『聖闘士星矢 大晦日だよ、元旦だよ』 お礼SS No.94
ゴオォ〜ン… 夜の静寂《しじま》に響き渡る鐘の音はどこまでも深い。一つ二つと重なり響く。 「う〜ん、いいなぁ。シミジミと心に染み入るようだ。何と、情緒溢るる光景だ。これぞ、古き良き日本の姿だな。リア」 「古き良きって……。まぁ、そうかもな」 生粋のギリシャっ子である兄が古き良き日本とやらを理解しているのか、どうにも怪しいものだと思いつつも、突っ込むのも面倒だとアイオリアは頷いた。実際、ギリシャの夜とは趣が異なるのは確かだ。 「除夜の鐘は百八つ打つそうだ」 「百八つ……。どこかで、聞いたような数字だな」 どこかの神配下の魔星の数と同じ、人間が持つという煩悩を鐘の音で祓うという。尤も、アイオロスの煩悩とやらは全て、弟に直結しているのだから、そんなにも数はないだろうか。 すると、兄が弟の肩を叩いた。 「リア、そろそろ、宿に戻らないか。残りの鐘の音を聞きながら、ゆっくりと二人で一献……」 「何、言ってるんだよ、兄さん。これから──」 「アイオリアーッッ!!」 静寂を乱すかに元気な少年の声が鐘の音に被る。 「う……」 アイオロスが顔を歪めたのも道理だった。 「皆、揃ってるか」 「あぁ! 準備も万端。早く行こうぜ。初詣に☆」 やってきたのは星矢だけでなく、青銅聖闘士の少年たちだった。 この大晦日から元旦にかけて──アイオロスは逃避しかけていたが──彼ら黄金兄弟は年越し初詣がしたいという少年たちの引率役を任されていたのだ。 それもアテナ沙織は勿論、夫々の師匠の面々から「くれぐれも宜しく頼む」とか言われているのだから、適当に済ませるわけにもいかない。 妙な事件に弟子が巻き込まれでもしたら、成層圏の彼方まで昇天させられるか、絶対零度で凍結させられるか……かなり楽しくない未来が待っていること請け合いだからだ。 「大体、戦士たる聖闘士に引率なんぞが必要か?」 「そうは言っても、日本では彼らは未成年だからな。付き添いなしに、深夜に出歩かせられんよ」 「神々にさえ、立ち向かう聖闘士が日本の法律に敵わんとはな」 溜息をついたところで、状況は変わらない。 「くっそぉ〜★ 兄弟水入らずで、ゆーっくりと過ごすはずが」 「まだ、言ってるのか、兄さん」 「だって、久々だぞ! 毎年毎年、やれ任務だ、やれ護衛だので、いっつも離れ離れだったのに。やっと…、今年こそはと思っていたのに──コラ、リア! 兄ちゃんの話を聞いてるのかっ」 引率として、少年たちに注意を向けるのは当然のことだが、アイオロスにしてみれば、蔑ろにされているようで面白くない。 「まぁ、いいじゃないか。そりゃ、二人っきりってわけじゃないが……、一緒にいられるのだから、それで十分じゃないか」 十三年、新しい年明けも孤独に過ごしただろう弟にサラッと言われると、いつまでもグズグズと文句を言うわけにもいかなかった。 「行こう、兄さん」 「──あぁ」 二人の兄弟は夜中でも元気な少年たちの後ろに続き、歩き始めた。一緒《とも》に……。
『星矢〜十万打お祝い記念☆星影篇』 お礼SS No.95
「はぁ? 今、何て言った?」 日本から、珍しい客が来た。中々、会えない相手だったので、俺も柄にもなく、持て成してもやった。 ところが、そいつがいきなり、予想もしていなかった台詞を口にしたので、聞こえなかった振りをしたくなったものだ。だが、願いも空しく、 「だから、十万、貸してくれって言ったの」 「…………それはエンでか? まさか、ドルってことはないよな」 「え? 当ったり前だろう。なぁ、リアステッドさん。頼めるの、あんたくらいしか思いつかないんだよ。お願い! この通りっっ」 手を合わせて、拝み倒されてもなぁ。 「落ち着け、星矢。とりあえず、何で、そんな金が必要なのかを言ってみろ」 エンでも、十万といったら、星矢くらいの少年には大金だろうに。 「う、うん。実は美穂ちゃんが──困ってるみたいで。変な奴に付き纏われてるんだ」 因みにミホちゃんとは、星矢の幼馴染らしい。ストーカーにでも遭ってるのか? 「それで、何で、十万なんだ」 「手切れ金にと思って……」 「………………はい??」 今度こそ、聞き間違いだろう。改めて、聞こえなかった振りをしてみる。んが、 「だーかーらっ、そいつに美穂ちゃんから手を引かせる手切れ金に──」 勿論、最後まで言わせなかった。デコピンを一発かませてやると、軽く仰け反った。 「テェ〜★ 何スんだよ、リアステッドさん!」 「喧しいッ! 子供が何、抜かすかっ。どこで、そんな言葉を覚えた」 いや、答えるな。怖いから。 「それより、手を引かせるなんて、本当にストーカーか何かか」 「それは…、よく判んないけど」 「判らない相手か? 本当に、ミホちゃんとやらは困ってるのか」 「しつこいって言ってたから」 「あのなぁ……。それだけじゃ、本気で困ってるのかも怪しいだろう。口で、そう言ってるだけかもしれないし」 いやぁ、その可能性がかなり高い。友だちか、それ以上か──星矢の幼馴染で同じ年頃なら、恋の一つ二つしていても、全く不思議でもない。 「一度、日本に戻って、ちゃんと確かめてこい。つーか、星矢、どうやって、ニューヨークまで来たんだ。まさか、聖衣で太平洋《うみ》越えてきたのか」 「まさか! 黄金聖衣じゃあるまいし、んな真似できないよ。沙織さんがこっちに行くっていうんで、便乗させて貰った」 「──なるほどな。待てよ。そのミホちゃんとやらの話はキド総帥にはしてないのか」 何といっても、同年代だし、オマケに大富豪ときたもんだ。万一、金が必要だったとしても、何とかしてくれそうだと真先に頭に浮かびそうなもんだが。 「で、できるわけないだろうっ。そんなこと、沙織さんに相談だなんて──」 真赤になって、抗弁するなよ。恥ずかしいから。若いって、いいねぇ^^;;; 「しかし、何で、俺なんだ。総帥がニューヨークに来るからって、たまたま、思い出したのか? 聖域にでも他に相談できる奴がいるだろう。アイオロスとか、ムウとか」 「何言ってんだよ、リアステッドさん。聖域の連中なんて、程度はあっても、皆どっかズレてんだよ。アイオロスもムウも……まぁ、少しはまともだけど」 「お前、それ、あいつらには言うなよ」 「言わないってば! とにかく、俺が知ってる大人で、一番、常識人なのはリアステッドさんなの。金だって、多少は持ってるだろうし」 「多少は余計だ。あ、それと、確かめても、一々、こっちに飛んでくるなよ。とりあえず、電話で済ませろ。どうしてもという時は俺がそっちに行ってやるから。ホレ、俺のナンバーだ」 名刺を渡してやると、星矢はしげしげと眺めていた。そんなに珍しいのか? ま、まだ名刺を受け取る年ではないか。だが、次にはピントのズレたことを言ってくれた。 「……リアステッドさんて、本トにFBIの人なんだね」 やっぱり、こいつも聖域育ちだな、と溜息をついた。
『星矢〜十万打お祝い記念☆星影篇・後始末版?』 お礼SS No.96
「あれー、リアステッドさん。何で、いるの?」 お気楽少年はあっかるーく、のたまわった。 「何でじゃない。お前、俺のケータイのナンバーを一体、何人に教えたんだっ」 「え、何人て……。二、三人かな」 俺がまた、わざわざ日本までやってきた理由が意外だったのか、星矢はキョトンとして、答えた。 「それが、どうかした?」 「どうかしたって……、んなもんじゃ効かんぞ。お陰で、ケータイが使えやしない。個人情報を軽々しく、ばら撒くんじゃない」 ちょい前に、星矢の悩み?に相談に乗ってやり、結局、日本にまで出向き、何だかんだで丸く収まったもんで、星矢はいたく感激したようで──そのことを他の青銅少年辺りに触れ回ったらしい。それだけなら、まだしも、俺の個人情報まで簡単に教えるか、普通? いきなり、日本からの国際電話が増えたもんだから、仕事にも支障が出る。まぁ、ケータイ自体はまだまだ小宇宙通信も苦手な俺に、連絡用にとアイオロスが渡してくれたものだが、仕事中にも引っ切り無しではな。 「ゴ、ゴメン。悪気はなかったんだけど」 「んなことは解かってる。だがな、どうも、口から口へと広がってるぞ。俺にかけてきたのは二、三人じゃないからな」 「そ、そうなの」 そんなんだよ。それも『オタスケコール』とか知らん名まで付いてるしな。 「何とかしろ、星矢」 「何とかって言われても、俺の知らない奴にまで広まってるってことだろ。それじゃ、何とも。あ、いっそ、番号変えたら?」 「それなら、アイオロスに言わなきゃならん」 できれば、それは回避したい。 「う…。解かったよ。とにかく、教えた奴に当たってみるから」 「頼んだぞ」 言いつつも、どうも望み薄な感じだった。 結局のところ、星矢は沙織お嬢さん──城戸総帥に泣きついたようだ。しかし、グラード財団の調査力を以ってしても、ナンバーの広がりは正確に把握できなかった。 世の中、『オタスケコール』を必要としている人間が多いってことなのか、どうか。 だが、そこに城戸総帥の思惑が加わったことで、パタッと着信がなくなった。聞けば、話は簡単なことで、別のナンバーを噂で流したらしい。 更には本当にグラード財団が『オタスケ相談室』なるものを設置し、応対するようになったと。 聖闘士の力ほどではなくとも、助けの手を差し伸べようということだろう。とはいえ、やることのスケールがでかい。 ともかく、小市民な俺としては、ナンバー変更の面倒もなく、御の字といったところだ。
『星矢拍手纏め十四弾』 新年一本目は仲良し兄弟? 何ともピリッとしなかった年明けなので、気を引き締めていきたいなーと☆ 十万打記念作は星影篇のローと星矢で、進めてみました。中々、いいコンビです。
2011.02.14. |