受け継がれしもの
前篇 デーボスとの最後の戦いから数日、行方不明状態だった桐生ダイゴと獣電竜たちが戻ってきた。 反応のなかった獣電池が再び、輝きを取り戻したことで、スピリットが復活したらしいと、察しを付けた津古内真也は手が着かなかった仕事に見切りをつけ、家を飛び出した。 やはり、導くものがあるのだろうか。途中、福井優子と行き会った。それほど、知った間ではないが、最後の戦いを同じ場で、協力しながら、戦った仲間だという認識はお互いに強い。 遅れた“強き竜の者”の二人はやがて、海辺に辿り着き、地球への帰還を果たした獣電竜たちとダイゴの姿に狂喜する先輩“強き竜の者”たちを見出した。 「ダイゴさん、無事だったんだ。良かった」 「最初から、キング君のことは心配してなかったけどね、私は」 苦笑しながら、優子がキッパリと言う。 「でも…、本ト良かったわね、兄さん」 「兄さんのためなら、何でもする」と、戦士になる道を選んだ彼女はブレることがないようだ。勿論、一児の母でもあるというので、我が子の未来のためでもあったのだろうけど。 「アンキドンもお帰り。さてと、無事が判明《わか》ったんだから、仕事仕事っと」 さっさと踵《きびす》を返す優子に、真也は「会っていかないんですか」と慌てて、尋ねたが、 「兄さんが元気になれば、良いの。それに、どうせ、その内に会うでしょ。理香も一緒にね」 リカとは娘なんだろうな、とボンヤリ思いながら、闊達な母親をも見送った真也は改めて、歓喜に沸く“強き竜の者”たちとその“相棒”を身遣った。 「……本当に良かった。ブンパッキー」 しかし、真也もあの輪の中に入ろうとは思わなかった。最後の最後の戦いで、少しばかり、手伝ったくらいでしかない自分とでは仲間の絆とやらの重みも違うような気がしたのだ。 絆というのなら、ブンパッキーと、そして、真也をこの“道”に導いた先代との方が余程、関わりが深いだろうか。御先祖様だったらしいのだが、実のところ、それが真実なのかを確かめる術などない。 大体、千五百年以上も前の御先祖らしいので……途方もなさすぎて、「あぁ、そうなのか」とか、すんなり受け入れてしまった感も強い。 もっとも、そのすんなりが曲者なのかもしれないが。 チョットした縁でアミィ結月と知り合い、チョットした縁でキョウリュウジャーと関わり、チョットした縁で、そこには御先祖様もいた、と。 けれど、その御先祖様は最後の戦いの重要な作戦の要を果たすために、敵の地獄“大地の闇”とやらに行ってしまった。 魂の戦士《スピリットレンジャー》として戦い続け、最後の最後まで――“大地の闇”を崩壊させて、役目を終えた御先祖様たちはせめて、成仏できたんだろうか。 そんなことをツラツラと考えながら、真也も海辺を後にした。ブンパッキーの“声”が聞こえていたので、逆に気懸かりもなくなった。 お陰で、その後は仕事にも集中することができた。
真也がスピリットベースに初めて、入ったのは最終決戦後、ダイゴと獣電竜たちが地球に帰還した後だった。“戦騎”に入り込まれ、暴れてくれたので、随分と荒らされたそうだが、今はその名残もなく、元通りらしい。 今も、彼らキョウリュウジャーの拠点となっているのには勿論、理由がある。 最大の敵デーボスは倒したが、宇宙で爆散したものの、かなりの欠片が重力に引かれ、地上に降り注いだ。それもどうやら、“黄金の地”である日本に引かれるようだ。 デーボスの欠片とは、つまり、デーボス細胞というものらしく、意思があろうとなかろうと、条件さえ揃えば、再生してしまう。大方はゾーリ魔になるようで、今のところ、真也も再生ゾーリ魔としか遭遇していない。出現が“黄金の地”たる日本に限られているのは幸いだが、そうなれば、やはりキョウリュウグレーとして、その排除に努めるようにしている。 八番獣電池をチャージ・ボックスの所定の場所に置こうとして、暫し眺める。御先祖様だという鉄砕から譲られた獣電池……。 その使い手だと、ブンパッキーも認めてはくれたけど、本当に自分で良かったんだろうか、と考えたことは一度や二度ではない。 その度に、別れる時の、鉄砕の最後の言葉を思い起こすようにしている。
――お前がいつも描いてる漫画と変わらん…… ――皆を笑顔にするための戦いだ…… 戦いとか争いなどとは無縁な人間のはずだった。でも、それは他のキョウリュウジャーたちも同じかもしれない。まぁ、実は戦国時代から時を超えてきた剣士なんかもいたりするけど……。 そう、たとえば、彼女とか――実は実はお嬢様だという大学の後輩で、もう一人の自分である青柳ゆうの大ファンの――。 「Wao☆ 真也さん。来てたんですか」 「うわっと」 いきなり背後から話しかけられ、獣電池を落としそうになる。慌てて、両手に握り込み、振り向くと、目の前には今し方、連想していた華やかな女性がいた。 「ア、アミィさん。ビックリした」 「驚かしちゃいました? ゴメンナサイ。でも、ここで会うのって、初めてですよね。何しにいらしたんですか」 「何って……。もちろん、これをチャージしに」 ついつい苦笑してしまう。彼女にとって、キョウリュウグレーはやはり、鉄砕に違いない。考えてみれば、変身するようになったものの、キョウリュウピンクである彼女と一緒に戦ったことはないのだ。 改めて、獣電池をチャージ・ボックスに置くと、アミィは目を瞬かせた。 「まさか、真也さん。今もグレーとして活動しているんですか」 「そうですけど」 そこまで意外そうに聞かれるとは思っていなかった。 「でも、『らぶ・タッチ』のお仕事は」 「勿論、そちらもちゃんと続けていますよ。僕は今まで、一度も原稿を落としたことはありませんから」 「そ、それは知ってますけど――万一、怪我でもしたら! それこそ、連載が……」 ここは笑うべきだろうか。“強き竜の者”が敵の撃退よりも、少女コミック連載に穴をあけないかを心配しているとは。 第一、もっと手強い敵と戦った経験は真也にも一応あるのだ。もっとも、ほとんどダイゴの父親でもある先達《キョウリュウシルバー》に頼っていた感もあったが。 ★ ☆ ★ ☆ ★
「僕は…、そんなに頼りないですか?」 「え? あ、いえ、そんなことは」 しどろもどろになるところを見ると、やっぱり頼りないんだろうな、と思う。とはいえ、別に腹も立たない。多分、今のキョウリュウジャーの中では自分が一番、弱い。十分な戦歴を持つアミィには無論、同時に後継者に選ばれたシアンの優子にも敵わないに違いない。 先代の鉄砕が正しく強者だっただけに、軟弱に見えても仕方がないのだ。けれど、 「僕は確かに未熟ですけど、それでも、御先祖様は…、鉄砕さんは僕にこの獣電池を預けてくれたんです。ブンパッキーを託してくれた。ブンパッキーも僕でもいいと、認めてくれました。それには応えたいんです」 「真也さん……」 少しだけ、ホロリときたのだろうか。目が潤んでいる。自分の作品にも感動してくれるのだから、感受性も高いのだろう。 「解りました。でも、無理はしないでくださいね。一人じゃ危ないと思ったら、いつでも、私たちに連絡してくださいね。全速力で駆けつけますから」 「はい、当てにしてします。そうだ、アミィさん。『らぶ・タッチ』なんですけど、今度、映画になるんです」 「もっちろん、知ってます☆ 絶対、観に行きますね」 こちらが照れるほどのキラキラの笑顔で喜んでくれるのは面映ゆいが、やはり嬉しい。 「それで、近々、完成試写会イベントがあるんです。良かったら、御招待したいんですけど」 「Wao☆ 嬉しい♪ 本トに良いんですか」 「もちろんです。是非…。あ、他の皆さんも――さすがに来ないですかね」 成人男子及び少年には恋愛少女コミックの映画化作品はハードルが高いだろうか。 「一応、聞いてみます。弥生ちゃんとかは興味あるかもしれないし。キングは好奇心強いから、逆に来たがるかも」 如何にも、ありそうな気がする。顔を見合わせ、二人は一頻り笑った。
「実はそのイベントで、発表しようと考えていることがあるんです。……青柳ゆうは僕だって、男だってことを正式にファンに伝えようかと」 「え…、公表するんですか。大丈夫なんですか、その、イメージとか」 「確かに僕自身も気にしてきましたし、出版社もずっと、そういうイメージ戦略でやってきましたから……。公表したい意向を伝えたら、やっぱり、すぐには納得してくれませんでした」 アミィの表情が最初の驚きから、優しい笑顔に変わった。 「でも、最後は認めてくれたんですね」 「えぇ。発表したら、ファンの間でも色々と意見は出ると思います。男が少女漫画なんてって声も当然、あるでしょうね。でも……」 「認めてくれる人の方が断然、多いわ。だって、今まで真也さんが青柳先生として積み上げてきたものは目に見えて、残っているもの」 アミィは真也の手を取り、両手で握り締めてきた。 「私も、応援してます。きっと、大丈夫ですよ」 「あ、有り難うございます。それはそうと、アミィさん。オッキーさんのこと、何か知ってますか?」 「オッキーさん? ――あぁ、あのオッキーさん。私が青柳先生の代わりに会ったファンの子の」 少しばかり、目を泳がせるのは何故だろうか。そも、アミィと知り合う切っ掛けとなったファンの名前だったが。 「最近、ファン・レターが来なくて……。まぁ、飽きちゃったのかなとか思ったりもしたんですけど」 「そんなこと、絶対ないわっっ!!」 思いの外、強く反論され、真也の方が戸惑ってしまう。 「え、えぇ。そうですよね。あんなに熱心だったのに。だから、何かあったのかなって、あの住所のこと調べたら、今は家もないらしくて。やっぱり、何か……」 アミィが身代わり漫画家として、訪ねた時はあった家そのものがなくなっていたのだ。 アミィは何かを考えていたようだが、直ぐに全開の笑顔になった。 「大丈夫ですよ、真也さん。あのオッキーさんのことだもの。何か理由があって、ファン・レターも出せないのだとしても、絶対に、連載は読んでるわ。映画にも必ず来る。必ず、観に来ますよ」 思っていた以上の確信めいた請負に、真也は酷く安心できるような気がしてきた。 「僕も、そうだと信じることにします」 自分の描く作品で、人を喜ばせたい。喜んでほしい。笑顔になってもらいたい。 その気持ちだけは揺るがない。 同じ思いで、獣電池にもブレイブを籠めるのだ。 中篇
ファイナルな最終回後の話──ですが☆ 何でか、メインは激突の勇者だったりします。同じ人が演じているとは思えない二人の激突の勇者。奥深いですね〜★ 意外と長くなりそうなので、前篇です。 そも、今更のようにスーパー戦隊に戻ってきたのは『ボウケンジャー』のDVD観賞からでした。その後、TV放映が始まった『シンケンジャー』からは全部、追っかけています。 だもんで、予想外に『キョウリュウジャー』にハマった上に、出合君登場には驚きましたね。どっかで見た名前……って、“眩き冒険者”じゃんか!? 冒険者たちの中では明石《チーフ》と映士のコンビが一番のお気にだったのも思い出しましたよ。 しかも、後半に至っては子孫まで演って、おまけに二代目まで襲名して……美味しすぎるでしょう♪ 鉄砕と真也さんは当然、別人で背景も性格も全然、違うわけで、そういうものを書いていくのも中々、楽しいですね。 続きではもっとブレイブな真也さんに挑戦します☆
2015.04.07. (pixiv投稿:2012.02.26.)
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