迷宮にて


 ケイロンズ・ライト・インパルスッ!

ゴオオオオーッッッ

インフィニティ・ブレイクッッ!!

バチバチィッ

アトミック・サンダーボルトッッッ!!!

ドーンッ


「フッ…、このアイオロスの行く手を塞ごうなどと、愚かな真似をしたものだ」
 凄まじい光の乱舞が静まった後は暗闇に支配されるが、光の残滓を受け、立っていた射手座のアイオロスは傲岸なほどに嘯《うそぶ》いた。「決まったな」とか内心で思いながら。
 だが、直ぐに後ろから突っ込みが;;;
「いい加減にしてくれよ、兄さん」
「ん? 何だ、アイオリア」
 ニッコリと最高の笑顔で振り向く──小宇宙のお陰で、暗闇でも判別できる最愛の弟は肩を震わせており、どう見ても、怒っている様子だった。
「何だじゃないだろう。ある罠ある罠、全部に引っかかって! もう一寸、慎重に進んだらどうだっ」
「そんな悠長な。大した罠でもないし、吹っ飛ばしていけばいいだろう」
「次の罠は、大したものかもしれないぞ」
 意外と用心深い弟に、アイオロスは苦笑した。
「俺たち二人が揃っていて、どんな罠に後れを取るというんだ?」
 自信たっぷりな言葉に、弟は盛大な溜息をついた。
「何だよ、アイオリア。時間は惜しいだろう」
「場所が場所なんだ。罠はできるだけ、作動させない方がいい」
 二人がいるのは地下迷宮《ラビリンス》の一角だった。
「任務を終えたら、逆戻りして、帰るってことを忘れないでくれよ」
「大丈夫。こういう迷宮には、別の帰り道が用意されているものだよ。罠のない奴がな」
「…………ったく、兄さんが任務に対してまで、こんなにもいい加減だったなんて」
「コラ待て! 任務までとはどういう意味だ? 手を抜いた覚えはないぞ」
「ある意味では手抜きだろう。罠の存在を無視して、引っかかったら、吹っ飛ばせば良いだなんて」
「一々考えるなんて、面倒じゃないか。お前だって、面倒は嫌いだろう?」
 一瞬、アイオリアが詰まった。否定できないのは間違いない。だが、
「それは…、相手が明らかに力押しでも通ると判っている場合だけだ。それを兄さんは、どんな罠かもハッキリしていないのに」
 どうやら、呆れられてしまったらしい。
「でもまぁ、アイオリア。とにかく、進もうか。時間が勿体ない」
「ハァ…、やっぱり、サガと一緒の方が良かったな」
 とんでもないことを言ってくれた。アイオロスは体ごと、弟に迫った。
「何だ、リア! 聞き捨てならんぞ。兄さんより、サガの方が良かったって、言うのかっ」
「大体、本当なら、サガとの任務だったはずなのに、兄さんがゴネたんだろう」
「いや、だって…、折角の誕生日だぞ! お前と一緒に旅行に行くはずだった。シオン様にだって、任務は入れないようにって、お願いしてたのに」
「仕様がないだろう! 最適任者が俺だったんだからっ」
 兄弟揃って、地下に籠もっている本日はアイオロスの誕生日だったのだ。



 夏のアイオリアの誕生日に予定していた小旅行が任務で流れたため、今度こそは! と用意万端、整えてきたのに、またしても、アイオリアに任務が入ってしまった。当然、アイオロスは抵抗した。
「どうして、アイオリアでなければならないんですか。それは、黄金聖闘士の全てが出なければならないような事態ならばともかく、今回はそうではないのでしょう」
 世界のあちこちで、何らかの事件が起きている。聖闘士が全く出ないことなど、残念ながら、あり得ないのだ。だから、他の者の任務中に、休暇を取ることが許されないということもない。
「今回の任地が地下迷宮だからじゃ。蠢き始めた闇の住民を滅するには黄金聖闘士の持つ光の力が必要なのじゃ」
「だったら、他の者でも──黄道を巡る十二星座を象る我々の黄金聖衣には太陽の力が蓄積されているのですから」
 アイオロスは必死に訴えたが、シオンに一括されてしまった。
「阿呆! その力は“嘆きの壁”で、全て放出してしまったじゃろうがっ!! 復活を得た今の黄金聖衣には残念ながら、それほどの力は籠められておらん」
「う…」
 言われてみれば、確かに──そこまで思い至らなかったのは視野が狭くなっていたのかもしれない。
「では、何故、アイオリアなのですか」
「決まっておろうが。アイオリアは獅子座の黄金聖闘士。獅子座の守護星は何じゃ」
「…………太陽、です」
「それが答えじゃ。変更はない。アイオリア、よいな」
「勿論です。直ぐにでも出られます」
 控えていた弟はあっさりと承諾してしまう。兄たる自分が、誕生お祝い旅行を勝ち取るために、こぉーんなに頑張っているというのに!!

「では、同行者にはサガ。頼むぞ」
「畏まりました」
 法衣ではなく、黄金聖衣を纏った双子座のサガが頭を下げ、返答するのに、アイオロスの声が被る。
「ちょーっと、待って下さいっ!!」
「何じゃ、アイオロス。まだ何か文句があるのか」
「文句じゃあリませんっ。何で、サガが一緒なんですかっ」
 盛大に三人ばかりが嘆息する。これでは、まるで我が儘を言ってるみたいではないか、と不本意でもある。
 だが、やはりシオンの返答は明快だった。
「任地が地下迷宮だからじゃ! 何が起こるか判らん場所じゃぞ。できるだけ時間をかけずに、一直線に目的地に辿り着くには、異次元をも操れる双子座《ジェミニ》が同行するのが一番じゃ」
「カノンでもいいのだが、今はあいつは海界から離れられないそうでな」
 サガが付け加えるが、アイオロスとしてはサガでもカノンでも同じことだ。
「私が行きます」
「ハァ? 何を言っておる」
 案の定、更に呆れ声をシオンが発するが、気になどしていられない。
「ですから、サガではなく、私が同行しますっ! それで任務を片付けたら、帰りには何日か、休暇を下さいっ」
「ちょっ…! 兄さん、何を言って──」
 兄のとんでもない物言いに、アイオリアが慌てふためいている。よりにもよって、任務帰りに休暇を要請するとは!? 間違いなく、シオンがブチ切れ、今度は異次元やらに飛ばされるだけでは済まないだろうと、兄の身の心配までしていたほどだった。

 だが、余りにも吹っ飛んだアイオロスの思考に、恐怖の教皇様も怒るよりも脱力したらしい。代わりにサガが怒声を上げたものだ。
「…………お前という奴はっ」
「よい、サガ。怒る気も失せるわ」
「はぁ……」
「良かろう、アイオロス。サガの代わりに、アイオリアに同行せよ」
「そっ、それで、休暇はっ?」
「ハァァァァ〜★ 無事に任務を終えたら、三日ほどやる」
「ほっ、本当ですかっ」
「シオン様っ?」
「宜しいのですか??」
 アイオリアとサガが意外さ丸出しで問うが、シオンの気が変わらん内にとアイオロスはアイオリアの腕を掴んだ。
「それでは早速、行って参りますっ」
「ちょ、ちょっ…! 兄さん!? まだ詳しい説明も受けてないっての!!」

 とまぁ、そんなこんなで、二人は現在只今、この地下迷宮に潜っているわけだ。



「サガだったら、罠の感知も早いだろうし、無茶な突破はしないだろうからな」
「無茶とは何だ。お前だって、結構、力押し突破はするくせに」
「そうだな。二人揃って、無茶な奴では危なくて、仕方がない。やっぱり、一人は冷静なサガだった方が良かったよな。いざとなれば、異次元を使えるし」
 何でもかんでも、力押しに出るわけではないということは先刻も言っていたのに、こみかめの辺りが震えている。
「リア……。あ…、悪かったよ。そんなに怒るな。ただ、俺はお前と一緒に数日でもいいから、聖域の外で過ごしたかっただけなんだ」
「…………解かってるよ。そろそろ、先に進まないか。任務に時間をかけすぎると、帰りの時間が削られるぞ」
「──リアッ♪」
 ついつい喜びが声に溢れた。結局、最後は弟の方が折れることが多いとはいえ、今回は無理を通しすぎたこともあり、かなり怒っているようだったからだ。
「怪我でもしたら、詰まらないからな。これからは罠も避けていこう」
「最初っから、そうして欲しかったな」
 ボソリと呟くのに、少しばかり乾いた笑いを返さざるを得ない。いや、実をいえば、些か焦っていたのだ。早いところ、任務を片付け、弟と水入らずでの細やかな旅を楽しみたかったのだ。
「よーし、行くぞっ! アイオリアッッ!!」
「おうっ」
 地下迷宮の奥深くを目指し、黄金聖闘士である二人の兄弟は駆け出した。

 勝利の暁に、一寸した小旅行を勝ち取るために☆



 『ロス誕2009』さまへの投稿作品となります☆
 つーわけで、問題。『二人は何日かでも、旅を楽しむことができたでしょうか?』 答えは皆さんに思われるように☆ ということで^^ 満喫したかもしれないし、全然、駄目だったかもしれない。でもまぁ、一緒に聖域に帰ったのだけは間違いないので、兄さんなりに幸せだったかもしれません♪
 「約束したのにー」と兄さんが騒いでいたのは拍手話でのこと。勝手に約束したと思い込んでいたようです。どこぞに二人掛かりで飛ばされたくせに^^; 兄馬鹿兄さんは、その程度ではメゲないのでした。
 因みに、冒頭の必殺技には『IE系エンジン限定エフェクト』がかかってます☆

2009.12.05.

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