AGAIN


 パチパチと炎が爆ぜる音がやけに大きく響く。ジャードは薪を放り込みながら、背後を窺った。粗末な鍛冶屋の家には不似合いな煌びやかな衣装を纏った男女が椅子に座っている。
 二人はこのデルトラ王国の王エンドンと、その后シャーンだった。
〈しかし、本当にこの日が来てしまうとは……〉
 覚悟はしていたはずだった。どうにか、その前に、もう一度、エンドンと話ができないかと──だが、それは叶わず、遂に『影の王国』の侵攻は始まってしまった。
〈いや、エンドンとシャーン様を救えただけでも良しとするべきだ〉
 改めて心に決めるジャードに妻のアンナが歩み寄ってくる。
「あなた、食事の用意が……」
「あぁ。エンドン、食事にしないか。腹が減っていては頭も回らないし、良い考えも浮かばないぞ。シャーン様も、どうぞ」
「あぁ、ジャード。有難う」

 いつもは二人分、用意される食卓。四人分になっても、所狭しと小さな食卓が占拠されることはない。亡きクリアンが使っていた椅子を出してきても、一つ足りない。ジャードは適当な箱を自分の席に置いたほどだ。
 国王夫妻たる二人は呆然と、その小さき食卓を見つめていた。とりあえず、言われるがままに、席に着いたが、
「ジャード……」
「何だ?」
 ジャードにはエンドンの言いたいことの察しはついていた。ジャードも城を出た後に打ちのめされた現実に、彼も今、気付くのだ。
「君たちは…、いつも、こんなものを食べているのか?」
「こんなものでも、まだマシな方だ。さぁ、温かい内に」
 どんなものでも、温かい食事であれば、活力となる。
 顔を見合わせた王と王妃は恐る恐るといった態で、粗末なスープを口にした。……途端に、顔が綻び、異口同音に呟きが漏れる。
「──美味しい」
「お口に合いましたか」
「えぇ、もう!」
「どうだ。アンナの料理の腕は天下一品だぞ」
「ジャードったら、お二方の前で、恥ずかしいわ」
 状況も忘れて、笑いが零れる。だが、確かに楽しい時間だった。久方ぶりの親友と、その妻たちの──最初で最後の晩餐だった。



「エンドン、久し振りに一緒に打たないか」
「え? あぁ、それは……」
 食後、少し休んでから、ジャードはエンドンを鍛冶場に誘った。こんな時に鍛冶仕事どころではないだろう──エンドンの表情はそう語っていたが、これは絶対に必要なことだ。「その前に着替えだ。いつまでも、その格好ではな」
 自分の服をエンドンに渡す。全く異なる環境にありながら、サイズはそれほど変わらないのは幸いだった。
「シャーン様もお着替え下さい。アンナ」
 促されたアンナが服を取りに行く間に、エンドンが着替えを済ませる。
「これはどうする?」
 きらびやかな衣装と身に付けていた宝石は『王の持ち物』だと一目で判別《わか》る代物だ。残しておくべきではない。
「捨てるか。いや、万一、拾われては拙いからな。埋めた方がいいか」
「あら、捨ててしまうなんて、勿体ないわ」
 異論を唱えたのは戻ってきたアンナだった。
「宝石は埋めても腐らないから、いいですけど、服まで埋めることはないわ」
「しかし、何から足が着くかも分からん。こんな上等な絹服だぞ」
「解《ほど》いてしまえばいいのよ。糸にしてしまえば、代金代わりに貰ったと言えるでしょう」
 それは考えてもみなかった方法だ。
「なるほど。それじゃ、アンナ」
「解っています。早々に……」
 多くをクドクドと説明しなくても、アンナは意を汲み取ってくれる。安心して、後を任せられる。
 それでも、彼女をも否応なく、運命の荒波に巻き込んでしまうことに心が痛まないはずがないが……。


 暗い鍛冶場に火を灯す。背後でエンドンが中を見回している。
「此処で、仕事を?」
「あぁ。師匠から引き継いだ。アンナの祖父でね」
「君を…、助けてくれた人か」
「アディン王の導きかとさえ、思ったよ」
「アディンの……」
 デルトラ建国の王は元々、一介の鍛冶屋だった。『影の大王』と戦うために、夢に従い、七部族に協力を求め、夫々の部族の宝たる宝石を譲り受け、デルトラのベルトを作った。
 七つの宝石が一つとなった時の想像を絶する力の前に、一度は『影の大王』を追い払い、アディンはデルトラ王国を建てたのだ。

 とはいえ、感傷染みた思いに浸っている時間はなかった。
「さぁ、始めよう。まさか、忘れたりはしていないだろうな?」
「当たり前だ。鍛冶は王の義務だ。ちゃんと続けていたよ」
「結構だ」
 話しながらも、ジャードは手早く準備を進めている。
「ところで、何を打つんだ。やはり、剣か」
「いや──」
 ジャードは凝とエンドンを見つめた。その視線に尋常《ただ》ならぬものを感じたらしいエンドンが身動《みじろ》きする。
 その眼前に、近くに立てかけてあった鍬を取り、突きつけた。
「これだ」
「………それは、農具ではないのか」
 一寸した間がエンドンの戸惑いを感じさせる。
「そうだ。他にも鋤や鉈…。一通りは覚えて貰う」
「ちょ、一寸、待ってくれ。覚えろって…、何故だ。今は、そんなことをしている暇など」
「では、どうする。軍を調えるとでも言うのか? 今のデルトラに、そんな力があるのか。王家のために、それほどの兵が集まるのか?」
「それは……」
 城の外には初めて出たエンドンでも、さすがに『影の王国』の、アクババの攻撃を受けた今となっては現状を察することはできるだろう。
「今直ぐ、反撃に出るのは得策ではないよ、エンドン。というより、無理だ。デルトラのベルトは壊され、衛兵隊も失われた今、そんな力はデルトラにはない。仮に他の街からの援軍を得られたとしても、徒《いたずら》に兵を損なうだけだ。さっきも言っただろう。今は息を潜め、反撃の狼煙を上げる日を待つべきだ。ベルトの宝石も直ぐには取り返せない。敵の警戒が緩むのを待つんだ」
 一気に言うと、エンドンも反論のしようもないのだろう。黙り込んでしまった。やっと、口にしたのは別のことだ。
「……しかし、それと農具と何の関係があるんだ。何故」
「それは──これからは君が作り、直すからだ。鍛冶屋のジャードとして、な」
 エンドンが…、何を言われたのか理解できないような顔をしている。構わずに続ける。
「勿論、シャーン様にも、アンナになって貰う」
「ちょ…、待ってくれ、ジャード。どういうことだ。それではジャードもアンナも二人になってしまう」
「いや、そうはならんよ。夜が明ける前に、僕たちはデルを発つ」
 エンドンが引き攣れたような息を呑む。
「ジャード、何を?」
「だから、時間がない。さぁ、始めるぞ」
「待ってくれ! どういうことだ。デルを出ていくと言うのかっ」
「──そうだ」
「私たちがジャードとアンナに…? では、君は! 君たちは私たちの身代わりになると言うのかっ」
「エンドン。時間がないんだ。今は」
「駄目だっ! 私の愚かさが招いたことなのに、その代償を君たちが払わなければならない謂れなどない」
 こうなると、思っていた。エンドンが反発するのは分かっていた。だが、
「では、君たちがデルを出るとでも? 一日…、いや、半日と生きていけないだろう」
 見る間に、エンドンの顔が青褪めていく。こんなことは言いたくはなかったが、現実をしっかりと理解して貰うには仕方がない。
 ただ、そればかりではないということも……。

「エンドン、此処に残ることが安全だと考えてはいないか? そうとは限らないということを忘れるな。遠からず、必ず影の王国の本隊が攻め込んでくる。デルトラは更に混乱し、抵抗し、命を落とす者も多く出るだろう。君たちが実は王と王妃であることは絶対に悟られてはならない」
「しかし、君たちを知る者も多いはずだ。入れ替わるなど、無理だ……!」
 首を振るエンドンの肩を掴み、ジャードは言い募る。
「だから! 暫くは誰とも顔を合わせずに、此処に籠もっているんだ。侵攻が始まれば、デルの民の殆どが逃げ出すだろう。外で何があろうと、何が起ころうと、誰かが…、助けを求めたとしても、絶対に出てはいけない。君たち自身を、何よりもシャーン様を、お腹の御子を護らなければならない」
「私たちの…、子を?」
 目を合わせ、大きく頷く。
「我々の希望だ。デルトラのベルトの次なる主としての」
「あ…! し、しかし、無事に生まれたとしても、戦えるほどに成長するには十年以上の時が──」
「好都合じゃないか。十年二十年、逃れたはずのエンドン王が動かなければ、用心深い影の大王も油断するようになるだろう。エンドン王は何処かで、野垂れ死にしたに違いない、とな」
「野垂れ……」
 想像でもしたのか、更に顔を引き攣らせている。思い描いたのは自身の姿か、それとも、身代わりとなるジャードたちの姿か……。
「そう思ってくれれば、儲けものだ。奪われた宝石の護りも緩むようになっていく。その日を、ひたすらに待つんだ」
「待つ……。此処で、君になって?」
「そうだ」
 静かに、何事もないことのように答える親友に、エンドンの顔が歪む。
「君は──しかし、君の奥さんも身重じゃないか。そんな旅など」
「勿論、子供が生まれる頃には何処かに潜むさ」
 それでも、秋に生まれる予定なので、まだアンナなら旅に耐えられる。夏の予定のシャーンよりは許されている時間もあるということだ。
「そうだ、トーラは? シャーンの故郷で、我が王家とも縁が深い。尤も、私は無論、行ったこともないのだが」
 デルが東の都ならば、トーラは西の都。アディン王以来の王家との関わり深きことからも、エンドンが思いついたのも当然だが、それだけに『影の大王』もまずはトーラに目をつけるだろうことも予想されるが。
「考えておく。……いや、念のためだ。一筆、書いておいて貰おうか」
「わ、分かった。ただ、国王の印章はないんだが」
「サインだけでいい」
「しかし、どうやって、報せるんだ? トーラは遠いぞ」
「心配しなくていい。時間が惜しい。書いたら、始めるぞ」
 そう、全くもって、時間がないのだ。それに囮の如く出ていくジャードたちの行方など、彼らは知らない方がいいのだ。
 暫くして、鍛冶場からはカンカンと鉄を打ち合う音が響き出した。



 暖炉の前に座るアンナとシャーンは、その音に耳を傾けながら、絹服を解し、糸を紡いでいた。豪奢な衣装は見る間に解体され、絹糸へとなっていく。
「……何というか、鬼気迫るものを感じますね。ジャードはいつも、あのような音を響かせているのですか」
「いいえ。これほどに真摯な音は、私も初めてです。国王様が御一緒だからかもしれません」
 夫が何をしているのか、何をしようとしているのか──詳しい説明はないものの、アンナは察していた。
 国王夫妻を連れ帰った直後、あの細やかな晩餐の前に「夜までに、荷を造っておいてくれ」と耳打ちされていたのだ。

 パチパチッと炎が弾け、気を引かれる。立ち上がったアンナは薪をくべ、火掻き棒で灰を掻き回す。ただし、そんな風に、ゆっくりしていられないのはアンナも同じだった。荷造りは済んでいるが……。
 ふと、作業を続けているシャーンを肩越しに見遣る。手伝いを申し出られた時、正直、驚いた。一国の王妃様ともあろう御方が、庶民がするような作業を手早く、見事に熟しているとは! そして、思い出したのだ。シャーンが西のトーラの出身であるということを。
 シャーンがアンナの視線に気付き、微笑んだ。
「どうかしましたか」
「あ、いえ…。あの、ジャードから聞いたことがあるのですが、トーラの織物はとても滑らかで美しく、それは素晴らしいものだそうですね」
「えぇ。織り手によっては魔力が宿ることすらあるのですよ」
「シャーン様も、ですか」
「今まではそれほどの物を織ることはできませんでしたけど……織物はトーラの女性の嗜みの一つですから、幼い頃から、続けていますけどね」
 そうでもなければ、王妃が糸紡ぎなど、できるとは思えない。だが、トーラでは『女性ならば、できて当たり前』なのだろう。

「アンナさん。あれが貴方の織機《しょっき》ね。触ってもいいかしら」
「どうぞ。構いませんわ。古いものですけれど」
 恐らくはトーラやデル城で、シャーンが使っていたものとは比べようもないほどに粗末で、傷んだ代物のはずだ。それでも、亡き母の数少ない形見の品でもあり、大事に使ってきた。
「……よく、手入れされていますね。大切になさっているのね」
「有難うございます」
 アンナは心底、嬉しかった。このような御方ならば、きっと、大事に引き継いで下さるだろう、と……。

 絹服は全て、解し終え、紡いでしまった。まだ、鍛冶場からは鉄を打ち合う音が時折、届く。「少しでも、休んでおくんだ」と、ジャードには言われていたが、とても、そんな気にはなれなかった。
 薬草類も荷に加えようと、食卓に広げ、興味を引かれたシャーンに効能などを説明しながら、進めていく。
 これからのシャーンたちにとっては、薬草は重要な貴重品になる。知らず知らずの内ではあるが、アンナは大事なことを伝えていたのだ。

 ガタンと引き戸が開き、ジャードとエンドンが入ってくる。二人とも、ひたすら、打ち続けたのか、かなり疲れた顔をしていた。殊にエンドンの顔色はすっかり土気色になってしまい、驚いたシャーンが駆け寄る。
 そんなシャーンに適当に相槌を打つエンドンを視界の片隅に置きながら、アンナに話しかける。
「寝《やす》まなかったのか」
「ゴメンなさい。でも、シャーン様に薬草の手解きをしていたから」
「あぁ、そうか……。荷造りは?」
「済んでいるわ」
 頷いたジャードは妻の肩を抱き、次になすべき行動《こと》に即座に移る。
「ジャード」
 察したらしいエンドンが不安そうに呼び止めるが、応じている時間もない。
「あなた、どうなさったの」
「それが……」
 聡明なシャーンならば、この選択を悲しみつつも、受け容れられるに違いない。未だ、納得しきれていないエンドンを説得してくれるだろう。



「冷えるぞ。もう少し、羽織った方がいい」
「でも、余り荷が増えても」
「荷なら、僕が持つ。体のことを考えてくれ」
 偽善的な科白だと思う。身重の妻を先の見えない旅に引き出そうなどと!
 アンナが手を伸ばし、内心、沈むジャードの手を取った。一回りも小さな手であるのに、何と温かく力強いことか。
「ジャード」
「ん?」
「心配しないで。この子も大丈夫。何処ででも、きっと無事に生まれてくれるわ」
 何故、こんなにもハッキリと言い切れるのだろう。
「何より、私は…、貴方と一緒にいたいの。何処へでも、一緒《とも》に付いていきます」
「……有難う。そう言ってくれて」
 そのまま、小柄な体を抱き締めた。
 クリアンに救われ、アンナと出会い、共に過ごしたこの家に、何時か帰る日はあるのだろうか。
〈いや、今から弱気になって、どうする〉
 機会を窺い、必ず宝石を取り戻す。そして、甦った『デルトラのベルト』を王の世継ぎに継承させ、『影の大王』の支配を打ち払うのだ。
「行こうか」
「はい」
 二人は連れ立って、エンドンとシャーンの元に向かう。エンドンから話を聞いたためか、シャーンの目が少し赤くなっている気もする。そして、エンドンは……、
「ジャード……」
「もう、何も言うな」
「しかし、やはり、こんな! アンナさんにも無理をさせられない」
「余計なことは考えなくていい」
「余計だと?」
 キッパリと言い放つと、気遣いを無にされたと感じたか、さすがにエンドンも顔色を変えたが、やはり意には介さない。
「全く余計なことだ。君たちが考えなければならないのは次代の王たる世継ぎを生み、育てること。デルトラのベルトの主を、民に愛され、信頼される王を育てること……。ただ、それだけだ」
 雷にでも伐たれたかのように、エンドンが立ち竦む。それを傍らのシャーンが支える。
「あなた、もう……」
「解かっている。解かってはいるが!」
 苦しそうに吐き出し、俯く親友の肩を一つ叩く。
「ジャード…!」
「今から、その名は君のものだ」
 二度と、その名で呼ぶなとの意をエンドンも察しただろう。
「それと、宝石は僕らが持っていく」
「え?」
「何処かで、適当に売り払うさ。ま、買い叩かれるだろうがな」
「しかし、それでは足がつくことになるのでは」
「それが狙いだ」
 如何にも、エンドン王とシャーン王妃がデルを逃げ出したと思わせるためにも!
 嫌でも理解したエンドンも息を呑み、黙り込む。ただ、もう一つ理由はある。高価な宝石を残しておいたら、幾ら埋めていったとしても、貧困に慣れていない二人は手を出してしまうかもしれない。そのために二人の素性が露見でもしたら、最後だ。
 そこまで説明する必要はない。既に反論する気力を失くした親友に笑いかけ、ジャードはアンナを伴い、クリアンに救われて以来、過ごした『我が家』を後にしたのだ。


 まだ明けぬ闇の中、ランプの灯火だけが行く先を照らす。それでも、闇は余りにも深く、見通すことは叶わない。
 今一度、二組の夫婦は向かい合う。
 最早、親友を翻意させるなど、不可能であることをエンドンも識《し》っていたのだろう。ただ、無言で抱きしめてきた。傍らでは、シャーンがアンナを同じように……。身代わりとして、旅発つ二人の無事をただ祈るばかりで見送るのだ。

『いつか……』
『いつか、必ず』
『もう一度……!』
『一緒《とも》に!』

 言葉としなくとも、彼らは誓う合う。
 名残を惜しんでいる場合ではなかった。ジャードはアンナを促し、見送る二人に背を向けた。
 呼びかける声はない。必死に堪えているのだろう。そして、ジャードもアンナも、二度と振り返らなかった。
 当てのない旅に、だが、大いなる決意を以って、挑むのだった。



「アンナ、師匠の墓に寄っていこうか」
「いいえ。時間は少しでも惜しいのでしょう」
「本当に、いいのか?」
 確かめるように尋ねると、妻は頷いた。
「ここからでも、心は届きます。いいえ、どれほど、遠くまで行こうと、忘れなければ、いつでも悼むことはできるわ」
「……国のためとはいえ、君まで危険な旅に。師匠に恨まれてしまうな」
 溜息をつくと、アンナは笑った。
「本当にそう思う? 貴方を信じて、私たちを一緒にしてくれたのよ。勿論、私が望んだことだったから、認めてくれたんだけど」
 まだまだ、夜明けには遠い薄闇の中、それでも、彼女の笑顔は美しく、風の打つ寒さの中でも温かさを灯してくれる。
「何度でも言うわ。私は何処までも、貴方に付いていきます。……初めて会った瞬間《とき》から、そう決めていたの」
 幼い頃の、幼い想いは成長し、永遠のものとなっているのだと……。
 改めて、アンナの強い想いを聞かされ、ジャードは涙が出るほどに嬉しかった。いつか、報いられる日は来るのだろうか。
 それは正直、解からない。解からないが、決して、諦めはしない。
「行こう」
「はい。でも、ジャード。何処へ行くの」
 苦笑したくなるほどの問いかけだ。だが、エンドンと話した時のトーラの街のことが思い出される。『影の大王』が目をつけていたとしても、子供を生める場所としては何処よりも安心できる。
「一先ずは西へ。とにかく、一刻も早く街を出ることが先決だ」
 荷物を抱え直すと、一歩一歩と歩みを進める。
 背にした東の空は白み始めていた。その空に、一羽の鳥が…、烏が飛び、啼いていた。他には鳥の姿はない。
「鳥まで、逃げてしまったかしら」
「だろうな。後は隠れているか。アクババも飛んでいたしな」
 そんな中、飛んでいる烏をジャードは見上げた。それが数少ない味方であることを、彼だけは知っていた。

 明け切れぬ夜は恐らく、長く人々を苦しめるだろう。
 それでも、これは解放への第一歩なのだと、ジャードは自身に言い聞かせた。

《了》

続き・OPENING



 ド久々の『デルトラクエスト』長編、祝『クリミナル・マインド』視聴開始作品でした☆ え、何の関係があるって? そりゃもう! ジャード声のホッチの格好好いこと!! 森田さん、サイコー♪ ジョーカー(ジャード)・ファンは絶対、視る(聴く)べきです^^ 勿論、物語も面白いですよ。警察物ファンには見応え十分。人気作品なので、中々、一巻が借りられなかった。やっぱ、第一話から視たいですからね。
 それはともかくの『親世代の再会と別れ』物語。再会は小説やアニメで描かれていますので、『別れ』の方に重点を置いてます。ジャードとアンナ視点で進めたので、エンドンたちの思いは書ききれていません。そちらも、何れは書きたいものです。
 にしても、先の見えなさすぎる旅に、身重だというのに、よくまぁ、アンナさんは文句言わず、付いていったなぁ。よほどめ、旦那を信じていたか、まぁ、好きだったんだろうね

2009.11.13.

トップ 小説