デザート 「お前、甘いもの、好きだったろう」 「え? まぁ、人並には」 砂漠の『闇市』での『買出し』から帰ってきて、顔を合わせるなり、まだ珍しくもラフな私服姿の副長の開口一番の台詞に、俺は戸惑った。 「やる」 ポンと飛んできたものを反射的に受け取る。 「チョコボンボン?」 「ついでに手に入れた。疲れた時にでも食べるといい」 「……そりゃ、どうも。有り難う」 堅物副長の精一杯の気遣いといったところか。ずっと艦に籠もって、操縦系システムの調整やらに時間を費やしているのは任務だとしても、全く艦外《そと》に出られないクルーは少ない。 疲れている時か……早速、包みを開け、一つを口に放り込む。当たり前だが、ピリッとした甘さが口に広がる。 「でもさ、いいのかい?」 「何か、気に入らないのか」 「そうじゃなくて、これ、アルコール入りだぞ」 バジルールが面食らったように固まった。 「艦内へのアルコールの持ち込みは禁止じゃあ」 「た、食べるのは非直の時だけにしてくれ」 「と思ったら、いきなりの敵襲で、ブリッジに呼び戻されたら? 酒気帯び運転にならんかなぁ」 ここまでくると揶揄いすぎだろうか。つい顔がニヤニヤしてしまったので、バジルールも少しムッとしたようだ。揶揄われることなど、よしとしない。 「それは拙いな。解った。返せ」 「え? そんな」 「いーや。返して貰おうか。大事な操舵手殿を酒気帯び運転で、免停にさせるわけにはいかんからな」 「免停って……何の免許だよ」 「大型特殊戦艦だ。さぁ、返せ!」 馬鹿なことを言い合いながら、ジャレている。一寸した気晴らしのようなものか。誰か見ていたとしたら、さぞ、奇異なものに映るだろうな。 とか考えていると、少しだけ注意が疎かになった。 「返せ!」 意外と本気になったらしいバジルールが更に勢い込んで、手を伸ばしてきた。 「っと……」 踏み込まれた勢いが予想外に強く、俺はバランスを崩した。 バジルールにすれば、俺が倒れるとまでは思っていなかったに違いない。慌てて、勢いのままに下敷きにした俺の上から飛びのく。 「ス、スマン」 「……いや」 抱き留める格好になった俺も少しだけ自失した。 直ぐに離れてしまったが、その体の何と柔らかなことか……! “女性”としてのバジルールを一瞬だけ感じた。 「大丈夫か」 「あ? んー、まぁ」 俺の僅かな困惑など気付きもせずに、立ち上がるのに手を貸してくれる。握った掌もまた小さく柔らかで……。 頬に微かな火照りを覚えたが、チョコボンボンのせい……にするのは、さすがに無理だろうか。気付かれるほどに赤くなってはいないだろうか。 妙に照れ臭くなって、俺はもう一つパク付いた。 先刻よりも更に甘く感じたのも錯覚に違いない。
相対10『微熱』
ノイナタ強化月刊改めリハビリ月刊と化した年明けでした。 『デザート』⇒『甘いもの』⇒『チョコ(ただし大人向け)』つーわけで、今一『お題』から遠い気もしますがね。話も甘々には程遠い^^;;;
2007.01.31. |