだから、今更だし、それは『聖域に行くから』だ。生身で、大西洋を越えるようなこともしなければならない。しかし、
「日本じゃ、太平洋を越えなきゃならんじゃないか。そんな──」
「変態な真似はできん、だろう? でもさ……」
 珍しく、言い澱んだアイオロスが次に口にしたのは、思いがけないものだった。
「実はな…、明日はアイオリアの誕生日だったんだ」
「アイオリアの?」
 俺と同じ獅子座なのだから、誕生日も一月以内の近さだったろうとは解るが、正直、考えたことはなかった。にしても、日本行きと何の関係があるのか。
「それでな。アテナや星矢たちと、弟を偲ぶ集まりを開くつもりなんだよ」
 さすがに、この世に戻らなかった獅子座の黄金聖闘士を偲ぶなど、たとえ、アテナの御意志でも聖域では口にすることも叶わないのかもしれない。
 ありもしない亡き兄の罪とやらで、十年以上も蔑まれ、憎まれながらも、唯々ひたすらに、世界のために尽くしてきたのに、随分な仕打ちだ。いや、だからこそだろうか。聖域の多くの人間が過ちを認めたくないがために、今も目を瞑っている。

「で、俺にも来いって?」
「どうかな」
 弟に似た俺を連れて行くことに何の意味があるのか──もしくは、大した意味などないのか。
 アイオロスの真意は量りかねたが、苦しい人生を歩んだ先代を偲ぶのは悪いことではないとも思う。
「──解った。行くよ」
「そうか。良かった。きっと、星矢たちも喜ぶよ」
 本気で嬉しそうな顔をするのに、まぁ、承諾してやって良かったような気がした。

 城戸総帥専用ジェットのシートの居心地は、それはそれは素晴らしかった。
 尤も、今後、普通機のファーストクラスにも座れなくなりそうだったが。





『星矢〜獅子誕+星影篇 in JAPAN PARTI』 お礼SS No.88

「本トにビックリでがんスねぇ」
「全くだ。星矢の言う通り、こんなにアイオリアさんに似ているとは」
「絶対、星矢が吹いてるとばっかり思ってたけどなぁ」
「何だよ、瞬。それ、どういう意味だよ」
 星矢を初めとした少年たちは、俺の前で、あーだこーだと言い合っている。もう、そういう反応も言われ方にも慣れたけどな。ただ、少年たちは無邪気なもんだ。
 聖域の連中が俺とアイオリアを比べて、彼への負い目を刺激され、俺にも距離を取りたがるような負の心理とは全く無縁に見える。
 聖域にいないからなのか? 聖闘士であっても、聖域にいる連中のような高慢さはない。そりゃ、人にはない力を持っているのだから、自信を持つのはいいことだろうが、行き過ぎるのは何ともな。
 この先も、聖域には染まらずにいて欲しいもんだ。

 日本の城戸邸に、アイオリアを偲ぶために集まったのはアテナ──城戸総帥とお供のアイオロス、後は青銅聖闘士の少年たち。どれも見たことのある顔ばかりだ。『銀河戦争』に参加していた少年たちだが、当然、記憶にあるよりは成長した面立ちだった。
 全く…、『銀河戦争』では半信半疑で見ていた存在だったはずの聖闘士だというのに、よもや、「お前もその聖闘士だ」なんてなことを言われる時が来るとは……想像できるはずもないよなぁ。
 しかし、聖闘士とはいっても、素顔の星矢たちは本当に普通の少年だった。明るく、亡きアイオリアの思い出話でも、暗くなりすぎることもなかった。
「……アイオリアが護りたかったものは、こういう日常だったのかもしれないな」
 ポツリとアイオロスが呟く。世界の平和を護る、女神に従い、戦う聖闘士。しかし、実は大仰なことではなく、大切な人々の笑顔を護りたい…、そんな思いだったのかもしれない、と。

 時間とともに『偲ぶ会』からは逸脱していった、まぁ、何時間も思い出話だけというわけにもいかないだろう。今を生きている少年たちだ。聖域も離れ、日本で暮らしているのだから、興味や関心も俺のような普通の感覚に近いはずだ。
「まっ、その方が健全だよな」
 聖域から何か連絡が入ったとかで、城戸総帥とアイオロスは席を外していた。時々、くっ付いていた星矢も今は仲間たちと話している。俺はすることもなく、ソファで、酒を飲みながら、その様子を眺めていた。
 だが…、不意に視線を感じた。興味を覚える幾らか強い視線だ。聖域に行くようになってから、好奇に染まった視線には慣れっこだったが、少しばかり違うようだ。
 振り向くと、そこには中々、精悍な印象の少年が立っていた。いや、もう青年といっていいか。一瞬、知らない顔と思ったが、直ぐに思い出した。
「鳳凰座《フェニックス》か?」
 『銀河戦争』に乱入した際の一度だけ見たが、あの時は仮面をつけていたかな? しかし、全体の印象は正しく彼そのものだ。
 フェニックスだろう青年はツカツカと歩み寄ってきて、向かいのソファに座った。
「……あんたが、今の獅子座の黄金聖闘士か」
 開口一番、ストレートな尋ね方だ。とはいえ、聖域の多くの連中が持つような反感などは感じられない。
「まぁ、一応、そういうことになっているな」
「そうか……。俺は、一輝だ。フェニックスの一輝」
「あぁ、宜しく。リアステッドだ。リアステッド・ロー」
 間違っても、『獅子座のリアステッド』という自己紹介をしたことはない。
 思うところでもあるのか、鋭い眼差しを彼は向けてきた。いやぁ、何も知らないで睨まれたら、ビビリそうだな。
 またまた、黄金聖闘士らしからぬことを考えたものだった。





『聖闘士星矢〜獅子誕+星影篇 in JAPAN PARTII』 お礼SS No.89

 わざわざ、新しい獅子座の黄金聖闘士だと確認した上で、俺の前に座ったのだから、何か話でもあるんだろうか。
 しかし、一輝は暫く、俺を眺めていた。観察しているらしいが、余りに遠慮がないので、いっそ清々しいくらいだ。とはいえ、余り長いこと、続くのは居心地が悪い。
 用でもあるのか、と尋ねようかと、口を開きかけた時だった。
「あんたは、戦わないと宣言しているそうだな」
 それか。もう有名な話になっているだろうに、今更、確かめられるとは思ってもみなかった。
 後で知ったが、彼は聖域には勿論、日本でも城戸邸にすら、余り立ち寄らないそうだ。少年から漸く青年となりつつある若さで、風来坊の如く生きるとは──何とも憧れる……いや、まぁ、大した生き方だ。

「それがレオを預かってもいいことへの条件みたいなもんだったからな。何だ? お前さんも聖闘士にあるまじき言い草だ、とか言いたいのか」
 だとしたら、少々、印象が違ってくるなぁ。聖域の権威だのは俺以上に鼻で笑いそうな感じなのにな。いや、それは間違ってはいなかった。
「聖域の連中が言いそうなことだな」
 淡々と、しかし、強烈に言い放った。
「気にすることはない。いや、全然、気にしていないか?」
「まぁな。気にしても始まらんよ。大体、素人の俺に戦えるわけがないだろうが」
「その割には…、小宇宙はやはり、黄金級だな。却って、苛立つ連中も増えるということか」
「そんなの、俺のせいじゃないっての」
 俺が獅子座の黄金聖闘士の宿星を持っているのも、獅子座の黄金聖衣に主と選ばれたのも、人の力で、どうこうできないものを責められても困るだけだ。
「そうだな。全ては宿星《ほし》の導きだ。……あんたが、アイオリアの後を継ぐ新たな獅子座の黄金聖闘士が現れたと聞いて、一度は会いたいと思っていた」
「何故だ? お前さんも星矢同様、アイオリアと親しかったのか」
「いや、彼とは殆ど、会ったことはない」
「それじゃ、何で……」
「俺の誕生星座も獅子座なんだ。聖戦の際には、獅子座の黄金聖衣《レオ》が力を貸してくれたこともあった。尤も、俺の力不足か、大した力を発揮することもできずに、死の神《タナトス》に砕かれてしまったがな」
 聖戦での簡単な経緯は俺も聞いている。黄金聖衣は神代の時代から、一度として完全に破壊されたことはなかったらしいのだが、やはり、神の力は凄まじいということか。或いは本来の持ち主ではなかったからなのか……。とはいえ、
「済まなかった。来援を受けながら、それを生かしきれなかった。その上、破壊までされて……」
「俺に謝ることはないだろう。アイオリアがいても、謝って貰おうとは思わないんじゃないか? 聖衣だって、獅子座に連なるお前さんを護りたかったのかもしれんしな」
 砕かれても、力を拡散させたことで、その時は防げたのならば、レオも本望だったろうと思うのは勝手かもしれんが。
 しかし、獅子座だというのなら、あいつも俺じゃなく、この一輝を後継者にすればよかったのにな。彼の方が強いだろうに──尤も、そんなことを口にして、アイオロスに聞かれたら、また怒られそうだが。「聖衣が主を選ぶのは本能みたいなもんだ」とか何とか。

「聖衣もアテナの加護とムウが頑張ったので、今は元通りだ。気にするな。それより、同じ獅子座の誼だ。今日はアイオリアを偲ぶ集まりなんだし、まぁ、飲め」
「…………俺は、未成年なんだが。一応な」
「舐めるくらいなら、大丈夫だって、ホレ」
 一輝は渋々と、グラスを手に取った。手近なところのワインを取り、注いでやる。放浪生活をしている割には、酒には手を出していないらしい。ま、成長期の体には酒は悪いもんだ。賢明な判断だろう。 
「アイオリアに」
 グラスを合わせると、キンと、澄み渡る音が響いた。

☆            ★            ☆

「おや、珍しい取り合わせだな」
「おう、一輝は結構、イケる口だな。アイオロスより、よっぽどな」
 とはいえ、飲み慣れていないものを口にしているためか、一輝はうつらうつらしている。
「う…。いや、つーか! 一輝はまだ未成年だぞ。どんだけ飲ませてんだよ」
「今日は特別だよ。ホレ、お前さんも座れよ。そういや、総帥は?」
「明日が早いのでな。もう、お寝《やす》みになられたよ。星矢たちも…、静かになってきたな」
「お子様たちはそろそろ、お開きだろう。俺たちは──まだまだ、飲むぞ」
「リア…、君は何しに来たんだ?」
「アイオリアを偲ぶためだろう。何だと言うんだ」
「…………まぁいい。ワインが空だな。新しい物を貰ってこよう」
 と、自ら、取りに行ったアイオロスを見送り、俺は何となく、可笑しくなった。
 アイオリアを偲ぶことを口実に、酒を飲みにきたとか、考えさせてしまう辺りは俺の不徳って奴かな。

 ともかく、夜は深まりつつあるが、まだまだこれからだ。アイオリアを肴に、飲み明かすとするか。
 明日には、俺もN.Y.に帰らなければならないことを、この時はすっかり忘れていた。



 『獅子誕+星影篇拍手纏め』 星影篇のローに、珍しく日本編では一輝がお相手に☆ 同じ獅子座ということでの発想だったけど、あんまし絡ませられなかったです^^;

2010.10.28.

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