こんな出会いも(中篇)


 ――何、此処……

 イメージとしては南国風? 日本には珍しい石造りの部屋で、真ん中には石のテーブルまであったりする。そのテーブルの上に、三人の内の二人が本物なのかどうか、銃のようなものを無造作に置いた。見回せば、何気に泉が湧いていたり、柱には獣だかの? 彫像が乗っていたり――何の部屋なんだろう。
 そもそも、どうやって、此処に来たのか。確か、人気の少ない街路に連れてこられ、マンホールの上に立った、次の瞬間にはこの奇妙な空間に入り込んでいたような……。
 それとも、夢? 白昼夢って奴?? 確かに徹夜続きだったけど、そこまで、追い込まれてはいないと思っていたんだけどなぁ。
 ……などと、あれやこれや悩んでみて、夢ならばと頬を抓ってみても、醒めることはない。ただ、痛いだけだった。痛いのなら、夢じゃないってことなのか?
 なら、この人たちは何者なんだろうか。真也を「てっさい」と人違いしているが、若者の勢いに負けて、打ち明けられないままだ。
「あ、あの……」
「とりあえず、座っててくれ。ちゃちゃっと飯作るからさ」
「いや、だから――」
「でも、本トに御飯、食べたりするの?」
「え? そりゃ、もちろん」
 食べない人間なんて、いないだろうに、何故に、そんな質問をされるのかも不可思議だ。それとも、その「てっさい」とは極端に食の細い人なんだろうか。
 迷っている間に、若者たちは奥に引っ込んでしまった。

 困惑するよりない。改めて、部屋を見回す。落ち着いてみると、興味深い部屋でもある。スケブに写しておきたくなり、ペンケースを確認したが、粗方の鉛筆が折れてしまっている。
「あー。良かったら、削ろうか。鉛筆削りはさすがにないけど、ナイフなら、あるよ」
 先にお茶を淹れてきた最年長らしき男が気さくに声をかけてきた。
「あ、いや。貸してもらえたら、自分で削るので」
 ノッさんとか呼ばれていた男が直ぐにナイフを持ってきてくれたので、真也は手早く削り始めたが、自分は一体、何をやってるんだろうと、思わないでもない。早く人違いだと明かすべきだろうに……。
「あ、お茶もどうぞ」
「有難うございます」
 ペコンと頭を下げると、彼は不思議そうに見つめてきた、無論、居心地が悪いことこの上ない。
 「何か」と尋ねると、「いやいや、何でも」とブンブン手を振った。何とも、お互いに言いたいことも言えないような感じが残っていた。
「今少しかかる故、繋ぎに如何でござるか」
 「ござる」青年が団子を持ってきた。食事前に、お団子? と相手を見返すが、ニコニコと満面の笑顔なので、断りようもない。
「それ、ウッチーの手作りなんだよ。器用なんだよね。直ぐに色々と覚えちゃって」
「いやいや、まだまだ精進あるのみでござる」
 まぁ、お茶請けには丁度いいのかもしれない。一つ取って、口に放り込むと、素人の手作りとは思えないくらいに、美味しかった。

「お待たせー、キング・スペシャルだぜ」
 その正体はナポリタン・スパゲッティだった。スペシャルとは何なんだろうか。
「ナポリタンて、海外にはないんだよね」
「あぁ、俺も日本で初めて食った。何で、ナポリなのかは解らねぇけど、美味いから、俺も作りたくなったんだ」
「ところで、ナポリとは何でござるか」
「それはイタリアの──」
 何やら学習中の「ござる」青年──ウッチーだったか。改めて見ると、どうにも妙な取り合わせだった。
 キングという若者はどうやら、海外生活の方が遥かに長いらしい。何処に行っても、生きていけそうな逞しいタイプだ。最年長のノッさんは『まるふく』という何でも屋の雇い主。とはいえ、彼らの間は実にフランクだ。もさっとした印象が強いが、根は確り者と見た。そして、「ござる」青年は器用だが、普通の人間が知っていることを何故か、知らない。だが、何でも吸収しようという姿勢が窺えた。
 確かに不思議な取り合わせだが、かといって、纏まりがないわけではなく、和らぎ、安定した空間を創り上げているのだ。その空気に触れているのは酷く心地よい。
「さぁ、遠慮しないで、食ってくれ」
「あ…、有難う。戴きます」
 どうしたものだろうか。しかし、この空気に触れられなくなるのは惜しい気もする。
「どうだ、美味いか」
 文句なく、美味しい。また、リクエストしたくなるようなものだ。
「大したもんだよね。いきなり、タイガーボーイの厨房に助っ人に入れるくらいだし」
 などと、賑やかな食卓だった。普段、一人で仕事をして、その合間に食事を取る。誰かと席を同じくする機会など、殆どないに等しい真也には得難くも思える時間に感じられた。

 本当に何故、彼らと食卓を囲んでいるのだろう。時間が経てば経つほど、実は人違いなのだという本当のことが言えなくなってしまう。
 食後の一服にお茶が出てきた。「どうも」と礼を言うと、またキング君が笑った。
「にしても、鉄砕。演技賞もんだよな。でも、もう良いじゃん。いつもの調子で、ガンガン言ってくれよ」
「あ、いや……。そのことなんだけど――」
 やっと言える、と思った瞬間、彼の懐から呼び出し音が響いた。あんなにも柔らかかった場の空気が一気に張り詰めたものになる。
「どうした、イアン」
『デーボスだ! 直ぐに来てくれ』
「解った。アミィとソウジは」
『もう来てる。ちょっと、数が多すぎ――うわっと』
「おい、大丈夫か」
『もちろんだ。でも、町に被害が出かねない。早く頼むぞ』
 余り見かけないタイプのスマフォからの声に、さっきまではのんびりとしていた三人の雰囲気が更に変わる。大体、デーボスって、最近、やたらと出現する怪物じゃないか。……あんな怪物が存在すること自体、悪夢のようだけど、現に被害が出ているのだから、疑っても仕方がない。
 それはともかく、その怪物たちが出たからって、何故、彼らが飛び出していかんばかりに……。
 三人は奥の色鮮やかなボックスから何かを取ると、二人が例の銃?を掴んだのだ。
 そして……、
「鉄砕、あんたも一緒に頼むぜ」
「え…? あ、いや、だから、僕は――」
 けど、彼らは聞き耳持たずてな感じで、後ろにレリーフのある台に飛び乗った。……気付かない振りをしてたけど、あのレリーフも見覚えがあるってゆーか。
 彼らが怪物の出現に飛び出していこうとしている理由は……。
 少し考えに気を取られたのがマズかった。台に乗った三人は銃を足下に向け、引き金を引いた――光が弾け、次の瞬間には、
「きっ、消えっ……!?」
 綺麗に三人は――それこそ、文字通り影も形もなく、消えていた。


☆       ★       ☆       ★       ☆


 珍しい客人――もとい、“強き竜の者”大先輩を連れ、スピリットベースに入った何でも屋一同。
「にしても、キング。よく鉄砕がいるって、気付いたね」
 手早く、お茶の用意をしながら、ノブハルが尋ねる。
「いやぁ、最初は見過ごすとこだったけどな。けど、前のヒッピーな釣り人さんに比べれば、まともだよな」
「あの釣り人扮装の鉄砕殿には拙者も助けていただいたが……如何に反応すべきか、実は状況も忘れて、戸惑ったでござる」
「実は坊主頭までがカツラとかって、意味不明なんですけど」
「まぁ、そこは好きにさせときゃいいさ」
 その内、突然、通常モードになるだろうとダイゴは言うが、ノブハルにはどうも釈然としないものが残る。
 しかし、二人はそれほど気にしてはいないようだ。
「ところで、キング殿。昼餉は何を作るのでござるか」
 慣れた手つきで、ダイゴは必要なものを出している。
「ちゃちゃっとナポリタンでもな」
「おぉ、とまとけちゃっぷを使う麺でござるな」
「パスタだよ、ウッチー。スパゲッティな。覚えとけよ」
「なるほど、南蛮の麺はパスタと申されるのか」
「色んな種類があるんだぜ。順に色々、使った料理を作ってやるからな」
「それは楽しみでござるな」
 微笑ましい会話を聞きながら、ノブハルはお茶を運んでいった。

 鉄砕はペンケースの鉛筆を並べ、芯を確認していた。公園で落として、折れてしまったのだろう。
 スピリットベースに入っても、鉄砕の態度は変わらない。未だに、演技?を続けたままだ。本当にダイゴから聞いていた通りだが、余りにも雰囲気が違いすぎるので、やはり、戸惑いを覚える。
「あー。良かったら、削ろうか。鉛筆削りはさすがにないけど、ナイフなら、あるよ」
 窺うように尋ねると、向こうも幾らか驚いたように見返してた。
「あ、いや。貸してもらえたら、自分で削るので」
 ナイフを持ってきて、渡すと、彼は手早く削り始めた。
「あ、お茶もどうぞ」
「有難うございます」
 チョコンと頭を下げる仕草が何とも、年相応にも思えない。
 もっとも、スピリットレンジャーの年はどう勘定するべきなのだろう。生まれた時代から数えるのか、享年とするべきなのか。何れにしても、これが本当に演技なのだとしたら――スピリットレンジャー恐るべし、というものか。
 ついつい、見つめてしまっていたら、当然、「何か」と尋ねられる。それでも、演技は続けたまま?だったりする。反射的に「何でも」とか答えてしまった。そんなんじゃなく、ストレートに聞いた方が良かったかもしれないと悔やんだが、後の祭りか。
 正体の解らぬ違和感を誤魔化そうと、彼の手元からスケブに目を移す。ダイゴが巧いもんだと、褒めていた。
 千五百年の刻を渡ってきたスピリットレンジャーならば、様々な特技を会得しているのかもしれないが、単純に、自分たちの知る戦士たらんとする“激突の勇者”にはそぐわないような気がするのだ。
「今少しかかる故、繋ぎに如何でござるか」
 空蝉丸が手作り団子を持ってきた。
 ちゃちゃっとつくるとか言っても、パスタを茹でるだけでも結構な時間がかかるものだ。もっとも、スピリットベースのシステムキッチンは、現代の“強き竜の者”が選ばれてから、どういう手段を用いてか、設置された。キングに言わせると、中々使い勝手もよく、時間節約できるそうだ。
 因みに、四百年前には煮炊き用の竈《かまど》があったそうな。勿論、貴重な証言者は時代を越えた侍だったりする。何れにしても、排気や換気がどうなっているのかが結構、気になるところだ^^;;;

 ともかく、それほど待たされない内に、ダイゴが「キング・スペシャル」なるナポリタンを運んできた。無論、抜群の味だった。
「大したもんだよね。いきなり、タイガーボーイの厨房に助っ人に入れるくらいだし」
「拙者、茹でた麺を焼くというものに仰天したでござる。しかも、この上もなく美味でござる」
「あー、小麦粉ならウドンはあったたんだよね。でも、焼うどんでも戦後生まれだから」
 この場合の『戦後』とは決して、『応仁の乱』などではない。つまり、空蝉丸が知るはずがないわけだ。
「とまとけちゃっぷなるものも、誠、素晴らしい。拙者もよく使うようになったでござる」
 そんなこんなで、いつもはいないメンバーを加えた昼食も、いつものように賑やかだった。彼が幾らか、面食らっているようなのがやはり、引っかかるが。

 食後の一服はノブハルが淹れる。最近では空蝉丸やダイゴも大分、上達してきた。特にダイゴは最初は、いきなり熱湯をぶち込んで、香りを台無しにしていたものだ。
 鉄砕に勧めると、律儀に礼を返し、湯呑みを手に取るのだ。
「にしても、鉄砕。演技賞もんだよな。でも、もう良いじゃん。いつもの調子で、ガンガン言ってくれよ」
「あ、いや……。そのことなんだけど――」
 彼が何かを言いかけた瞬間、ダイゴのモバックルがコールをする。まるで、急を要するのだと、叫ぶように聞こえたのは感じすぎではなかった。
 相手はイアンで、デーボス軍出現を知らせるものだった。短いやり取りでも、結構、切羽詰まっているらしいのは窺えた。
 顔を見合わせ、三人は直ぐに立ち上がる。ガブリボルバーを掴みながら、ダイゴは目を丸くしている?鉄砕にも当然のように呼びかける。
「鉄砕、あんたも一緒に頼むぜ」
「え…? あ、いや、だから、僕は――」
「敵の数が多いらしいから、こっちも一人でも多い方がいいんだ」
「て、敵って――君たち、やっぱり……」
 次の瞬間にはダイゴがガブリボルバーを転送台に向けて、撃ち放ったので、彼の言葉は次元の向こうに消されてしまった。

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 同じシチュを互いに別の視点から語ってるようなもんですが、実はかみ合ってない会話でも結構、続くもんで^^ 戦隊の中で、一番、常識人なノッさんだけは違和感を感じたりもするけど、決定的でもなく、他の二人に流されちゃうとか? そんな感じを狙ってみました。

 賞金稼ぎ団の面々もファミレス周辺に出没しているわけだから、やっぱり、コラボとか考えちゃいますねぇ☆

2016.05.12.
(Pixiv投稿:2014.05.20.)

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