『聖闘士星矢・獅子誕まで、もう少し篇』 お礼SS No.109

「はぁ……」
 何度目──いや、十何度目か溜息が零れる。聞こえない振りをしていた魔鈴だが、さすがにこれ以上は放っておけない。
「アテナ。何か、お悩みですか」
 溜息の主は聖域の主人にして、グラード財団の総帥たる城戸沙織だった。魔鈴を見返し、「いいえ、別に何でも」とか余りにも判りやすい否定の仕方をする。
 溜息連発が 『聞いて欲しいサイン』だなんてことはお互いに承知の上☆ ここまでの受け答えも一寸したお約束のようなものだ。何せ、魔鈴とて、本心では聞きたくなどなかったのだ。理由なぞ、聞くまでもなく明らかだ。
 魔鈴が参考になる答えを持っていないことも沙織は知っているはずだ。それでも、聞いて欲しい──そういうこともある。

 季節は夏、月は八月。暑い時季になると、常に悩んでいるアテナはここ数年、城戸家では風物詩の如く……。一応、聖域やグラード財団では普通に振る舞っているが、この邸で余人の目が消えると、こんな状態になる。
〈どうせ、あいつの誕生日のことだよね〉
 こちらが嘆息したくなるような状況だが、さすがに不敬だろうか。
 魔鈴の悩みなど、何のその、案の定、少しだけモジモジしながら、
「もうすぐ、アイオリアの誕生日でしょう。今年のプレゼントはどうしようかと思って」
 やっぱし……。
 黄金聖闘士の誕生日は恒例月一聖域憂さ晴らしの日☆で、アテナの名で、誕生日の当事者にはプレゼントも贈られるが、無論、個人的な贈り物というわけではない。個人的プレゼントなどいう重い代物を戦女神が軽々しく渡すわけにはいかないのだ。
 それは解っている。理解はしているが、納得できるとはいえない。この数年、どうにかして、個人的な贈り物をしたい! と切に願っている相手がアイオリア──獅子座のアイオリアなのだ。

 戦女神でもある城戸沙織が仄かな想いを、その指揮下の聖闘士である彼に抱くようになって、既に数年……一過性のものではなく、どうやら、本気らしい、とは殆どの者が察していたが、何時まで経っても、想われ人たるアイオリアだけが何も気付いてないという進展のなさといったら、神懸かり的ですらある。尤も、進展がないからこそ、周囲──特に高位の神官たちなどは見て見ぬ振りをしてくれているのかもしれない。
 そんな状況を殊に日本での護衛任務に就くことの多い魔鈴は誰よりもよく知っていた。
 また、相手がそんな魔鈴だからこそ、普段は決して口にしないような本心を沙織も漏らすこともあった。

「アテナから贈られるのならば、何でも喜ぶと思いますが」
 何気ない一言が、アテナ沙織の地雷源に石でも放り込んだように作用した。
「解ってるわよ。えぇ、そうでしょうとも。私だからではなく、アテナだから──そういうことでしょう」
「アテナ……」
 魔鈴は驚いた。これは予想外の反応だった。今更に反抗期?
 普通の少女でありたいのかもしれない。だが、彼女は戦女神の宿命を負わされ、細やかな恋すら望めない。ただ、想うだけ……。
「……アテナ。いえ、沙織さん。アイオリアは貴方を、ただ、アテナであるというだけで、定めたりはしませんよ」
 慰めとしか受け取ってもらえないかもしれない。

「──そうね。きっと、そうよね。余計な心配しちゃったわね」
 やけに明るい声だったが、幾らか無理をしているようにも感じられる。
「沙織さん……」
「じゃあさ、魔鈴。プレゼント、一緒に考えてよ」
「私がですか。そういうのは余り」
「何、言ってるのよ。魔鈴ももうイイオトシなんだから♪ 少しは積極的にならなきゃ。あー、何で、私ったら、敵に塩送ってるのかしら」
「いえあの、沙織さん?」
 何か、さり気なーく爆弾発言をかましてないか?
「それにしても、魔鈴ってば、ますます、素敵になっちゃって。また差をつけられちゃうなー」
 ペタペタとスキンシップを図る沙織に魔鈴は困惑する一方だ。もしかしなくても、これは甘えているのだろうか?
 成長という意味では人のことをいえない育ち方^^;をしている沙織だが、内面は神と人というアンバランスな二面性を抱えている。寧ろ、人として、殊に女性としても、成長もしているためか、以前の方が落ち着いていたようにさえ思えるほどだ。
 こんな様子《ところ》は城戸邸の自分の部屋以外では余り見せないが、逆に護衛役の多い魔鈴やシャイナなどはしょっちゅう、遭遇するようになってしまった。
 親しくされるのは嬉しいが、さすがにもう少し、威厳を保ってほしいなー、とか願ってしまったり;;;

「ちょっ…、沙織さんっ。いい加減にして下さいっっ」
 止まるところを知らない『攻撃』ぶりに、さすがの魔鈴も悲鳴を上げた。
 ジャレているとしか思えないのに、当初の相談事はどこへやら……。
 それでも、戦女神と女聖闘士がジャレ合っているのは平和この上ない光景に違いなかった。





『聖闘士星矢・射手座誕〜星影篇2011』 お礼SS No.124

 月に一度の結界強化──さすがに回を重ねてきたので、中々、熟《こな》れてきたと自分でも思う。
 作業を終え、直ぐに教皇宮に上がる。来た時は挨拶にも行かず、まずは獅子宮での結界強化を行い、帰る際にだけ、出向くのが倣いになっていた。
 十二宮の長い階段──初めての時はヒーヒー言いながら、登ったものだが、やはり慣れというものなんだろう。

 天蠍宮に達したところで、守人が現れた。どうやら、待ち構えていたようだ。
「よぉ、ミロ。久し振り」
「明るく、言ってくれるよなぁ」
「何だよ。他に言いたいことでもあるのか?」
「……解ってるくせに」
 豪奢な金髪青年は不貞腐れたように呟く。確かに、大体は解っていた。少しばかり、意地が悪いと自分でも思う。
「何で、あいつらの頼みを断ったんだよ」
「ハハァ。やっぱし、お前さんの差し金か」
「差し金だなんて、人聞きの悪い」
 とか言いつつも、怯んだ様子が笑える。
 今日、俺が聖域に来ることは黄金聖闘士は勿論、知っているはずだ。逆にいえば、黄金聖闘士くらいしか知らないということだが、今日は十二宮の入口で、縁のある聖闘士候補生と会った。偶然を装い、しかも、そろそろなアイオロスの誕生日の祝いを候補生たちでも開きたいので、協力してほしいとか、一緒に参加もしてほしいとか云々……。
「お前さんの入れ知恵ってわけだ」
「差し金の次は入れ知恵かよ」
「間違ってないだろう?」
 返答を控えたのは認めたってことかね。話を進めてきた。
「……でもさ。あっさり断ってくれるなよ」
「乗ってやるほど、お人好しじゃないんだよ。ま、次の手を考えるんだな」
 手をヒラヒラとさせると、ムクれてみせるのが、妙に子供っぽかった。

 何かというと、俺に聖域に来させる口実を作ろうとする。殊に、誕生日絡みに張り切るのがミロだった。その対象がアイオロスとなると、ここ数年、あの手この手で、俺も誕生会とやらに参加させようとする。……一度も、参加したことはないがな。
 理由は簡単だ。俺自身は聖域にはなるべく、来たくはないからだ。獅子座の黄金聖闘士とやらの運命を受け容れても尚、この閉鎖的な世界に足を踏み入れたいとは思わないのだ。

 一つ上の宮は無人だった。守人は教皇宮に詰めているはずだ。その教皇宮で、教皇シオンに会い、幾らか話し込む。実は御年二百五十をも軽く越えているのに、嘘のように柔軟な思考の持ち主で、外界《そと》への関心も強く持っている。
 聖域全体はやたらと閉鎖的で、聖域絶対主義者が多いが、アテナにしろ、教皇にしろ──お上の柔軟さのお陰で、何とか俺でも耐えられるのかもしれない。
 それから、辞する前に、アイオロスと話をした。無論、話題はミロのことだ。
「ハハハハ。ミロの奴、候補生まで巻き込んだのか」
「色々とよく考えるよ。感心するくらいだ」
「じゃあ、その頑張りに免じて、パーティに参加してくれるってわけには──」
「それとこれとは話は別だ」
「本当に、君は…、頑固だなぁ」
 それは些か、心外な言われようだ。頑固とか、そういう問題ではなく、俺はなるべく、聖域とは関わらないようにしているだけだ。それをアテナも認めている。
 尤も、それを大義名分のようにして、黄金聖闘士の務めを怠っているという非難の方が遙かに多いことも知っているが。
「折角のお祝いだろう。まーた、ゴタゴタでも起こしたら、悪いしな」
「え…、と〜。もしかして、俺に気を遣ってるわけか?」
 しまった。つい、口を滑らせてしまった。
「いやぁ、勿論、一番の理由は面倒だからだ!」
 力一杯、力説してみたが、アイオロスはニヤニヤ笑いながら、「ほぉ〜、なるほどねぇ」とか余裕綽々に頷いていたりする。こういうのを『後の祭』とか言うのかもな。

「まぁ、ニューヨークに来たら、一杯くらいは奢ってやるよ。あ、序でにミロも連れてこいよな」
 星座は違っても、同じ十一月生まれなのは知っていた。もう、過ぎているはずだが。
「にしても、あいつも面白い奴だよな。人のことばっかり、一生懸命でさ」
 アイオロスの誕生日を祝うために、色々画策しているのに、自分の誕生会に来てくれとかは一言も口にしないのだからな。
「それが、あいつの良いところだよ。一番、年下だが、誰よりも面倒見がいい」
「全くだ」
 一応、黄金聖闘士では(前聖戦の生き残りを除けば)俺が最年長なのだが──それを考えると、尚のこと、あんまり意味ないと思う。

 遠いアメリカ東海岸での再会を約束して、教皇宮を後にした。
 天蠍宮を通り過ぎる時は任務なのか、先刻はいた守人の姿はなかった。後のことはアイオロスに任せておけばいいか。
 帰るのにも聖衣は必要だ。そのまま、ゆっくりと階段を下っていく。遙か下方に、聖域全体が見渡せた。
 先代獅子座の黄金聖闘士《アイオリア》のことも含め、どうしても、隔意を持ってしまうが、いつかは俺もこの聖域に馴染む日が来るんだろうか。
 少なくとも、アテナたる城戸総帥は聖域を変えるつもりでいる。容易にはいかないだろうが、力を貸してほしいと望まれた時のことを、忘れてはいなかった。
 気長に努めるしかないのだろう。長い階段とて、いつかは下りきる時に至るものだ。

 不意に笑いが込み上げ、肩を竦めた。
「柄でもないな」
 俺は俺として、ありのままでいれば良いのだと──アテナも認めてくれていることだしな。
 それよりも、早いトコ、N.Y.に帰って、アイオロスたちを連れていく新しい店でも探しておくか。
 今はひたすらに、十二宮の入り口まで、地道に下りていくだけだ。





『聖闘士星矢・ロス誕2011-after』 お礼SS No.132

 候補生たちの指導は白銀聖闘士の重要な役目の一つだ。この日も魔鈴はまだまだ幼い候補生たちに稽古をつけていた。それも本当に日の浅い少年たちだったが、夫々の適性を計るために、組み手をさせていた。
「魔鈴、やってるね」
 不意に声がかかるが、今の聖域内で、警戒するような相手が現れることもない。近付いていた小宇宙とて、静かなものだ。振り向けば、同じ白銀聖闘士であるシャイナが立っていた。
「何か、用かい」
 以前は何かと、きつく当たってくることも多かったが、最近ではすっかり丸くなったようで、互いに白銀聖闘士の纏め役のようにもなっているのだから、不思議なものだ。
「いやいや、残念だったね。ヘコんでるんじゃないかと思ってさ」
「残念? 私が何をヘコんでるって言うのさ」
「何でも何も、折角のアイオリアとの任務を掻っ攫われたんだろう。それも兄貴に」
「あぁ、あのことね。別に、しっかり指導してくれれば、文句もないけどね」
「またまた、強がってるのかい」
 妙な言い方に、不思議そうにシャイナを見返すが、どうにも意味不明でしかないと首を傾げる。
 すると、シャイナの方も仮面の下で戸惑いの表情を浮かべたに違いない。
「……あんた、本気なの。よりにもよって、兄貴にアイオリアとの任務を奪われたわけじゃないの」
「奪うも奪われるもないと思うけど……何?」
 魔鈴のあっさりとした言い様に、呆気に取られたようなシャイナは「本気っぽいから、ムカつくんだよね。あんた」とか呟き、頭を振りながら、離れていった。
「何なの、一体」
 肩を竦めつつ、候補生たちの方に目をやると、組み手の動きを止めて、自分を見ているのに、眉を顰めた。
「何やってんの。続けなさい」
 慌てて、組み手を再会する少年たちに溜息が出る。思い返してみると、候補生たちも含めて、この数日、妙に『気の毒そー』な目を向けられることが多かったような気がする。これはもしかしなくても、シャイナが言うところの『ザンネン』扱いなのか!?
「冗談じゃないよ」
 我知らず、溜息も漏れるというものだ。アイオリアとの任務はそれこそ、あくまでも任務だ。
 しかし、それを「婚前旅行かぁ」とか何とか揶揄する奴も(つーても、一応は黄金聖闘士だったりするので、面と向かっては文句も言いにくい)いたりしたものだ。

 確かに以前から、イイ仲っぽいとはよく言われたものだ。昔はとかく、逆賊の弟と日本人だったので、慰め合ってるだの何なのと、散々に誹謗されまくりだった。
 その余韻なのかどうか、今では当然のように二人が恋仲かのように囁かれている。勿論、そういう意味で付き合った覚えはないのだが……。
 アイオリア個人は十分に『イイ男』だとは思うが、それ以上に『良い奴』だという感じ方の方が強いのだ。
 こういう感じ方は変なのだろうか? ましてや、その兄貴に嫉妬などするはずがない。
 兄に対しての些か複雑なアイオリアの思いを知っていれば尚……。
 その兄との共同任務となった今回の役目。
「今頃、どうしてるかね」
 復活した英雄殿の最愛の弟への行き過ぎた愛情の示し方に、聖域仲の人間が驚きつつも苦笑し、一寸だけ?呆れていたりもする。当然、魔鈴もだ。
「っとに、アイオリアも大変だよね」
 ついつい笑いがこみ上げるのを噛みしめ、候補性たちを見遣る。気分を切り替え、指導者モードに入ると、「集合」と呼びかける。
 幼い聖闘士の卵たちがワラワラと魔鈴の下に集まってきた。



 『星矢拍手纏め』 今頃収録な『獅子誕』拍手。去年は暑さ負けで、碌にお祝いできなかったので、今年は頑張るぞーと、意気込んで? テキスト打ち用の新兵器^^“POMERA”も入手したのもこの頃でした^^
 ロス誕要素が薄いような気がしないでもない『ロス誕拍手』は『星影篇』で。『ロス誕After』は何でか、メインが魔鈴さんの不思議。聖戦終了から数年後設定なので、そろそろ、進展あってもいいのに、相変わらずなお二人さんです。

2012.01.09.

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