二人で 「どーゆーことですかっ。いきなり、そんな触れを出すなんてっっ」 「いきなりもへったくれないわっ! そーゆーことじゃっっ」 今日も今日とて、教皇宮は騒がしい。悲鳴じみた英雄殿の声が響き渡ったかと思うと、更には教皇様の一喝が重なった。正に、雷鳴の如き☆ しかし、一度は首を竦めたものの、次には誰もが「またか」と嘆息するのみだ。最早、年中行事か風物詩か。これが我が聖域のトップと補佐のやり取りかと思うと、悲しむべきか、呆れるべきか。はたまた、恐ろしきことか。 本日はさて、何事が騒動の種であろうか?
「今一度、言ってはいただけませぬか、シオン様」 「何度、言うても同じことじゃ。これより、月一開いておった黄金聖闘士誕生パーティは取り止めることとする!! 以上じゃ」 「マジですか、マジなんですかっ」 「マジもマジ、大マジじゃ!」 「何故です!? 納得しかねますっ」 「前から、気になっとって、仕方がなかったのじゃ。月一でないことがあるじゃろうが。例えば、お主とミロ、二人とも十一月じゃろう」 「それは〜〜」 アイオロスが詰まったのも当然だ。全く、その通りだったからだ。 黄道十二星座《ゾディアック》に相当するように、黄金聖闘士は十二人だが、決して、月に一人というわけではなかった。誕生日の日にちにバラツキがあるため、間隔が狭かったり、開くこともあるのだ。 「兵たちの慰労会も兼ねているとは言うが、こうも不定期ではな。間が長すぎれば、色々と溜め込む奴もおる」 おまけに、全員が完全休養を取れるわけでもない。当番に当たったりすると、次の発散チャンスがエラく遠かったりするのだ。 『世のため、人のため』を標語に掲げるような聖域であろうとも、やはり人の集団であることに変わりはなかった。そういった理由での揉め事も起きるものだった。 聖域は女神のものとはいえ、実質的な指導者はやはり、教皇だ。時代や状況に合わせて、『管理運営方法』を考えるのもまた、務めだった。 そして、慰労会を兼ねた黄金誕(略)の在り方も改めようとしていた。 戦う運命の者たちには無縁のものだろうか? ふと、遠き昔を思い起こし、シオンは苦笑した。それこそ、時代が違うではないか、と……。
「来月からは十日に一度、一の日に慰労の場を設けるものとする。よいな」 「……来月というなら、何故、私の誕生日が」 「次の日が十二月の一日じゃからな。当然じゃ」 「それだけですか」 「それだけじゃ! 二日も続いて、どうする。十一月はミロの祝いで騒いだじゃろうが。それで納得せい」 「〜〜〜〜……」 そうして、英雄殿は見た目は若いが、老練な教皇様に押し切られてしまった。ガックリと肩を落とし、教皇宮を出る姿が多くの者に目撃されている。
そうして、直後に『黄金聖闘士誕生パーティの廃止』と『一の日の慰労の日』が触れられたのだ。ただし、三十一日がある場合は行われず、翌月一日に設けられる、と。 結局のところ、兵たちにしてみれば、発散日が多く取れるようになった方が良いに決まっているので、すんなりと受け入れられた。また、程々に発散を重ねることで、程度を忘れて、喧嘩に至るケースも明らかに減ることになるだろうと、思われたのだ。 当の黄金聖闘士たちはといえば、元々、口実に使われていただけで、それほど、大騒ぎの主役になることを望んでいたわけでもない。あっさり承知してしまい、ゴネたのは英雄殿だけで、教皇様に言い含められたとか何とか、噂だけが暫く、流れていたものだ。
そうして、十一月三十日──聖域は通常業務の真只中で、騒ぎの気配もなかった。無論、個人的に祝いの言葉をくれる者は多かったが。 その日の業務を終え、しょんぼりとしながら、自らの宮──人馬宮に戻ったアイオロスは宮の中に、弟の小宇宙を感じ取り、急いで、中に入った。 「お帰り、兄さん」 「あ、あぁ。だが、アイオリア。何やってるんだ?」 忙しく動いているのは弟の方で、何やら、テーブルも賑やかしい。 「何って、あんなにゴネてみせたのに、自分の誕生日を忘れたわけじゃないだろう」 「そりゃ……」 ワインのボトルを手に、弟はニッコリと笑った。兄のアイオロスでも、余り見る機会のない全開の笑顔だったので、目を瞠ってしまったほどだ。 「こいつはデスマスクが良いのを教えてくれたんだ。で、これはムウからで、こっちはサガから。それはミロとカミュから──」 と、説明する。ちょいちょいと簡単な一品料理だったが、集まれば、中々の、大した量になる。尤も、多国籍というか、無国籍料理というか……統一性の全くない食卓と化していたが。 「皆が持ち寄ってくれたんだ。兄さんのための、お祝いにってな」 「そ、そっか。まぁ、あんなに騒いだからな。気の毒に思ってくれたのかな、皆」 頭を掻きながら、笑ってみせると、アイオリアはグラスを用意しながら、一言。 「あれ、シオン様とのヤラセだろう?」 「──え?」 思わぬ言葉に、思考も口も停止を余儀なくされた。すると、弟は珍しく、小気味良さそうな笑みを浮かべた。 「打ち合わせ通りだったんだろう? 実は兄さんも、誕生日を盛り上げられるのは余り、好きじゃないよな。本心から楽しんでいるようじゃなかったしさ」 「……気付いて、いたのか」 軽く息を止め、そして、苦笑した。アイオリアも同じように、笑いを重ねた。 「英雄だ何だと、呼ばれるのはもう慣れた。慣れるしかないんだろう。しかし、真にそう呼ばれるべきは俺ではない」 それはアテナに寄り添い、戦った少年聖闘士たちは無論のこと、あの十三年の間に、力を尽くした者たちの全てだと思う。当然、最後まで戦い抜いた、この弟――獅子座の黄金聖闘士アイオリアも……。 ともかく、長年、逆賊呼ばわりしてきた英雄殿や遺された弟にしてきた行いへの罪悪感故か、二人に関しては殊更に持ち上げようとする向きがある。 アイオロスは自分から率先して、祝い事や儀式に参加し、一緒になって、大騒ぎしたりもするが、実のところ、表面的なことでもある。立場上、聖域全体の士気を高めることも考えなければならないと承知しているからだ。本心では気が進まないから、止めてくれ、とも言えないのをシオンも汲み取ってくれたようだ。 とはいえ、本心の本心といえば、 「大体、何かというと、祝いだ何だと口実にされて――お前とゆっくり、誕生日を祝い合うこともできないのが何とも腹立たしい!!」 『弟大好き兄馬鹿一直線』だけは掛け値なしの偽りなし、真っ正直なほどの意思表明であることは変わらないと見える。 「ハイハイ。解ったから……。まぁ、これからはささやかなりともお互いに祝えるだろう」 「う、うむ」 「狙い通り。シオン様と兄さんのお陰だな」 アイオリアはワインのコルクを抜くと、グラスに注ぐ。グラスの中で、波打ちながら、葡萄色の光が美しく弾ける。 「とにかく、お祝いだ。二人だけでなんて、随分と久しぶりだ」 それこそ、アイオリアがまだまだ幼かった頃、アテナが降臨する直前の、アイオリアの誕生日だろうか。 暗黒などとも称される十三年の果てに、再び、このような時間を持つことが叶う喜び……。 殊に遺されたアイオリアは、絶望したことがなかったわけではないはずだ。生きることが苦しくて、投げ出すことも全く考えないでもなかったのではないかとも思う。 とても、恐ろしくて、尋ねることはできないが――ただただ、様々な思いを抱えながらも、生に齧りついた弟や、密かであろうとも、陰で支えてくれていた仲間たちにひたすら、感謝したい。
「それじゃ、兄さん」 「ん……」 「誕生日、おめでとう」 グラスの合わさる澄んだ音が沁みるようだ。 それにも況して、弟の祝いの言葉と笑顔が何よりのプレゼントだと、アイオロスは改めて知るのだった。
実はとっても、真面目なお兄ちゃんでした☆ バージョンのロス誕話。『ロス誕2013』さまへの参加作品です☆ いや、今年はないものとばかり……。単に開始が遅かっただけなんですね;;; いやいや、一応、例年スタート時期の頃に調べたんですよ。サーチとか検索(これは検索避けしてるだろうけど)とか、主催様サイトにも出向きました――でも、日記とか見ても、何か、気配が感じられなくて、今年はやらないのかな、と。 ただ、その後、サイトまでは覗かなかったのが敗因?でした。サーチは行ったんだけど(ゴニョゴニョ) 先代パソが昇天して、リンク先とか以前のメールデータとかも全部、吹っ飛んだのも敗因?? 一応、拍手だけは何とか上げて、そこで「ないみたい」とか書いたら、「やってますよ」と教えてくださった方がいました☆ アリガトーです。 慌てて、覗いてみると、まだ〆切もあるので、祭開催となれば、やはり書かねばならぬか!? とか何とかで、捻り出しました。 去年がシリアスすぎたので、今年は馬鹿話を目指していたのですが、着地点は微妙にシリアス向きになりました。「実は…」という真面目なロス兄さんもたまには良いかな、と♪ でも、やっぱり本気で「兄馬鹿一直線」の方が兄さんらしいかなぁ。
2013.12.12.
アイオリア・メインの小説サイトです 他、黄金聖闘士と女神様などが登場☆
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