メガネ


 コンコン…
 頃合を見て、上官の部屋をノックする。着替えにはそれほど、時間はかからないはずだ。
「少尉、着替えはお済みですか」
「入れ」
 許可が下されると同時にドアが開く。ロックが外れた形跡がなかったので、些か無用心だと呆れる。尤も、覗くような不届き者──いや、命知らずはいないとは思うが。
 とはいえ、そんなことは露ほどにも考えもしないのが彼女らしいという気もするが。
 とりあえず、開いたドアから窺うように入室する。
「そろそろ、お時間ですよ」
「解っている」
 背中を向ける彼女はいつもの軍服姿ではない。
 背後でドアが閉まる音を聞いた瞬間、思考も切り替わる。部下から、友人へと──……。
 徹底するのなら、二人だけでいる時も部下として対するべきなのかもしれない。以前はそう振る舞った時もあった。だが、むしろ、情に厳しい彼女の方がそれだけは余り歓迎していない様子だったので、改めた。
「何か、迷っているのか」
「というほどでもないが──」
 当然のように、ぞんざいになった俺の口調をやはり咎めもせず、当然のように答えたバジルールが振り向く。
 俺は一瞬、目を丸くした……と思う。
「いや、中々……似合うね」
「お世辞はいい」
 折角、褒めたのに、顔を微塵にも赤らめもしないで、スッパリ言うのには苦笑するよりない。

 俺達の間にあるのは友情と、それに類する親愛──そう彼女は信じ切っているだろう。
 俺としても、特に彼女を女性として意識してはいない。今はまだ……。
 しかし、何かの拍子で、そうならないとも言い切れない。
 例えば、軍服ではない私服の彼女とか、さっぱりとした普段の化粧よりは幾らか入念になされた玲瓏な面とか、口紅の色も少し違うし、目元も……。
 黙っていれば、誰もが振り返る美人なのに……。
〈自覚ないな。こりゃ〉
 それより、隠密行動に入ろうっていうのに、こんなに目立っては仕方がない。何より、この鮮烈な瞳の輝き──……。
〈凛々しいって表現が本トに似合う奴だよなぁ〉
 そこらの男より、よっぽど……。俺なぞ、多分、足元にも及ばない。一緒に歩いていても、記憶に残るのは彼女ばかりだろうな。
 ともかく、その瞳は彼女のオーラの全ての源だ。
「バジルール。サングラスはした方が」
「必要か? やはり」
「ん、何たって、隠密だからな。変装には不可欠」
 フム、と一言呟き、幾つか用意されている物から、一つを無造作に取った。絶対に何も考えずに取っているに違いない。鏡に向かい、耳元の髪を整え、こちらを振り向いた。
「どうだ?」
「…………」
 絶句。これ又、別の意味で目立つ。一変して、全っ然全くカタギに見えないのはどういうことだろうか。これで、俺とトノムラと二人の男を従えたら、立派にどっかの組の姐さんじゃないか。
「どうした。似合わんのか。ならば、他のに──」
「いや……、大して変わらないと思うよ。いいんじゃないかな」
 とりあえず、軍関係者には見えない……と思うし、何とか誤魔化せそうか。まぁ、軍人だって、カタギの商売とはいえないが。
 俺は腕時計を見た。
「それより、もう時間が」
「そうだな。トノムラは?」
「下で待っている」
 そーいや、あいつもグラサン掛けてたよなぁ。あの図体デカい奴が……やっぱ、カタギにゃ見えん。……俺も一応は持っているが、掛けるのは止めよう。

次章02『スーツ』



 新年一発目で、いきなり復活のノイナタ。リハビリがてらでもあります☆
 『種デス』のスペシャル・エディションが昨晩深夜に放映。まだ全部は見てないけど、メチャクチャ、ノイマンの台詞が少ない。あるだけマシ? って感じだしね。
 またぞろ『種ガン』の再々?放送をやっているので、何だかんだで、嘗ての二人を見たくなってしまうのが不思議です。それ以上に発展のしようもないのにね^^;
 今回の舞台?はヘリオポリスでの初登場直前、ということで。一応、初回から登場してたんだよねぇ。台詞らしい台詞もなかったけど;;;

2007.01.08.

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