微 熱


 誰にも見られていなくて良かった。私は心底から、胸を撫で下ろした。
 全く、一寸ハシャぎすぎてしまった。少し艦外《そと》に出たからといって──それも任務であったのに、解放感に浸りすぎたのかもしれない。反省しなければ。
 それにしても、彼も些か様子が変ではなかったか。大体、あの程度で引っくり返るとは──最近、鍛錬を怠っているのではないか?
 とはいえ、操舵士としての仕事がメインになっているので、その暇もないのだろうう。責めるのはさすがに酷か。
 それに咄嗟に、私をちゃんと受け止めてはくれた。私と大して変わらない背格好というのは男としては華奢な部類だと思うが、そんな外見を裏切るだけの能力の持ち主だ。護衛役が回されるのは決して、伊達ではない。
 どんなに細っこくても、腕にも胸にもそれなりに筋肉がついていて、確りしていたな……。

 うっかり、さっきの感触を思い出して──私は急に焦った。なっ、何を考えているのだっ! 私は!? 彼は長年の友人で、そんな事実《こと》は疾うに知っているはずだろうに。
 涼しい顔をしていても、影では鍛錬も欠かさない。そうだ。別に取り立てて、意識することではない!!

「バジルール中尉。何、百面相してるんです?」
「うわっ!?」
 予想していなかった突然の本人登場に情けないくらいの大声を上げてしまった。
 尤も、別の意味で驚いたのは彼も同じだったらしい。キョロキョロと周囲を見回し、人気がないのを確認すると、その上で声を潜め、
「どうしたんだ?」
「い、いや、別に──急に呼びかけられて、驚いただけだ」
「急って……」
 彼の反応から察するに、急でもなかったようだが、お互いにそれ以上、突っ込むのは避けた。この辺は長年の付き合いによる『阿吽の呼吸』? 大分、違うか……。
 と、とにかく、深入りを互いに回避したのは間違いない。何となく、ややこしいことになるような予感でもあったのかもしれない。
「それより“明けの砂漠”からの連絡はまだないのか」
「そのようです。焦っても仕方がないだろうと、艦長とフラガ少佐が──」
 などと、私達は『友人』から『上司と部下』へと、任務の話にと無理矢理戻っていく。それでも、これが私達の『日常』だ。

 だが、そっと頬に手をやると、何だか妙に熱を感じた。
 きっと砂漠の気候に慣れていないからだ……。
 少しだけでも、襟元を緩めたかったが、『みっともない格好をするな』と訓令している手前、それも憚られた。
 こういう時はつくづく、損な性分だと思うが、これも私だ。そうそう変えられるものではない。
 だが、
「それにしても、今日も暑いですね。早く、この砂漠を抜け出したいものです」
 そう言いつつも、僅かでも制服を着崩しもせずにいるのは見事だ。
「……負けるか」
「は? 何か言いましたか」
「何でもない! 艦橋に戻るぞ」
 歩き出した私を、彼は首を傾げて、追ってきた。
 こういう時、負けん気が出てしまうのも私だからこそ、だが、やはり損なのだろうか。

相対21『デザート』



 月改まりまして、相も変わらず、リハビリ&ノイナタ強化月刊続行?
 ノイマン視点の『デザート』に対してのナタル視点に挑戦? やっぱり甘々には程遠いなぁ。何故に、最後はライバル心を出すかね。それも女心???

2007.02.09.

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