『聖闘士星矢 〜 きっと幸せな新年を』 お礼SS No.135
「よしっ、こんなもんだな。掃除終了!」 部屋を見回し、満足そうにアイオロスは頷いた。 「さーて、次は夕飯だな」 楽しそうにキッチン・エリアへと向かう。 昼までに事務仕事を片付けていたので、少し手間取ってしまったが、まだ時間はある。 自分の食事は軽く摘みながら、手の込んだ夕食を作るつもりだった。既に買い物は昨日までに済ませ、できる限りの仕込みさえ、終わらせている。 何という計画性かっ☆ と黄金仲間が唸ること間違いない。全く、とある人物が関わると、嘘のように勤勉で、効率的に動くようになるのだから、感心するべきか、笑っていいものやら、悩むところだろう。 忙しく、支度を進めていたところ、声がかかる。十二宮を通過中なのは隣宮の主だった。 「あー、入ってくれ。ちょっと、手が放せないんだ」 応じて姿を現せたシュラは年の瀬も押し迫っているというのに、任務に出ていたことを示すように聖衣姿だった。 「おぉ、お帰り。結構、ギリギリだったな」 「何とかな。アイオロス、こいつをムウから預かってきた」 「ん? こりゃ、リザーヴじゃないか。ムウからって、どうしたんだ?」 中々、手に入りにくい逸品のワインに上機嫌になるが、理由を知らないらしく、首を傾げた。 「アイオリアに頼まれたそうだ。帰還が間に合わなかったら、アイオロスに渡してくれとな」 「リアが用意していたのか……」 クルクルと瓶を回し、光に透かして、目を細めた。 「まだ、戻っていないから、とりあえず、もうアイオロスに渡してくれとな。……帰ってこられるかな」 「なーに、まだ、六時間あるさ」 ちゃんと、今日中に、いや、今年中に帰ってくる。絶対に。 ワインをテーブルに置き、アイオロスは明るく笑った。 「ちゃんと約束したからな。一緒に年越しを過ごし、新年を迎えようってな」 弟のアイオリアもまた、数日前に任務のために、聖域を離れていたのだ。 出発する前に、弟は約束した。必ず、年内に任務を完遂し、戻ってくると。そして、聖闘士ではなく、兄弟として、過ごそうと……。 だから、アイオロスは全く心配していない。弟は約束を守る。きっと果たしてくれるはずだ。 ならば、帰ってきたら──何にも煩わせずに寛いで過ごせるように、全てを完璧に準備し、待っていてやろうと……。 そんなアイオロスに、シュラも一つ息をつき、微かに笑みを浮かべた。 「では、俺は失礼する」 「あぁ、有り難うな。お、そうだ、シュラ」 「ん?」 「良い年を」 少しばかり面食らった顔になったが、すぐに返す。 「あぁ、良い年を」 出ていくところまでは見送らず、アイオロスは調理の続きを進めた。 そして…、既に日も落ちた闇に沈む聖域へと、一筋の黄金の輝きが迫っていた。
『星矢・バレンタインなんだよなー』 お礼SS No.142
「兄さん、ちょっと聞きたいことが──」 勝手知ったる人馬宮──許可を請うなど省略し、奥へと進み、兄の小宇宙を辿りながら、声をかける。 が、その姿を見い出す前に、妙に甘ったるい香が充満しつつあることに気付く。どうやら、発生源は居住スペース奥のキッチンらしい。兄の小宇宙もその辺にある。それと、もう一人……。 「兄さん。何やって──」 「うわ〜、リアーッッ、待ったぁぁぁ〜〜!!」 甘い香も突破する絶叫に、さすがに足も止まる。飛び出してきた兄アイオロスは目を血走らせ、アイオリアの行く手を遮るように仁王立ちに☆ 「どう…したんだ、兄さん」 「今日は、この先進入禁止だ」 問うてはみたものの尋常ではない兄はガッシと、アイオリアの両肩を掴み、普段なら絶対に言わないようなことを宣言した。その兄の体も、何やら同じように甘く香立ち、アイオリアは少しばかり顔を引きつらせた。 一体、この兄は何をやっているのだろう? ふと、疑問を覚えたものの、直ぐに知らない方がいいと勘が囁いた。きっと、そうに違いないと。進入禁止なら、有り難く従うとしよう。 しかし、とりあえず、自分の用件だけは済ませなければならない。 「じゃ、ここでも良いけど」 前置きして、説明。答えを貰ったら、とっとと帰ってしまうに限る。 「おーい、ロス兄。早くしねぇと、固まっちまうぞー」 兄弟の受け答えが終了した頃、のんびりと奥から出てきたのはデスマスクだった。小宇宙で存在は察知していたが、実際に目にすると、不思議な気がする。人馬宮にて、兄とデスマスクが連《つる》んでいるとは……。 「よぉ、アイオリア」 「珍しいな。デスマスク」 「ま、ちょいと訳ありでな」 「余計なことを言うな! 戻るぞ!!」 「ハイハイ。んじゃな」 アイオリアを見送りもせずに、兄がキッチンへと身を翻していく。周囲がドン引きするほどの弟大好き兄ちゃんにしては、これもまた珍しい。 とはいえ、アイオリアにしてみれば、ようやく弟離れをしてきたかと──ちょっとばかし勘違いをしていた。 そう、正しく勘違いしたまま、人馬宮を辞した。 「ホ、ホラ、ロス兄。逃げ腰になんなっての」 「しかし、結構、熱い。火傷を……」 「嘆きの壁を焼いた“黄金の光”に比べれば、何てことないだろうが。また、固まって──」 何度目かの失敗、ということで、ドーンと沈み込む我らが英雄・射手座の黄金聖闘士様☆ 「ううっ、俺には才能がないのか」 そして、どん底まで落ち込むの図に、付き合わされるデスマスクの溜息も尽きるというものだ。 「まぁ、そんなにイジケんなって。形はどうでも、こういうのは籠められた想いってもんが重要なんだぜ」 アイオロスはガバッと顔を上げた。 「そっ、そうだな。心の問題だな♪ 俺の胸に宿るリアへの愛は何があろうと、消えない。永遠に尽きることはない!! この愛を存分に注ぎ込んだチョコを贈ってやるぞ☆」 「はぁ、さいですか」 燃え上がる兄ちゃんの決心はともかく、先刻のアイオリアの表情を見るにつけ、すっかり成人したアイオリアは、それほど甘い物好きでないようだが……ま、受け取るくらいはしてくれるだろう。
『聖闘士星矢・小宇宙部屋開設☆五周年記念』 お礼SS No.143
“アテナの聖闘士”とは永きに渡り、戦女神アテナに従う聖なる闘士たちを呼び表すものだったが、今では特に若き五人の青銅聖闘士たちを示すものとされていると知ったのは聖域と関わりを持つようになって、程なくした頃だった。 何しろ、その五人の一人と出会ったことで、聖域に足を踏み入れるようにもなったのだから、これもまた運命とやらなのかもしれなかい。 「リアステッドさん、久しぶり〜☆」 「おう、久しぶりだな。星矢」 アテナたる城戸総帥に挨拶を済ませるのを待ってましたとばかりに、駆け寄ってきたのは黄金聖闘士以外では最初に偶然?会った青銅聖闘士、ペガサス星矢だった。 尤も、ペガサス星矢とくれば、銀河戦争《ギャラクシアン・ウォーズ》の際に、一方的に知っている相手だったが。まさか、こんな形で知り合う──というより、小宇宙な世界に足を突っ込むことになろうとは思いもよらなかったが。 今日は星矢だけでなく、他の少年聖闘士たちも一緒だった。紫龍に瞬、氷河……それに、 「フェニックスもいるのか。よく来たな」 「…………まぁ、たまにはな。ニューヨークなら、あんたにも会えるというし」 序でだろうが何だろうが、興味を持ってもらえているようだというのは少しばかり、意外な気もする。 「沙織さんにくっついてないと、来られないもんね」 「リアステッドさんは日本には滅多に来ないですから、中々会えないし」 瞬たちも口々に言う。聖域だって、月一なのに、日本にはそうそう行けるわけがない。これでも、俺はFBIの捜査官なんだからな。 「にしても、お前さんたちも五人揃ってってのは結構、珍しいよな」 一人二人が総帥のお供でということはないわけではなかったが。 「うん。何かさ、チャリティ・イベントに顔出せってさ」 「ハハ、なるほど。銀河戦争で、顔が売れてるからな」 聖域云々という裏事情はともかく、青銅聖闘士の十人ほどが銀河戦争には参戦していた。中でも、この五人は決戦には至らなかったが、特に強い印象を残していた。 でもって、その延長戦たる聖域の内紛やら、海界冥界その他の神神とのゴタゴタ(睨まれそうだな)で、常にアテナの側近くに従い、最後まで力を尽くしたのも、彼ら五人だというのは“その筋”では超有名だという。 故に、最強筆頭の黄金聖闘士よりも、“アテナの聖闘士”の名に相応しいと、認められているわけだ。 まぁ、黄金聖闘士の務めを半ば以上放棄しているも同然の俺なんか、不良聖闘士もいいとこだろうがな。大方の人間はいい顔をしないが、星矢たちは一応の理解を示してくれているようで、割と懐かれているのだから、不思議なもんだ。 星矢などは先代《アイオリア》の自称?弟分だったそうなので、やはり、重ね合わせているのかもしれない、などと考えていた頃もあった。だが、 「えー、リアステッドさんはアイオリアとは全然、感じ違うよ。そりゃ、最初は間違えちまったくらいに顔も声も、小宇宙だって似てるけどさ。良く見れば、すぐに解ったよ」 初めて会った時のことを互いに思い出す。アテネ市内の路上での遭遇も……星の導き故の必然だったのかもしれないが。 こんな時、星矢も年齢にそぐわない表情を垣間見せる。が、直ぐに明るく笑いながら、 「けどさ、アイオリアが全力で戦った結果だってことも、俺たち、解ってるつもりだからさ。リアステッドさんも、アイオリアとは違うけど、やっぱり頼りになるし」 「それはそれは」 以前、妙なことで頼られたのを思い出したが──星矢は未だに知らないのだろうか? アイオリアが、星矢のためにその魂の力の全てをも注ぎ込むように費い果たし、消えてしまったことを……。 それは俺が告げるべきことではないが、アテナにせよ、アイオリアの兄アイオロスにせよ、その役目を負う者にも重い務めだ。 「皆さん、こちらに来てください」 そのアテナたる城戸総帥が現れ、華のような笑顔を向けて、手招きする。 面倒臭そうなフェニックスも含めて、少年たちが集まっていく。 「リアステッド・ロー、警備責任者に紹介しますわ」 一応、FBI捜査官として、仕事で来ているので、形式も必要だ。尤も、警備責任者といっても、どうせアイオロスとかミロ辺りなんだろうが。 グラード財団主催のイベントとなると、警備は独自に主導され、公的機関はどの国であってもお手伝いみたいなもんだからな。 「ま、その分、気楽でいられるけどな」 聖域絶対、女神様崇拝者が聞いたら、またぞろ、噴き上がりそうなことを口にしながら、俺は総帥の後に従っていった。
『拍手纏め』ですが、随分と溜まっているのに笑っちゃいます。 『アイオリアがいなーい! な年越し準備中物語でした』は2112年新年に上げたもの。どんだけ前だよ★ 果たして、兄ちゃんは上手くチョコを作り、ちゃんと渡すことができたのか!?なバレンタイン・ネタときて、最後は小宇宙部屋開設五周年記念ということで、捻り出しました『五』の話です♪
2013.10.16. |