こんな出会いも(前篇)


 仕上がった原稿は担当さんの手に渡り、とりあえず、一息をつけるようになった。窓を開き、換気をすれば、実に爽やかな良い天気だ。これは部屋に籠もっているのは勿体ないというものだろう。
 締め切りが迫っていたので、ここ数日は缶詰に近かった。走るには体がついていけないかもしれないので、歩くのに留めることにする。代わりに、スケッチブック一式を揃えたバックを手に散歩に出た。

 ランニング・コースと同じ道を歩くと、スピードが違うからか、少しだけ景色も違って、見える気がした。
 そして、公園に着くと、空いているベンチに座り、辺りを眺める。まだ、お昼前ということもあり、子供連れが多い。子供たちは歓声を上げて、遊び回り、その母親は井戸端話しに興じている。
 真也はスケッチブックを広げ、そんな光景を真っ白な紙の上に写し取る。
 どれくらい、熱中していただろう。スケブの上に影が射した。次いで、「何やってるんだ」と尋ねられた。
 顔を上げると、二十歳ほどの若者が立っている。後ろには十は年上に見える二人組が――ただ、三人とも、青い作業着という同じ格好をしていた。そういえばと、清掃員がいたのを思い出す。
 妙に親しげな口調に思え、左右を見たが、無論、このベンチには真也一人しか座っていない。真也に話しかけているのは間違いなさそうだが、とするなら、誰に対してもオープンな性格なのかもしれない。
 そんなことを考えていたら、若者はスケブを覗き込んだ。
「へぇ〜。巧いもんだなぁ。絵、好きなのか」
「え? それはまぁ……」
 一応、それを生業にしているのだし、嫌いでは話にならない。もっとも、覆面漫画家としては余り詳しい説明もできないが。
「俺も結構、得意なんだぜ」
「そういや、キング。アート・キングって呼ばれてたこともあったとか、言ってたよね」
「へへっ、まぁな♪」
「キング殿は、何でも、そつなく熟されるのでござるな」
 キング…、とは若者の渾名みたいなもんだろうか。しかし、年長組の一人の「ござる」発言とは……侍マニアとか? 実に真面目そうに見えるけど。

「ところで、昼飯まだか?」
「はぁ、まぁ」
 余りにも自然に、当然のように尋ねられるので、つい答えてしまったが、
「俺たちも飯食いに戻るんだけど、たまには一緒に食わないか」
「…………は?」
 その言葉で、どうやら人違いをしているのだと気付いた。それを言おうとしたが、
「あれ? でも、スピリットって、ご飯食べるの?」
「さて、どうなのでござろう」
 スピリット? 精神がどうしたのだろう。疑問に意識を囚われている間に、腕を取られてしまった。
「どっちでもいいじゃん。それより、飯食う席を一緒にする方が重要なんだよ。な、行こうぜ、鉄砕」
 「てっさい」……が、人違いの相手だろうが。それはともかくで、間違いを訂正する間もない。取られた腕を引かれたので、バランスを崩し、傍らに置いていたペンケースを落としてしまう。バラバラと鉛筆が飛び出した。
「あ、悪ィ」
「いや、別にそんな……」
 拾い集めてくれるので、自分も腰を屈めた。長めの髪が落ちるのに、若者は何故か笑って、手を伸ばしてきた。本当に、人との距離感が妙に近いようだ。しかも、結構、端正な顔が無造作に寄ってくるのに、我知らず、体が硬直する。
「今回も、前とは違う格好だな。感じが全然、違うから、最初は気付かなかったぜ」
 そりゃ、違うのは別人だからなんだけど──にしても、その「てっさい」という人は毎回、違う格好をしてくるんだろうか。
「何本か芯が折れちゃったな。ナイフとか持ってるのか」
「今は、ないけど」
「じゃあ、スピリットベースに戻ったら、削ってやるよ」
 スピリット…、何? 目を丸くするだけの真也を若者は立たせた。
「んじゃ、行こっか」
「いや、あの。ちょっと、待って……」
 だが、肩を抱かれて、有無を言わさぬ勢いで、公園の外へと連れ出されてしまった。


☆       ★       ☆       ★       ☆


 本日の、『まるふく』の御仕事は公園の清掃なり。何でも屋というだけあって、色々な仕事が舞い込んでくる。以前は基本、ノブハルと優子の二人と人手が限られていたので、臨時雇いの人間が必要だったりしたが、最近では戦隊の仲間が手伝うことが殆どだった。
 大抵は元気があり余っているダイゴと、ノブハルにも匹敵するパワーファイターでもある空蝉丸が加わっている。彼らは何でも屋にとっても、大戦力だった。
 この日の公園清掃も、この三人が取り組んだ。見る間に仕事を進めていく三人組は、すっかり近隣でも知られるようになり、お陰で仕事の声がかかるようにもなっていくのだ。
 一日の内に、幾つかの公園を回らなければならないのだが、この日は天気の心配をする必要もなく、順調に熟していた。
 次に移ろうかという段になった頃、丁度、昼時になっていた。
「キリが良いから、ここらで、お昼にする?」
 まるふく号に、ゴミ袋と掃除道具を運びながら、雇い主なノブハルが二人を見る。
「そーだなぁ。次の公園まで、どのくらいだ」
「小さいけど、歩いても五分くらいかな。ただ、スピリットベースに行くなら、ここの方が入り口は近いからさ」
「まるふく号は置いておいても大丈夫なのでござるか?」
「今日に限ってはね。許可は取ってあるよ」
「んじゃ、ちゃっちゃと食ってくっか」
 パンパンと手を叩きながら、ダイゴが話を纏めた。
 公園を突っ切り、別の出入り口に向かうが、途中でダイゴが「あっ」と声を上げ、足を止めた。
「ど、どうしたの。キング」
「何か見つけたのでござるか」
「あれ、ほら!」
 それだけでは何が何だか、さっぱり解らないような言葉だけを返し、ダイゴは指差した方へと走っていった。
 そちらには幾つかのベンチがあり、のんびりと座る者あり、昼食を取る者あり――そして、ダイゴが足を止めたベンチでは、スケッチブックを開き、写生をしているらしい青年がいた。
「何やってんだ」
 ダイゴの問いに、顔を上げた青年を見て、追ってきた二人も納得した。
「鉄砕殿、でござるか」
「だよね。話には聞いてたけど、また姿が違うんだね」
 しかも、御丁寧にスケブ装備で、デッサン中などとは、芸が細かいとしか言いようがない。そのスケブを覗き込んだダイゴも「巧いもんだなぁ」と感心しきりだ。
「俺も結構、得意なんだぜ」
「そういや、キング。アート・キングって呼ばれてたこともあったとか、言ってたよね」
「へへっ、まぁな♪」
「キング殿は、何でも、そつなく熟されるのでござるな」
 しかし、鉄砕は何故か、驚いたようにこちらを見返している。その表情が余りに真に迫っていたので、ノブハルは僅かに引っかかりを覚えた。
 しかし、ダイゴは気にした様子もなく、彼を昼に誘うのだ。スピリットが食事をするのかとは疑問だが、ダイゴにとってはそういうことは些細な問題でしかないようだ。
 普段、ともに行動することの少ない魂の先達と一緒にいられるのなら、優先されるべきは決まっているのかもしれない。

 だが、話をする内に、ペンケースを落としてしまい、二人で、散らばった鉛筆などを拾い集めている。間近に相手の顔が見えて、ダイゴは鉄砕の髪を払うようにした。
 手が顔に触れるか触れないかのように伸ばされ、鉄砕が固まったのに、さすがにノブハルは首を傾げた。
「今回も、前とは違う格好だな。感じが全然、違うから、最初は気付かなかったぜ」
 などと、ダイゴも言っているが、余りにも印象が違いすぎないだろうか?
 しかし、ダイゴは本当に気にした様子もなく、鉛筆の芯が折れたので、スピリットベースに戻ったら、削ってやる、などと笑うのだ。
 そして、戸惑いがちに見える鉄砕の肩に手を回し、強引に連れていこうとする。
「いや、あの。ちょっと、待って……」
 勿論、思わぬ同行者ができたお陰か、御機嫌な様子のダイゴは、ちっとも聞いていなかった。
「……ノッさん殿。大丈夫でござろうか。何やら、鉄砕殿の御様子が奇妙に思えるのでござるが」
「うーん、そぉだねぇ。まぁ、様子を見るしかないかなぁ」
 何というか、人との距離が近いダイゴだが、特に年長者に対しては無条件に発揮されている感があるのに、ノブハルは気付いていた。
 多分に、偽イアンに「ファザコン」と指摘され、当人も断言したように「親父が大好きだから」の影響だと思われる。
 とはいえ、一回りくらいしか違わないのに、父親と同列に扱われるのには、何とも言えない気分になるノブハルだったが。
 その点、鉄砕は何せ、遙か過去の生まれの人物だ。スピリットであるからこそか、ダイゴの年上大好きモードが存分に発揮されるのも仕方がない。

 ともかく、四人は近くの入り口に立ち――スピリットベースへと、消えていったのだ。

中篇



 というわけでの、IFストーリィです。『こういう出会い方』もあったりして^^ てな感じで、進めてました☆ 投稿日はファイナルブレイブから三か月──すっかり、記念日扱いです☆

2016.05.11.
(Pixiv投稿:2014.05.09.)

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