『コラボレーション〜クリミナル・マインド with 星影(前篇)』 お礼SS No.75

 FBI行動分析課、通称BAU──通常はヴァージニア州クワンティコの本部に在るが、要請を受け、全米の各地へと飛ぶ。そして、今も彼らはニューヨーク支局へと赴いていた。
 大都市N.Y.の支局ともなれば、当然、規模も大きく人員も多い。それでも、全ての事件を解決できるわけではない。BAUの捜査協力は突破口を開く切っ掛けになれば、と考えられてのことだ。
 ところが、今回はBAUが協力してさえ、目に見えての進展がなかった。

「あぁ〜あ、何か、ピリッとしないな」
「情報が少なすぎるものね。……ホッチはどうするつもりかしら」
「さぁな。ま、少ないなりにプロファイリングするしかないかな。一つの指針にはなるだろう」
 話しながら、モーガンとプレンティスはチームが間借りしている会議室へと向かう。
「しかし、そのお前さんたちのリーダーは一寸、取っ付き難い感じだな。こう、ずっと眉根寄せてて、厳しい表情《かお》で」
 一緒にいたN.Y.支局の捜査官の言葉に、モーガンたちは何とも言い様のないような顔を見合わせた。彼らのリーダーとは先刻、名が挙がったホッチ──アーロン・ホッチナー捜査官だ。
「まぁ、いつも、ああじゃないんだけどな。仕事には厳しいから、仕事中は滅多に笑いもしないけど」
「オフになると、普通に笑いますよ。特に御家族と一緒だと」
「へぇ。あんまり想像できんけど」
「何かさ。寝てる時もビシッとスーツにネクタイで、決めてそうな雰囲気だけど?」
「言えてる!」
 余りにも言い得て妙な台詞に、捜査官たちは大受けした。BAUメンバーも、ついつい吹き出してしまったほどだ。
 そうして、彼らはその堅物リーダーの待つ会議室へと入っていった。

 ドアが開いた瞬間、明るく健康的な笑い声がモーガンたちの鼓膜を打った。BAUメンバーには聞き覚えのない声だ。
「誰なの?」
「あんなに大笑いして……。ホッチはいないのか。いたら、絶対に睨まれるぜ」
「いや、そうでもないみたいだよ」
 後ろに続いていたリードが指差す先には……デスクに腰掛けて笑う三十歳ほどの見知らぬ捜査官と、その前に座っているのは何と、噂のリーダー、ホッチナーだったのだ。そればかりか、笑う捜査官が何を言ったのか、彼も可笑しそうにクスクス笑っている。そう、信じ難いことに。
「ウ、ウソ。任務中なのに」
「マジかよ。凄いな、あいつ。何者?」
「ローじゃないか。何やってんだ」
 答えをくれたのは、当然ながら、この支局の捜査官だ。
「おぉ、お帰り。陣中見舞いにとでも思って」
「何か、差し入れでもあるのか?」
「いや、気持ちだけ」
「どこが陣中見舞いだよ」
 まるで、掛け合い漫才でもしているようだ。
 すると、ホッチナーがククッと笑みを漏らした。
「何か、可笑しいか?」
「いや、相変わらずだと思ってな」
「そっちも全然、変わってないじゃないか」
「つーか、ロー。ホッチナー捜査官と知り合いだったのか」
 意外さ丸出しで尋ねてくる。支局の連中は興味津々だ。勿論、BAUメンバーも日頃とは雰囲気の違うリーダーに、目を丸くしている。
「知り合いというか、研修生時代に一寸、一緒だったから」
「へぇ。ホッチにも研修生の頃があったんだぁ」
 ドクターとも呼ばれる若いリードがシミジミと呟き、周囲を笑わせた。「当たり前だろ!!」と。
「で、でも、それこそ、想像できないじゃないですかっ」
「うんうん、解かる解かる。ホラ、こいつはもう検事やら弁護士やらも勤めてきてただろう。だもんだから、その頃から貫禄十分で、指導教官役よりもよーぽど、それらしく見えたもんなぁ」
「止めろ」
「本トのことじゃないか。解からないことがあれば、教官に尋く前にホッチナーに聞けって、研修生の間では言われていたよ」
「だから、止めろって」
「あれ。ホッチ、ひょっとしなくても、照れてるのか」
「……煩いぞ」
 ボソリと呟いたところを見ると、本当に照れているらしかった。

 会議室に、普段は上がらないような笑いが広がった。





『コラボレーション〜クリミナル・マインド with 星影(中篇)』 お礼SS No.76 

「それはそうと、僕たちが入ってきた時は随分と楽しそうでしたが、何を話していたんですか」
「いや、彼が今、どんな案件を抱えているのかとな。そうしたら──」
「最近はX−FILEな事件ばかり、回ってくるって言ったんだよ」
 「あぁ、なるほど」と、相槌を打ったのはN.Y.支局の捜査員たちだ。一方のBAUメンバーたちは顔を見合わせ、首を捻る。もしかしなくても、『X−FILE』といえば……。
「やだな。あれはドラマですよ。そりゃ、人気はありましたけど、あんな不可思議事件がそうそう、起こるわけがないじゃありませんか」
 リードが早口で言うと、ローという捜査官がポンと肩を叩いた。
「あぁ、お若い天才ドクター君。君は物知りらしいけど、世の中には君の知らないことも結構、あったりするんだよ」
「…………」
 一寸、身を竦めたのは、何やら、妙な気配を感じたからなのか、どうなのか。
「何にせよ、ジャックのせいだよ。X−FILEな事件を扱うのが夢だなんて言ってっからさ。なぁ、BAU辞めて、こっちに来ないか」
 いきなりな爆弾発言に、皆が呆気に取られる。勿論、ホッチナーも──と思いきや、涼しい顔で応じている。
「で? お前さんとコンビを組むのか」
「いや! 組むのはジャックだ」
「ジャック? お前さんの相棒なんだろう」
「だからだよ。いいトシして、問題児もいいところでさ。しかし、BAUの揃いも揃ってる個性的なメンバーを──あぁ、失礼^^ とにかく、そのリーダーを張っているあんたなら、十分、あいつも御せるに違いない」
 何だか、エラい言われような気もするが、BAUメンバーも苦笑するよりない。
「お前、それって、自分が楽したいってことじゃねーの」
 N.Y.支局の者が一様に突っ込んだが、
「喧しいっ。何年も問題児を俺独りに押し付けとる、お前らにだけは言われたくないわっ」
「中々、苦労しているようだな。だが…、悪いが、BAUを出るつもりはない」
「……あっそ。あっさり言ってくれちゃって。ま、そう言うだろうと思ってたけど」
 肩を竦めてみせると、今度はホッチナーの方が意外なことを口にした。
「なら、お前さんがこちらに来るという手もあるが?」
「俺にプロファイラーになれって? 無理無理。それこそ、柄じゃないって」
 一笑に付し、座っていたデスクから下りた。
「邪魔したな。また、会議だろう? 進展ありそうな感じかな」
「……? 勘か。お前さん、そういうタイプじゃなかったんじゃないか」
 口を滑らせたところを突かれる。さすがに、この辺はプロファイラーの習い性だろうか。
「え? あぁ、まぁね。何か、環境に鍛えられてるってところかな。そんな気がしただけ」
 『X−FILE』な事件にばかり、関わっていることで、ということだろろうか。ホッチナーは一瞬だけ、同期を見返したが、彼について探っている時間などなかった。
 それをローも察している。
「じゃあ、皆。頑張れよ」
 ヒラヒラと手を振り、軽快な足取りで会議室を後にした。
 N.Y.支局の者たちは慣れているだろうが、BAUメンバーは面食らっている。
「何というか、不思議な人ですね。雰囲気というか、人柄?」
 シミジミと呟くリードに、支局の捜査官とホッチナーが苦笑した。
「確かに少し、変わったかな。相変わらずには違いないんだが……」
「X−FILEな事件のせいですか?」
「さぁな。……いや、彼のことはいい。我々がやるべきことは?」
「事件のプロファイリング」
「そうだ。まずは報告を聞こう」
 微かな笑みも消え、モーガンたちのよく知る、いつもの表情に、何となく彼らは安堵していた。





『コラボレーション〜クリミナル・マインド with 星影(後篇)』 お礼SS No.77

「以上だ。では、そういうことで、宜しく」
 リーダーの言葉に全員が立ち上がり、即座に行動に移ろうとするが、謹厳なリーダーが呼び止めた。
「あぁ、皆。一寸、待ってくれ」
 と、何やら、箱を前に置いた。皆が近寄ってくる。
「何です?」
「ロー捜査官からの差し入れだ。甘い物でも食べて、頭の血の巡りを良くしろ、だそうだ」
「何だ、あいつ。本トに陣中見舞いをしてくれたんだ」
「で、差し入れは何です?」
 箱の蓋が外されると──一応は色取り取りの、余り馴染みのない代物が収まっていた。モーガンがその一つ、白く丸っこいものを取った。粉を吹いていて、柔らかい。
「何だコレ」
 繁々と眺め回していると、天才ドクターが答えをくれた。
「大福ですね。食べたことありません?」
「見たこともねぇよ」
「それじゃ、記念すべき初めての体験《あじ》が味わえるわね。コレ、日本の和菓子よね。他にも緑とかピンクのもあるけど、これもダイフク?」
 物珍しそうに、プレンティスも一つを摘み、初めての割には何の躊躇いもなく、パクついた。
「うん、美味しい。でも、甘さもさっぱりしていて、しつこくないわね。紅茶くらいは欲しいけど」
「つーか、プレンティス。よく一気にいけるな」
「別にゲテモノってわけでもないし。ホラ、母が大使だったでしょ。くっ付いて、色んな国に行ってるから、あちこちの個性的な食べ物には慣れてるのよ」
「あぁ、緑のは草餅で、ピンクのは桜餅ですよ。僕も一つ」
「本ト、お前って、どうでもいいようなことまで、良く知ってるよな」
 本気で感心しながら、手の大福をモーガンも頬張る。
「ん、確かに甘いけど、中々イケるな。にしても、ロー捜査官だっけ? ああ見えて、東洋好きなのか。ホッチ?」
「さぁ、どうかな。もしかしたら、最近、東洋系の彼女と付き合っているのかもな」
 言いつつ、リーダーも一つを手に取った。

「それにしても、ジャックか」
「何です?」
「いや……」
「あ、ホッチ。名前で連想したんだろう。息子と同じ名前だもんな。彼の相棒みたいなにならないかって、心配なんだ」
「息子さん、ジャックなんですか?」
 支局の捜査員の問いに、ホッチナーは苦笑気味に頷いた。
「どうしたって、連想しちまうよな。赤ん坊の名前、決める時、大変だったろう」
「まぁな。結局、ありがちな名前で落ち着いた」
 連想するというのは、犯罪史に名を残すような凶悪犯を、ということだ。しかし、どんな名前でも、一人くらいは犯罪者がいるものだ。ならば、ありがちな名前なら──有名な犯罪者も多いかもしれないが、逆に著名な偉人もいるだろうし、普通の人間はもっと多い。
「あのぉ。そのジャックっていう、ロー捜査官のパートナーって、そんなに変わった人なんですか」
 ドクター・リードが何やら、興味を惹かれたらしい。
「まぁ、奇天烈な奴には違いないな。ローは良く頑張ってるよ」
「うん。ジャックの相棒は中々、長続きしなかったんだが、ローは随分と続いている」
 などと、N.Y.支局の捜査員たちも差し入れを一つ一つと持っていきながら、教えてくれた。
「そうそう。この間もペラム・ベイ・パークで、一騒動あったし」
「あ、知ってます。集団幻覚騒ぎでしょう。ロー捜査官たちが担当だったんですか。興味深いですね。後で、話を聞いてみたいな」
 興奮気味なリードの肩をモーガンが叩いた。
「じゃあ、早く、この事件を片付けて、時間を作らなくちゃな」
「では、皆。仕事に移ってくれ」

☆           ★            ☆

「おーい、リア。どこ行ってたんだよ」
 呼ぶなと言うのに、相変わらず「リア」と呼ぶ相棒が通路の向こうからやってきた。もう、文句を言うのも飽きた。
「BAUが来てるから、一寸、挨拶にな」
「プロファイラーに、知り合いでもいるのか」
「チームリーダーが研修生時代の同期だよ」
「フゥン。気をつけろよぉ」
「何を」
 思わせ振りなニヤニヤ笑いに、ローは顔を顰めた。奇天烈な奴だが、中々、鋭い奴でもある。
「決まってるだろう。プロファイリングされないように気をつけろってんだよ。あれやこれや、見抜かれたら、大変だろう」
「喧しいわっ。一番、心配なのは、あんたが口を滑らすんじゃないかってことだ」
「心外な物言いだな。俺の口は堅いぞぉ。何せ、当のお前さん自身、俺がお前さんの秘密を知ってるってこと、知らなかっただろうが」
 それを指摘されると、一言もない。ガシガシと髪を掻き乱すのは分の悪さを誤魔化すためだ。
「で、何か用か」
「あぁ、スキナーがお呼びだ」
「スキナー、言うな」
 『スキナー』とは彼の『X−FILE』のモルダー捜査官たちの直属の上司だ。いつの頃からか、ジャックは自分の上司をそう呼ぶようになった。勿論、陰では、だが。
「何でもいいから、急ぐぞ。遅れると、またドヤされる」
「ハイハイ」
 二人の捜査官は歩くスピードを少しだけ上げた。

続き長編



 『クリマイ』with『星影篇』 『星影』のローがN.Y.支局所属ということでのコラボ☆ 一度だけ、許して下さい〜☆ とか言っときながら、記念物長編が派生しました^^
 『X−FILE』だけじゃなく『クリマイ』もドラマだろ! とか突っ込まれそうですが、ま、それ言ったら、『星影』も創作だし;;;
 ホッチの息子がジャックなのは、スンバらしい偶然です♪ 『星影』書いた頃はまだ『クリマイ』見てないし^^ いや、ビックリですね〜★
 因みにホッチの初登場シーンは意外にもラフなシャツ姿で、奥さんと子供の名前を考えているシーンでした。いっつも、スーツにネクタイの如何にもFBIな男がね^^
 『寝てる時もスーツ着てそう』というのは『DVDシーズン1』の特典映像にあったそうです。……輝は見てないんだけど、結構、有名な話♪
 拍手&長編に、大御所ギデオンが出ていませんが……何か、扱いにくいキャラなもんでして^^;;; いや、見ている分には味のある人物なんスけどね。

2010.04.11.

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