DISTANCE

前篇


 リーフはジャスミンと共にチャペルを後にした。
 父の死は悲しい。一晩中、傍にいたい──でも、父はそれを望まない気がした。国のため、民のために考えるべきこと、為すべきことは山ほどあるのだ。

 二人並んで歩くデル城城内。勿論、リーフも初めての場所の方が多い。捕えられたジャスミンたちを助けるために忍び込んだ時は碌に周囲を見る余裕もなかった。
 『影の大王』の支配下にあっても、美しい城であってくれた。嘗ての侵攻の際に破壊された箇所はともかく、全体を改築したりするなど、余計な労力を費やしたりはしなかったのだろう。
 何となく、歩いている内に、夜明けは迫る。城内も一部は既に目覚めているらしい。そして、
「あれ、皆」
「リーフ、ジャスミン」
「どうしたのです。チャペルで、お父様に…、エンドン国王に付き添っておられるものとばかり、思いましたが」
「今は母さんが残ってくれています。二人だけにしてあげたくて」
「そうですか。シャーン様が……」
 トーラ族の長ゼアンが呟く。リーフの母シャーン王妃はトーラの出身だった。しかも、『影の王国』侵攻の際、デルトラ王家の助勢の願いを拒絶したという負い目があるのだ。ただ、その報いをトーラ族は既に受けているが。その日から実に十七年──トーラ族は自らの魔力により、囚われていたのだ。
「皆はどうしたの。休んでなくて、大丈夫なの」
 七部族の者たちは殆どが捕えられた時の負傷で、フラフラしていたはずだ。
 ジャリス族のグロックが牙を剥いて、笑った。
「そいつは俺の薬がモノをいったぜ」
「そういう貴方が一番、重傷だったんじゃないの」
 ジャスミンが心底、心配そうに尋ねるのも当然だ。敵に囲まれた時、仲間を助けるために、誰よりも奮戦し、それだけに傷も深かったのだ。
 尤も、根が頑丈な男は豪快に笑い飛ばした。唾つけときゃ、治る、とか。いや、確かにジャリス族特製の薬は貴重かもしれないが;;;
「落ち着いたら、腹が空いちまってな」
「まだ、朝までには時間がありますが、興奮しているのか、どうにも眠れないのですよ」
 夫々の理由で集まってしまい、何となく揃って、移動していたらしい。
 リーフとジャスミンも顔を見合わせた。その気分は二人にも共通したものだ。

 揃って歩いていると、大きな廊下に出た。その先は大広間で、王の即位式も執り行われる。
「リーフも、そこで即位するんだね」
「まだまだ、先の話だよ」
 『影の大王』を追い払ったばかりで、王国全体の混乱が治まったわけではない。即位式ともなれば、どれほど慎ましくしようとしても、中々そうはいかない。だが、
「いやいや、人心を鎮めるためにも、一日でも早い方が宜しいでしょう」
 メア族のファーディープの言葉にも一理あった。仲間たちは少しばかり人の悪い笑顔で、リーフを小突く。
 大広間の入口は扉が大きく開かれていた。『影の王国』の幕は引き下ろされ、デルトラ王国の国旗が揚げられている。 
「本当に、影の大王を追い払ったのだな」と、感慨深いものが夫々の胸に去来する。
 人気もなく、暗く静まり返った大広間──その奥まったところに、玉座があるはずだ。灯りがないため、入口からでは全く見えないが……、
「待って。誰か、いるわ」
 森で生まれ育ったジャスミンは微かな灯りでも、闇の中を動けるのだ。彼らが持ったランタンが射し込む光だけで、何者かの姿を捉えたのだ。
「こんな真暗な中にか」
 訝しく思い、リーフたちは大広間に入っていく。
「ジャスミン、何処にいるんだ」
「この先、玉座のところよ」
 その時、ジャスミンはその正体に気付いた。言わなければ良かったと思ったが、もう遅い。
 ランタンの光が玉座に届き、一人の人影を浮かび上がらせる。
 階段を数段上がった玉座に──座しているわけではない。勿論、その主はデルトラ国王──今はリーフにのみ、資格がある。

 玉座手前の階段に光に照らし出された男の姿が浮かび上がる。物憂げに俯いていた男が顔を上げ、眩しげに光を遮った。それは、
「ジョーカー」
「……何だ、お前たち。揃って、どうした」
 リーフたちとは衝突することもあったが、最終的には全面的に協力してくれたレジスタンスのリーダーだ。だが、今の彼にはもう一つ、別の顔があることを知る者は限られている。この中ではリーフとジャスミンだけだ。
「あんたこそ、どうしたんだい」
 小人族の勇敢な弓の名手グラ・ソンが些か不思議そうに尋ねる。暗闇にいたのも疑問だが、光が入ってきて、気付かないような男ではないはずだ。
「こんな所で──玉座の簒奪でも企てようってのかい」
 グロックの洒落にならない冗談に、他の者は蒼褪めた。
 民を虐げる王など要らない。国は魔力などに頼らずに、人の力で建て直すべきだ、との持説に従い、レジスタンスを率いてきた男だ。皆が不安を覚えるのも当然だろう。案の定か?
「……次代の王はベルトに認められ、そして、何より民の信頼を勝ち得た。追い落とすのは難しいだろうな」
 皮肉っぽく口を歪めるのは変わらない。
 七部族には相変わらずだと、眉を顰める者もいたが、リーフとジャスミンだけは光の中に垣間見えた空色の瞳が、この上ない傷みに染まっているのに気付いた。
 他に知る者はシャーン王妃とバルダの二人だけ──彼が生涯の親友との十七年振りの再会と、そして、永遠の別れを経験したばかりだということを。
 それがどれほどの痛手なのか、リーフはバルダやジャスミンを失うことを考え、頭を振った。とんでもない想像だ。
 だから、自分にはジョーカーの痛手を理解することなど、とてもできない。

 そのジョーカーは表面的には何でもないように振る舞っている。
「で、お前たちはどうした」
「腹が減って」
「お前は直ぐに、それだな。しかしまぁ、食えるのなら、もう体は大丈夫か」
 立ち上がったジョーカーが付いてくるようにと、歩き出す。
「何処に行くんです」
「飯が食いたいのだろう? この時間なら、料理人たちが厨房を開けているだろう」
「料理人なんて、いるんですか」
 リーフが意外に思ったのも当然か。長く『影の王国』の支配下にあったデル城だ。その尖兵たる『影の憲兵団』は普通の人間ではなく、勿論、食事も普通ではなかった。それをデル城の料理人に作らせていたのか?
「それもあるが、人間にも、影の王国への協力者がいなかったわけじゃない。残念ながらな。お前たち、リスメアで、どんな目に遭った」
 リスメア──リスメア競技大会──拉致──思い出したくもないことだ。
「料理人たちは昔からデル城にいた者が殆どのようだ。脅されてな」
「もう調べたんですか」
「できることは早く済ませておくに限るさ」
 勝手な思い込みや危機感から逃げ出されても、後が面倒なだけだ、と実に淡々と説明するジョーカーに、一同は食堂と思しき一室に通された。
 席についた七部族の中には疲れを覚え、船を漕ぐ者も何人かいた。

 厨房に話を通しに向かうジョーカーの背を追っていたジャスミンを、リーフは窺うばかりだ。
 ジョーカーとジャスミン、二人が実は父子だったとは──生き別れた時は幼く、顔すら憶えておらず、ただ失った悲しさだけを募らせていたジャスミンが、どうしようもないほどに険悪にしかならなかったレジスタンスのリーダーが実父だったと知り、それでも、涙したのだ。生きていてくれたと!
 『影の王国』に連れ去られ、重傷を負い、記憶を失くしても──ひたすらにデルトラを目指し、生き延びた父を。そして、デルトラ解放のために戦い続けた父を、今では口に出さずとも、尊敬すらしているはずだ。
 だが、父子として、実際に向き合わねばならないことは、それとはまだ別の話だった。
 ジョーカーの方も、どう考えているのかは、やはり窺い知れないことが影の憲兵団や魔物とも勇敢に戦うようなジャスミンを些か、臆病にしていた。
「何だか、ジョーカー。少し雰囲気が変わったんじゃありませんか」
 ララド族のマナスの感想は他の者にも受け入れられた。
「そうですね。言われてみれば、少し刺々しさが薄れたかしら」
「一応、国は解放したんだしよ。しかも、半分、信じてなかった魔法のベルトのお陰でよ。そのせいじゃねぇの」
 仲間たちが勝手な推測を並べているが、何も知らない彼らにも感じ取れるほどに、確かにジョーカーの纏う雰囲気の変化は顕著だった。
 嘗て、国の解放と勝利のためには手段を選ばない、冷酷無比なるレジスタンスのリーダーと、ならず者や賊どもにまで恐れられた男……。彼を怒らせるよりは影の憲兵団を相手にした方がマシだとまで言わしめた男が数人の料理人を連れ、戻ってきた。あの頃からでは、想像もできない姿かもしれない。

「これはリーフ様ですな! よくぞ、お出で下さいました」
 口上はともかく、彼らは軽食を持ってきてくれた。傷付き、疲れた七部族では今、豪勢な料理など用意されても、受け付けないに決まっていた。
 皆、大喜びで、ありつき始める。それまでは食欲のなかった者も、上手そうな匂いに刺激されたのだ。グロックなどは、あっという間に一皿目を平らげ、オカワリをしていた。
 一方で、ジョーカーは席につかず、配膳され終わるのを見ると、出て行こうとした。勿論、ジャスミンが見逃すはずがない。
「一寸、何処行くの。貴方は食べないの」
「腹は減っていない。俺はいらん」
「駄目よ! 何でもいいから、一口でもいいから、食べて」
 あっさり出て行きかけたジョーカーに駆け寄り、袖を掴んで離さないジャスミン──奇妙な沈黙が下り、七部族も食事の手を止めた。
 暫し、睨み合う二人──二人が険悪な仲なのは皆が知っていることだ。正確には、ジャスミンが必要以上にジョーカーの言動に苛立ち、嫌っている感ではあったが、時折、ジョーカーも無駄にジャスミンを逆撫でする真似をしていたのも確かだった。
 最悪なほどに相性が悪い、といわれていた二人は、今に至っても相変わらずか、と危ぶまれた時、嘆息したジョーカーが食堂内に戻り、空いている席に座った。
 ハッとしたジャスミンがパタパタと料理人の元に走り、一膳手に取り、ジョーカーの前に置く。顰め面のジョーカーだったが、それでも、口に運び始めた。
「オイオイ、どーなってんだ? 何で、お嬢ちゃんの言うことを大人しく聞いてんだよ、あんた」
「いいじゃないですか。食べられると時に食べておいた方が。明日から、というか夜が明けたら、忙しくなるでしょうからね」
 グロックの疑問は誰もが持ったものだが、マナスの言葉の方がより重要だった。全員が我に返り、やっと湧いてきた食欲を満たしにかかる。
 そこにバタバタと足音を立てて、老年の料理人が入ってきた。
「まだ、オカワリはありませんかな」
「いや、もう十分」
「おおっ。あるなら、くれ」
 これは言わずとしれたグロックだ。



 老料理人はリーフの傍らに歩み寄り、深々とお辞儀をした。
「リーフ様ですな。お若い頃のエンドン様に、よう似ておられる」
「父を知っているんですか」
「勿論ですとも。お父上がまだ王子でいらした頃から、ワシはこの城の料理人を務めておりましたからな」
 気を引かれたジョーカーが視線を遣り、微かに表情を動かしたことは誰も気付かない。老人の話に気を取られていたジャスミンでさえも。
「お父上は、残念でした」
「……父はデルトラの国に殉じた。そう思います。国を荒らし、民を苦しめてしまったことを心底、悔やんでいたと」
 王の親友ジャードとして語ったことは、間違いなく父の本心だったのだ。
「でも、リーフ。エンドン国王は、貴方のお父さんは過ちを知り、質そうとしたのよ。貴方は御両親から、色々と教えられてきたはずだわ」
「うん。そう思っているよ」
 幼い頃から、鍛冶屋には必要ないと思われることさえ、折に触れ、語り続けた両親……。
「だったら、エンドン国王は、昔の堕落した、何も知らないまま、苦境を子孫に押しつけた王たちよりは全然、マシってことじゃない」
「そうなのかな……」
「表現はともかく、ジャスミンの言っていることは確かだと思うよ」
 七部族の間からも賛同の声が上がる。
「そうそう。だから、リーフ。貴方が落ち込むことはないわよ」
「ありがとう、ジャスミン。皆も」
 ポンポンと肩を叩かれ、苦笑するリーフ。

 その二人を老料理人がマジマジと見つめていた。殊にジャスミンを──カァと烏のクリーが一声鳴き、ジャスミンも気付く。
「どうかしたの、クリー。……えっと、何?」
「あっ、いや、これは失礼。昔を思い出しましてな」
「昔?」
「ハイ。お二人がまるで、エンドン様とジャードのように見えたもので」
 ドキッとしたのは当の二人。七部族の皆の興味深げな視線を集める。
「ジャードって、リーフのお父さんが使っていた名前だよね。エンドン国王の親友だったっていう」
「ですが、そのジャードさんが実はエンドン国王だった。ということは──」
「本物のジャードって奴が、どっかにいるってわけか」
 リーフとジャスミンは冷汗をかいていた。とてもではないが、身動きが取れない。他ならぬそのジャードが直ぐ近くで、物憂げに、余り進まぬ食事をつついているなどと。
 しかし、ジャード──ジョーカーはどうするつもりなのだろう。隠していても、何れは知られることだろうが、今この場で、実は、と切り出すのも憚られる。
 その間にも、七部族は話を進めている。
「よぉ。ジャードってのは、どんな奴だった」
「どんな…。一言でいえば、悪ガキじゃ」
「悪ガキ?」
 凡そ、今のジョーカーとは結び付かない表現だ。
「手がつけられんくらいに腕白でな。はしっこく身軽で、あちこち走り回るわ飛び回るわで、捕まえられやしなかった。エンドン様は付いていけなくてな。捕まるのはいつもエンドン様だけじゃった」
「オイオイ;;;」
 皆が苦笑したのは想像に難くなかったからか?
「じゃが、隙を突いて、必ずジャードは助けに来たよ。友だち思いの好い子じゃったよ」
「友だち思い」
「といっても、エンドン様にはジャードしか友だちを作れんかったからな。掟でな」
 考えてみれば、その掟も、王に必要以上の味方を作らないようにするのが明らかな狙いと思える。
「エンドン様は必死にジャードの後を追っかけておられた。ジャードはそれを待っておったよ。先に行っても、立ち止まって、後ろを振り向いて……」
 懐かしそうに語る老人に、皆の意識は向いている。その隙に、ジャスミンはジョーカーの様子を窺った。何を考えているのか、彼も食事の手は疾うに止めていた。

「ですが、ジャードさんは城から逃げることになった。城内では、どのように伝えられていたのですか」
「馬鹿げた話じゃ。あれはエンドン様の即位式の翌朝じゃった。ジャードがエンドン様を襲って、失敗した上に逃亡したと──誰も信じんかったがね」
「誰も?」
「当たり前じゃ! 天地が引っくり返ったって、そんなことがあるもんか。大体、見たのが主席顧問官だけというだけでも、怪しいもんじゃ。あのプランディンはジャードを煙たがっとったからな」
「どうしてです。まだ子供だったのでしょう」
「子供でも、エンドン様が誰より信頼する相手じゃったからの。王になられた暁にはジャードも側近として、取り立てられるのも間違いなかった。勉強嫌いじゃったが、要領はよくて、十分に聡かったよ。ジャードは」
 それまでは王子の親友というだけで、無位無官でも、正式に官位や役職を得れば、発言力も持つことになる。
「なるほど、王を補佐する顧問官には目障りな奴ってことだな」
「じゃが、プランディンの遣りようを苦々しく思っている者も少なくはなかった。じゃから、エンドン様の即位には皆、期待もかけておった。同時に、ジャードが任官するのをな」
 料理人に過ぎない老人は、そこまで考えていたとは思えない。だが、城内にそういう声が大きく多かったことは知っていたのだろう。大きく嘆息する。
「もし、そうなっていれば、ジャードがエンドン様に、ずっと付いていてくれれば、その後の国の行末も変わったかもしれん。いや、きっと変わったじゃろう」
 多くの者から期待を受けていた少年は、だが、卑劣な讒言《ざんげん》によって、身一つでの逃亡を余儀なくされたのだ。
 それでも、ジャードはデル城の近くに留まり続け、友たる王を信じ、時を待った。
 その時の到来──『影の王国』の侵攻の始まりと王国の崩壊……。再会とともに、国王夫妻は城を脱出し、その再会は長い別れへの序曲ともなった。
 国王夫妻は親友の名を名乗り、鍛冶屋夫妻として、デルの町に留まり、真実の世継ぎを生み、育んだ。
 一方、ジャードは妻とともに、親友に全てを譲り、身代りとして何処かへと旅立った。当初はトーラに向かったはずだが、拒まれたため、その後の行方は知れない。
 今、何処でどうしているのだろか。そも、生きているのだろうか? としたら、王国が解放されたことを知っただろうか。

「クッ…」
 しんみりとした雰囲気が漂う中、その低い笑いは大きく響いた。夫々の感慨に浸っていた皆の視線が集まる。
 他の者とは全く異なる雰囲気を持つ男へと。
「何だよ、ジョーカー。何がおかしい」
 グロックでさえ──案外、情に脆い男だ。ホロリときていたのに、水を注され、気分を損ねていた。
「いや、たった一人の人間がいたか、いないかというだけで、それほど劇的に物事が変わるとも思えなくてな」
「ジョーカー」
「馬鹿な、物知らずな子供が一人増えて、数年後は国王夫妻共々、城を追われるか、殺されるのがオチだっただろう」
 薄く笑う様は、皆には王やその親友を馬鹿にしているように見えるだろうか。案の定、老料理人が憤った。
「ジャードは馬鹿な奴じゃなかった! あいつは城の外へも目を向けていた。外に出ていきたがっとったんじゃ」
「だが、結局、逃げ出すまでは城にいたのだろう」
「それは掟が……エンドン様も止めておられたし。じゃが、ジャードが王の側近になっていれば、きっと、そんな掟も変えてくれたはずじゃ」
 そこまで、人々は期待していたのだろうか。考えてみれば、年端もいかない少年に期待するだけだったとも言えるが。
 そう考えたかのように、ジョーカーが鼻を鳴らした。
「それほど、王に対して影響力があったのなら、その親友とやらも輪をかけた馬鹿だな。自分の価値も知らず、勢いだけで物事を進めようとして、足元を掬われた愚か者だ」
「ジョーカー!」
 これ以上、聞いていられなくなり、リーフは思わず、立ち上がった。
 皆は──ジャスミン以外はジョーカーが今も王家に対し、含みを持ち、エンドン国王の親友をも快く思わないのだと考えているだろう。
 だが、ジョーカーが糾弾しているのは他ならぬ彼自身──ジョーカーがジャードその人なのだから。
 リーフはいい加減、全て明かしてしまった方が良いと思った。それでも、ジョーカーと目が合うと、それ以上は何も言えなくなってしまう。決めるのは彼自身なのだ。
「黙れっ! あんたにジャードの何が解るっ!?」
「……解るとも」
 誰よりも、よく……最後の呟きは殆ど聞き取れなかっただろう。

 ただ、リーフとジャスミンだけは、この人は何より自分自身を許せずにいるのだと悟った。
 世継ぎの成長を待つにしても、記憶を失い、時間を無駄にしたと考えているのかもしれない。けれど、考えようによれば、その時間もまた必要だったのかもしれない。
 時間を経て、成長した世継ぎ──つまり、リーフが旅に出て、失われた宝石を自ら取り戻し、七部族との絆をも結び直した。それも、より強固に。
 それにより、失われた王家への人々の信頼もまた復されたのだ。
 その過程で、レジスタンスとも関わるようになった──記憶のない、王家に厳しいリーダーとも最後には協力するようになったのは、まるで、運命の導きのように思えてならない。
 だが、そのリーダーたる男は椅子を鳴らし、立ち上がった。
「俺がいると、険悪にしかならんな。失礼する」
「ジョーカー……」
 声をかけられないようにするかに、早足で出て行こうとするが、彼は戸口で一度、足を止めた。振り返らずに、
「飯は美味かった。……変わっていないな。味は」
「何だって?」
 呼び止めようとしたが、ジョーカーは出て行ってしまった。
 後にはどうしようもない沈黙が下りた。
「……やはり、そうは変わらないものですね」
 密やかに嘆息するゼアンの言葉に、一同は頷いたが、リーフは複雑だった。
「ま、いつものこった。じいさん、あんま気にすんなよ。それより、これ、うめぇな。もう一皿くれ」
「お? おう。幾らでも食ってくれ」
「よく入るな。どういう胃袋してんのよ」
 呆れたようなグラ・ソンの言葉に、皆が笑う。幾らか場は和んだが、リーフとジャスミンだけは、唱和する気にはなれなかった。

《後篇》



 記念というわけではないけど、現在進行形でハマっている『デルトラクエスト』でした。入門はアニメ版だけど、今回は原作第一部終了直後の想像……。アニメ第一部最終幕は中々のオリジナル大活劇で、見応えはあったけど、それなりに突っ込みどころもあったなぁ^^;;; いや、ともかく実は原作では七部族の見せ場は殆どありゃせんかった。(でも、キャラのカラーはアニメ準拠で☆ どうしても、そっちが浮かぶ)
 エンドンとジャードの真実も、アニメはやけに説明的になってしまっていた。まぁ、アニメ表現としては仕方がないし、あれはあれで、過去話の再現は好きだけど☆ できれば、真実版の少年時代をちゃんと見てみたいな。(多分もう無理だけど)
 全然、筋が解らないかもしれないけど、これで少しでも興味を持って貰えたら、いいなぁ♪ という思いです。DVD順次絶賛発売中★

2008.02.14.

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