『聖闘士星矢・お花見〜星影篇』 お礼SS No.148
「ほおー、こいつは凄いな」 一面に染まるピンクがかった白──これが桜色か。それも単調な色合いではなく、微妙なグラデーションに波打っている。 「丁度、満開だよ。リアは運が好いな」 案内役のアイオロスの声も心なしか弾んでいる。ここは日本は城戸邸を含む広大な庭園の一角(などと呼ぶには些か広すぎるだろうが!)で、“春の庭”だそうだ。そして、特に大きく占めているのがこの桜の園だった。 つまり、当然、春夏秋冬──四季折々の庭があるわけだな。さすが天下のグラード財団の総本家なだけはある。 それはともかく、昨日まで、俺は例によって、月一結界強化のために聖域を訪れていた。役目を済ませて、さっさと帰ろうとしたが、アイオロスに捕まった。 そして、日本に行かないかと誘われたのだ。 「何か、用でもあるのか?」 たまに城戸総帥に呼ばれることがあるので、今回もそうなのかと思ったが、アイオロスは特に用はないと言ってのけた。 たちまち、俺は渋い顔になった。 聖域から日本に行くには、ユーラシア大陸大横断を敢行しなければならない。ま、大洋《うみ》越えよりかはマシかもしれんが、碌に用もないのに聖衣を使う気にはなれない。 「却下」と言いかけた俺を、察したアイオロスが慌てて、手を振った。 「いや、俺には用はあるぞ。当たり前だろう。好き勝手に聖域を離れることが許されるわけはないからな」 「へぇ〜。……済みませんね。好き勝手に聖域を離れてて」 ちょっとばかし、捻くれた言い方をしてやると、困ったような情けない顔になった。それでも、黄金聖闘士筆頭かね。 「で? あんたには用はあっても、俺が行く理由はないだろう」 「それはそうなんだが。ただ、今は日本《あちら》は桜の季節なんだよ。リアはまだ、この季節に日本に行ったことはないだろう」 「まぁなぁ。でも、桜なら、一応、ニューヨークにもあるぞ。ブルックリン植物園の桜祭は中々、盛況だし、WFC(World Financial Center)も結構、いいらしいぞ」 だから、桜を知らないわけでもない。 「いや、君は本当に桜の美しさをまだ知らないのだ!」 何のこっちゃ、と苦笑したが、アイオロスは結構、しつこいところがあるからな。今後も付き纏われたりしては面倒だった。 てなわけで、N.Y.に帰る前に、何故か、反対方向の日本に向かうことになった。 そして、丁度、満開の見頃となった桜《はな》が俺たちをも迎えてくれた……。 サアッと風が吹くと、たわわな花を抱えた枝が揺れ、幾らか盛りを過ぎた木では散らされる花びらが風に舞った。 「桜吹雪だ」 「サクラフブキか。何というか、言葉も美しい響きだな」 吹雪《ブリザード》は恐ろしいものだというのに、桜を冠しただけで、全く趣が変わってしまう。不思議なものだ。 「……こういうのが日本的な情緒って奴かね。確かに、ニューヨークの桜だと、ちょっと違うなーという気になるな」 同じ桜には違いないのに、不思議なもんだ。 何となく、感慨に耽っていると、足を止めたロスが「あれ」と小さく声を上げた。 「どうした?」 「いや、あの辺りの木の姿が少し変わっていて……。余計な枝を落としたんだな」 幾分、残念そうな響きに、そちらに目を向けるが、初めて訪れた俺には無論、違いなど判らない。 「花が咲くと、重みで手が届きそうなほどに降りてきてさ。ま、時には剪定も必要なことだろうが、惜しかったな」 「……ま、何れ、また枝も伸びるだろうさ。何十年とかかるけどな。その時にまた、愉しめばいいさ」 その何十年かを、大きな争いもなく過ごせれば、花見を愉しめる日も来るだろう。 笑みを漏らしたアイオロスは再び、お気に入りだったらしい桜の木々へと目を向けた。 美しい花の饗宴は今正に闌《たけなわ》だった。
『聖闘士星矢・星影篇vsΩ《オメガ》』 お礼SS No.153
「おい、リア。日本で、ちと気になるアニメが始まったぞ」 相棒がいきなり、そんなことを言ってきたのは春のことだった。 「お前さん、ジャパニメーションも好きだったのか?」 意外な気持ちで尋ねたのも、今まで、それらしき話題を持ち出してきたことはなかったからだ。 しかし、俺の疑問に直接、答えることはなく、相棒は俺《ひと》のPCで、勝手にソフトを起動させる。 「まぁ、見てみろよ。百聞は一見にしかずだ。ジャパニメーションは超人気だからな。日本で放送された、その日の内に字幕付きで、ネットに流れるんだぜ」 「……それって、海賊版じゃ;;; マズいだろうが。んなもんに、人のパソ、使うなよ」 「まぁまぁ。ちょっとだから。ほら、繋がったぞ」 局内のPCで、海賊版のアニメ視聴って、どうよ? 突っ込む気も失せるが、次の瞬間、何となく聞き覚えのあるようなフレーズが流れ出した。そして、軽快な音楽が──OPだ。 やがて、本編へと突入するのを暫し、観賞していたが、遂に首を傾げた。 「何これ。聖域の啓蒙番組とか、イメージ戦略番組か何かか??」 「さぁねぇ。お前さんも、何も聞いてないのか。Ω《オメガ》ってタイトルらしいけど。ただ、世界観が現代って感じじゃないんだよなぁ」 「うーん。確かに神話の時代のイメージの方が近い気はするな」 それは正しく、『戦女神《アテナ》の聖闘士たち、少年少女たちが戦うという、まんまなコンセプト』のアニメ作品だった。ただし、登場する聖闘士は勿論、俺の知る者たちではなかった。いや、知る者も出ていないわけではないが──……。 「おー、星矢。カッチョエーなぁ。しかも、射手座《サジタリアス》を受け継いでるじゃないか。ってことは、やっぱり一応、現代なのか」 「ペガサスから、サジタリアスへバージョンアップって感じだな。そういうのは実際にあるのか?」 「さぁな。誕生星座が同じなら、黄金聖衣が認めれば、纏えることはあったらしいけど、引き継げるかどうかまでは聞いてないな」 引き継げるものなら、不死鳥座《フェニックス》辺りが獅子座《レオ》を継いでくれた方が、聖域にとっても、俺にとっても、最善だったような気がするがな。 っても、愚痴にしかならない。アイオロスに言わせれば、宿星《ほし》を持つからこそ、獅子座の黄金聖衣は俺を選んだのだから、諦めろ、と……。一方的すぎるよな。 そんなこんなで、十分ほど、見ていたが、いわゆるAパート終了のところで、俺はソフトを終了させた。 「ありゃ、全部、見ないのか」 「だから、局内のPCで、延々、海賊版を見てられんだろうが。大体、仕事! こないだの案件の報告書、まだだろうが」 「へーい。息抜きにいいと思ったんだけどなぁ」 息抜きが時には必要なのは否定しないが、この相棒の息抜きにはいつまでも付き合っているわけにはいかなかった。 謎の『Ω』なるジャパニメーションについては今度、聖域に行った時にでも、誰かに聞いてみよう。アイオロスやミロなら、色々と教えてくれそうだ。
『聖闘士星矢〜星影篇vsΩ《オメガ》 PART II』 お礼SS No.155
アテナのお供のコバンザメ、もとい、青銅の少年たちを迎え、その一人に俺は顔をニヤつかせた。 「よお、射手座《サジタリアス》の星矢殿」 「ちょ…っ、冗談でもその呼び方はやめてよ」 どうやら、散々に揶揄われているらしい少年は辟易した様子を隠さなかった。 少年──星矢の銘は“天馬《ペガサス》”であって、“射手座《サジタリアス》”ではない。ただ、誕生星座が射手座なので、その加護を受けることはあるようだが、決して、宿星《ほし》を持っているわけではないのだ。 冗談のタネは現在絶賛放送中☆ の聖闘士アニメだ。そこでは星矢は射手座を継いでいる…、らしい^^ 「そのくせ、技はペガサスのまんまなんだから、面白いよな」 「面白くないっ。勝手に人の名前、使いやがってー。抗議してやりたいよ」 多分、それは周囲に止められたんだろう。荒唐無稽なアニメの話ではなく、現実にも秘されている存在なのに、下手に突いては藪蛇──なんてことになりかねないからな。尤も、秘されているはずの聖闘士はアテナ御自らの主催による『銀河戦争《ギャラクシアン・ウォーズ》』で、大っぴらにされていたもんだが;;; その『銀河戦争』の記憶はまだまだ風化もしていない。俺も星矢の顔は覚えていたしな。 アニメ登場の青銅聖闘士も、『銀河戦争』に出ていた者と同じ銘が多いしな。 「──でも、アクイラって、鷲座《イーグル》だろう。お前さんの師匠の銘なら、白銀聖闘士じゃないのか」 「銀河戦争に出てた青銅聖闘士だけじゃ、話が作れないから、オリジナル出してきたんだろ」 「あぁ、なるほど。それが実はよりにもよって、星矢の師匠だなんて、知るわけないもんな。オマケに、白銀聖闘士なんてこと、制作者が知るはずもないし。エラい偶然だな!」 「…………本物のイーグルもあんな美少女だったら、良かったのになぁ」 こらこら──イーグルの耳に届いたら、かーなりヤバいことになりかねない危険極まりない科白だぞ。 俺は周囲を窺いながら、話を変えた。 「しかし、あの聖衣石《クロスストーン》てのは結構、いいかもな。持ち運びが楽そうで」 「…………好き勝手に飛んでくる黄金聖衣なら、どっちでも同じじゃん」 「ハハハ、そりゃそうだ」 確かに獅子座の黄金聖衣《レオ》もそうだった。いつだって、勝手に飛んできて、勝手に帰っていく。俺は一度として、パンドラボックスを背負ったこともないほどだ。まぁ、その必要もないというか、とてもじゃないが、想像できない姿だ。 「まぁ、サジタリアスはともかくとしてだ。 Ω《オメガ》のレオの方がよっぱど、それらしいよなぁ」 最近、出番がないけど、と笑い込みで言うと、何故か、星矢が憤慨したかのように、 「何言ってんだよ、リアステッドさん!」 「え…、何だ? 何、そんなに興奮して……」 「アニメが何だよ。今のレオはリアステッドさんなの! 忘れないでくれよ。……アイオリアの、後を継いでんだからさ」 「星矢。……解ったよ。ちゃんと、自覚してますって」 実際、重いもんだと──こういう時に、思い知らされる。
『聖闘士星矢〜射手座誕〜星影篇2012』 お礼SS No.160
今日も恙無く、一日の業務が終わった。まぁ、FBI捜査官の仕事なんて、忙しくない方がいいに決まっているが。 塒《ネグラ》に戻り、とにかくも息をつき、ビールでもと冷蔵庫に向かう──が、瞬間、気配が湧き起こった!? 咄嗟に跳びすさろうとしたが、何せ、狭い部屋だ。あっという間に、迫る気配が両腕を捕らえ、後ろから押さえつけられてしまった。 〈誰だっ? いつの間に…っ〉 担当した事件の関係者か、それとも、俺のもう一つの“銘”に関わることか? 戦女神の御下に集い、邪悪と戦う聖なる闘士──聖闘士。俺は何と、その筆頭たる黄金聖闘士の一人なのだという。 最初は何の冗談かと思ったが、至高の聖衣とも称される黄金聖衣、獅子座の黄金聖衣が事実、俺を選んだのだから、今更に仕方がない。 そして、それは海界や冥界といった、聖域と相対するような各界にも次第に伝わっていった。 そんな中の、何れかの勢力から、狙われたんだろうか? 何せ、黄金聖闘士の中では間違いなく、俺が最弱に違いないのだから。 瞬間的に、そんなことを考えたが、次には聞き覚えのある声が降ってきた。 「よーし、確保。連行するぞ」 「オッケー」 「んん? その声、アイオロス、それにミロかっ」 捕まえる力が微かに緩んだようなので、振り払って、立ち上がろうとしたが、その前に倒れた体を引き上げられた。 「うわっと…。って、カミュ? お前さんまでか」 「お久しぶりです。リアステッド」 何となく、申し訳なさそうに挨拶してきたのは水瓶座のカミュだ。反対側の腕を掴んでいるのは蠍座のミロ。そして、正面に立ち、ふんぞり返るように腕を組んでいるのが射手座のアイオロスだった。 「何なんだ。三人も、雁首揃えて」 「フッ…、獅子座のリアステッド。大人しく、聖域に来てもらおうか」 「はい? 何で??」 月一の結界強化なら、今月は済んでいる。何だって、黄金聖闘士三人がかりのお出迎えにこられるのか、解らない。 すると、アイオロスは大袈裟に溜息をついた。 「これだよ。全く…。今日は何日だ」 「え? 二十九日だろうが」 「では、明日は」 「はぁ? 何言ってんだ。三十日に決まってるだろう。あー、十一月も明日で終わりだな。もう十二月か。今年も残すところ、一ヶ月とは早いもんだ」 「そうだな。ってー、シミジミとしてる場合じゃないっ! 明日は俺の誕生日だっっ」 「……」 三十代男が声高に、自分の誕生日を主張するのは酷く滑稽だ。現に、付き合わされているカミュも気付かぬ振りをするように明後日を向いている。わりとアイオロス寄りのミロさえも苦笑いを隠さない。 「で、わざわざ、俺を迎えに来たわけか。暇かよっ」 「暇ではないが、最優先条項だ。いっつもいっつも、来てくれないで」 「こないだの蠍座誕には行っただろう」 ミロの顔を見ながら言ってやると、「まぁ、それはそうだけど」と言葉を濁した。何だよ、ちゃんと行ってやったのに不満かよ。 「来たといっても、最初から、いたわけじゃないだろう。いつの間にかチョロッと顔を出して、アテナに挨拶はしたけど、知らん内に姿を消してたじゃないか」 「頭からケツまで、通しで出るなんて、冗談じゃない。俺はそんなに暇じゃないんだ」 顔見せしてやっただけでも有り難く思ってほしいもんだ。 「聖域とニューヨークの往復なら、もう問題はないだろう。聖衣を使って、自由自在に」 「変態な真似を何度もするには心理抵抗が大きいんだよ」 「それは慣れだ。というわけで、強制連行されてもらう」 「んな、勝手なことを!」 「獅子座の黄金聖闘士《きみ》が聖域を離れていることについては未だに異論が多いんだ。そういう声を鎮めるためにも、こういう機会は有効活用しないとな」 「調子いいこと言ってるが、自分の誕生日に、俺を引っ張っていきたいだけだろうがっ」 「フフッ。何とでも言いたまえ。三人の黄金聖闘士を相手に、逃げられるものならばな」 「なぁ、リアステッド。今日は一応、仕事も引けてんだろう。来てくれても、いいんじゃね?」 「──済みません。本当に強引で」 「よし、じゃあ、行こうか♪」 「ちょっ…、俺はまだ、了解したわけじゃ。待てって、コラ……。いい加減にしろーっ」 「はいはーい。もう諦めてね」 無理矢理なんて、冗談じゃないぞ。 すると、アイオロスがクルリと振り向き、人が悪そうにニヤリと笑った。 「さぁ、早いところ、獅子座の黄金聖衣《レオ》を呼びたまえ。でないと、生身で、大陸間移動することになるぞぉ」 「なっ…っ」 何つー脅しだ。しかも、次の瞬間にはテレポートをしたのか、俺は強い風を受けていた。眼下にはニューヨークの街並みが広がっている。摩天楼群さえもが遙かな足の下だ。 「ホーレ、早く早く」 「くぅ〜ぅ。チックショー!!」 見る者が見れば、気付いただろうか。 四つの金色《こんじき》の輝きが東の空に向かって、飛び去っていったことに……。
『星矢拍手纏め』 これらも2012年作品ですね。全部、『星影篇』絡みですが。 『星影篇』にて、お花見話。NYも結構、桜は多いようです。枝が落とされて、姿が変わった下りは輝の好きだったとある公園の桜の実話。道路側に伸びていた枝のことごとくが落とされていて……勿体なくて、とても残念でした。で、噂?の『Ω』ネタ前後編で。まさか、二年目に突入するとは、『宇宙兄弟』ともども、驚きでした。ユナが出る度に、魔鈴さんはどこ行ったんだろう……と思ったり^^ それ以上にビックリなのはシャイナさんです。…幾つよ???(うわぁ、サンダークローがっ★) そして、射手座誕話。我がまま三十路男に振り回されるロー他二名^^ でした。
2013.10.16.
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