十二宮の日常?


 十二宮には幾つか、ミステリー・ゾーンが存在する。
 いきなり異次元迷宮に繋がる双児宮とか、あの世への入口を持つ巨蟹宮やら。あの世≒六道送りをかますような守護者のいる処女宮に、謎の地下迷宮アスレチックを有する人馬宮なんてのも……どういうわけか、十二宮の下半分に多い。
 そんなミステリー・ゾーンに挟まれ、大迷惑を被っている極普通の宮もあったりする。

ドッカ〜〜ンッッ!!

 派手な爆発音を伴い、衝突した小宇宙が上空へと吹き抜ける。天井に大穴を開けて……。
「いい加減にしやがれ、シャカ! 勝手に魂《こいつら》を成仏させんじゃねぇッッ」
「君に命令される謂れなどない。私はただ、迷い出た哀れな魂を救ってやっただけだ」
「それが余計だってんだよ。こいつらは気が済むまで、巨蟹宮《オレんトコ》に置いてやってんだっ。てめェは口出しすんじゃねぇよ!」
「口など端から出してはおらぬ」
 確かに出したのは手……というか、実力行使;;;
「上等だ、このエセ仏教徒がっ!! 今日こそ、決着つけてやるっ」
「フン。君が私と張り合おうなどと、百万年早いわ」
「百万年も待ってられるかっ! 即行、叩きのめすっ」
「フッ。やってみるがいい」
「…………おい」
 膨れ上がる双方の小宇宙。正しく一触即発。これは千日戦争勃発か!? と思いきや。
「喧しいっっ! いい加減にするのはお前ら、二人だッッ!!」

バチィッ☆

 第三者の小宇宙も弾け飛び、絡み合ったから、さぁ大変★

ドオォォンッッッ!!! ガラガラガラ……

 先刻よりも凄まじい爆音&爆風が……。
「あっぶねーな、アイオリア。いきなり何だ」
「勝負に水を注すとは、全く無粋だな、君は。困った奴だ」
「困った奴らはお前らだ! 千日戦争なら、他所でやれっ。何度、獅子宮《うち》を吹き飛ばせば、気が済むんだっ!!」
 辛うじて、それ以上の暴発を抑え込んでいる獅子座のアイオリアの周囲には、それでも、抑えきれない怒りがパチパチ、パチバチと放電されていた。
 見上げれば、青い空。天井に大穴が開いたのは獅子宮だった。


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「また、派手にやりましたね」
「やられた、と訂正してくれ」
「トドメを刺したのは貴方の小宇宙だったようですが」
「…………」
 被害程度を検分に来たムウの言葉に、げんなりとなるアイオリア。さすがに気の毒だ。
「あの二人も、仕方ないですね」
「全く…。何で、よりにもよって、うちはあの二人の間なんだ」
 あの二人とは、そもそもの発端として、天井を吹き飛ばした蟹座のデスマスクと乙女座のシャカだ。四大ミステリー・ゾーンの内、実に三つの宮がアイオリアの獅子宮に隣接している。何の呪いかと思ってしまう。おまけに残る一つは兄の宮だし……;;;

 事態《こと》の経緯は次の通りだ。
 巨蟹宮の壁やら床やらに宿る?霊魂は時として、フラフラと外に彷徨い出る。アテナ結界はこの世のものならざる霊魂をも縛るのか、十二宮の階段に沿っての移動しかできないようで、下の双児宮か、上の獅子宮に迷い込む。
 下に向かった霊魂はまだ幸せだ。双児宮の守護者たちは穏便に対処するか、知らぬ振りで済ませるのだから。問題は上に向かった魂の運命だった。それもアイオリアが不在だったりした場合。アイオリアがいれば、やはり穏便に追い返すのだが……。
 まぁ、くどくどと語らずとも、獅子宮の天井に大穴が開いた顛末を見れば、察しもつくだろう。
 正しく、よりにもよって、獅子宮の直ぐ上の宮の守護者が、あのシャカだからして^^;;;
 迷子の魂を追ってきたデスマスクと、何故か魂を哀れんでか、普段は処女宮を動かないくせに、わざわざ下まで出てくるシャカ。その目的は正反対、真向から、ぶつかるものだ。

 獅子宮を舞台に千日戦争紛いの衝突を繰り返され、その度に宮を傷付けられ、いい加減に堪忍袋の御も切れかかっているアイオリアだった。
 誰よりも我慢強い男だが、同時に短気で血気盛んであるのも間違いない。両立しそうにない性質だが、アイオリアの場合、その我慢の許容量が人並外れているので、大抵は事無きを得ているのだ。但し、容量が溢れたら、もうどうしようもない。後は兄のアイオロスでさえ、無傷で止められるかどうか……。
 ムウは絶対にゴメンだと思っていたりする。……ハーデス戦での処女宮の時も、本音では嫌だったくらいだ。そうなる前に、何とかしなくては。


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「アイオリア。一度とことんまで、やらせてみたら、どうです?」
「とことん? デスマスクとシャカをか」
「えぇ。結果的に貴方が止めるから、二人とも中途半端にストレスを溜めているのかもしれませんよ。なら、一度思いっきり、存分にやらせてみては」
「獅子宮でか!? 千日続くかもしれんのに。その間、俺は何処にいればいいんだ」
 ちょーっと、論点がズレている気もしないでもないが、とりあえず、千日といえば、二年と九ヶ月ほど;;;
「大体、黄金聖闘士の千日戦争といったら、互いに消滅するかもしれないんだぞ。推奨して、どうする。オマケに獅子宮まで巻き込まれかねない」
 一緒に消滅、なんてなったら、確かに泣くだろうなぁ。
「その時は最新建築で、建て直してさし上げますよ。それに、そうなったらなったで、いっそ清々するかなぁ、とか」
「ムウ…、恐ろしいことを言うなよ。デスマスクはともかく、シャカとはお前だって」
 デスマスクが聞いていたら、やはり泣くかもしれないことをサラリと言う。この辺はアイオリアも大概だ。さすがに、ムウの友人を張るだけのことはある。
「シャカの心配など、するだけ無駄ですよ。十万億土の彼方に飛ばされても、帰ってくるような人ですから。でも、あの蟹さんにはねぇ。ハーデスとの戦いの折には見事に引っかけられましたしね」
「……だからってな。そりゃ、確かにかなり偽悪的な男だが、決して悪い奴ではないぞ。あいつなりに、アテナのことも聖域のことも、考えていたんだ」
「それは初耳ですね」
 全く信じていないようなムウの口振りに、アイオリアも嘆息する。これはもう、デスマスクの日頃の行いのせいでしかない。とはいえ、
「あいつが口にしたことを真に受ける方がどうかしている。誰もが本音ばかりを言うわけじゃないだろう」
「貴方もね」
「お前も、だな。とにかく、清々するなんて、二度と言ってくれるなよ」
 怒ったというよりは、悲しげな友人の表情に、ムウも黙って頷いた。


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 とりあえず、修復の手配をするために、ムウは獅子宮を後にする。だが、出たところで、直ぐに足を止める。
「デスマスク、いるのでしょう」
「ハハ、やっぱ、気付かれたか」
 頭をかきながら、偽悪的な黄金聖闘士が現れた。自分は邪悪だ。力が正義だ、と公言して憚らなかった男が。
「聞いていましたか」
「あぁ、まぁな。アイオリアの奴、怒ってるかと思ってたが」
「そりゃ、怒っていますよ。私もですが。こう何度も何度も手間をかけさせられてはね。二度と煩わせられないように、またスターライト・エクスティンクションで、何処ぞに飛ばしてさし上げたいくらいです」
「うっ、ムウ。それは──」
 怖い物知らずな蟹座がマジにビビっていた。一度、地獄に飛ばされたからか、ある種のトラウマになっているのかもしれない。

「でも、止めておきます。そんなことをしたら、アイオリアに怒られてしまいますから」
 デスマスクは内心で、ムウでもそんな風に気にする相手がいるのかと唸る。もしや、アイオリアを上手く利用できれば、ムウの怒りの鉾先を逸らせるようになるかもしれない? とか半瞬ばかり考え、直ぐ様却下した。それこそ、羊の逆鱗に触れる可能性の方が高い。
「とにかく、これ以上、獅子宮を破壊するような真似は慎んで下さい」
「シャカに言えよ」
「それ以前に、貴方が霊魂の逃亡を許さないようにすれば、済むことでしょう」
 正論…、に違いないが、デスマスクはポリポリと頬を掻いた。
「雁字搦めにしたくはねぇんだよ。あいつら、行き場のない連中だからな」
 偽悪的な誰かさんは、巨蟹宮に宿る霊魂は自分が殺した連中だ、などと吹聴しているが、そうではない。いや、そういう者も含まれているかもしれないが、殆どはあの世への道筋を辿りながら、死を納得できなかったり何なりで、逃亡してきてしまう霊魂だった。
 巨蟹宮はあの世に繋がる黄泉平坂《よもつひらさか》に通じている。だが、現世に余りに多くの死魂が出てくることは望ましいことではない。だから、デスマスクはせめてと、二つの世の境界たる自宮に留まることを許しているのだ。
 因みに揃いも揃って、呻いたり、嘆いたり、泣いたりしているのは、あの世逝きから逃亡をかますような連中はこの世に未練があるからに他ならない。ニコヤカな奴がいるなら、一度、見てみたいもんだ。

「巨蟹宮《うち》にいる間くらいは、ちったぁ自由に──」
「その挙句に、シャカに強制成仏されてもですか。しかも、千日戦争まで起こしかけて。デスマスク、私が何故、貴方に話していると思いますか」
 幾らか、声のトーンが低くなったのに、唾を呑み込む。背中を、こう冷たいものが這いずっていくような……。
「シャカよりは貴方の方が、大人だろうし、融通もきくと思っているからです。二度は言いませんよ。今度、獅子宮に被害を出したら、私との千日戦争を覚悟なさい」
「お前! 言ってることが無茶苦茶だぞッッ」
「無茶も苦茶もありません。即行で、あの世逝きになりたくなければ、手段を講じて下さい。宜しいですね」
 宜しいも宜しくないも、ないもんだ。牡羊座のムウにニッコリと凄まれて、物怖じしないのは獅子座のアイオリアくらいだ。シャカですらが半歩くらいは退くだろう。
 コクコクと頷いた己を、デスマスクは全く恥とは思わなかった。

 それからというもの、獅子宮へと霊魂が迷い込んでくることはなくなった。デスマスクが言い含めたのか、獅子宮側に何らかの障壁でも作ったのかは不明だが。
 ただ、その分、下への逃亡霊魂が倍増したので、巨蟹宮全体を封じ込めたわけでもないようだった。
 双児宮の二人──サガは眉を顰めながらも、やはり穏便に対処し、カノンも変わらず無視している。
 そのために、更に下の二宮に達する霊魂まで妙に増えた。別の意味で、白羊宮の守護者が柳眉を上げたのは別の話^^;



「……最近、哀れな迷い魂《もの》たちが現れなくなったな」
 わざわざ、下りてきたシャカの言葉にアイオリアは顔を引き攣らせる。一応、まだ関心はあるのかと。
「詰まらぬ。いっそ、巨蟹宮に乗り込んで、全て成仏させてやろうか」
「止めいっ! 人の宮で無茶なことをするな」
「無茶とは何だ。大体、何故、一々、君が口を出す」
「俺が言わねば、誰が言う。とにかく、各宮の管理は守護者に一任されているのだぞ。お前とて、処女宮の管轄下で、デスマスクが勝手な振舞いをすれば、怒るだろうが」
「六道送りでは済まさんな」
「…………」
 どっと疲れを覚えるアイオリア。何故、黄金聖闘士随一常識外れな男が隣人なのか。それもまた、星の運命というものか。
 何にせよ、冗談で済まされないのがシャカだ。その両肩を掴み、
「とにかく! 頼むから、止めてくれ」
「フム、まぁいい。今回は君に免じておこう」
 意外な言葉にアイオリアは顔を上げた。
「君の頼み事は実に珍しいからな」
 背を向け、処女宮へと帰っていく隣人を見送り、大きく嘆息する。今のが『頼み事』に価するのかどうかは別にして、穏便に済ませられるのならば、最初から、そうして欲しいものだ。
 とりあえず、一時の平安を取り戻したらしい獅子宮の守護者はもう一つ、溜息をついた。
 後はこの平安が、少しでも長く続くことを願うばかりだった。



 5555のニアキリ5556を取られた、かじり虫さんへのキリリク作品です。『ギャグで、リアはかっこよく、今まで絡みのなかった黄金との話、で』とのリク内容でしたが、ちゃんと応えられているんでしょーか? どうでしょう、かじり虫さん☆
 上と下の隣人たちとの絡みはこれまで、書いていなかったので、丁度良かったのですが、格好良いかどうかは微妙ですねぇ。うちのアイオリアは、あの!ムウやシャカとも十分に張れる辺りが格好良い?
 三人だけでは進展しなくて、ムウまで出してしまったし……難しいものですね。

2008.01.15.

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