集 い


「ミロにプレゼント、ですか」
「あぁ。何が良いと思う?」
 相談があると深刻そうな顔で言われ、何かと思えば、近く誕生日を迎えるミロへのプレゼント選びとは……。相談相手が相手なだけに、ムウは少しばかり脱力した。
 滅多に人に頼らないアイオリアだったばかりに、妙に構えてしまったらしい。ま、これも平和になった証ということか。
「誕生日プレゼントなら、聖域で用意して、贈ることになっているでしょう」
 月一黄金誕生会を狙っている者は上は白銀聖闘士や神官から、下は兵や女官に至るまで、数多い。混乱必至なので、個人プレゼント攻撃は残念ながら、禁止されているのはアイオリアも重々、承知のはずだ。
「だから、そんな大袈裟でなくて……。あいつには色々と世話になったから、こんな時くらいにと思ってな」
 「あぁ、なるほど」と合点する。暗黒とも称される彼の十三年。ミロは孤立せざるを得なかった幼馴染のために、随分と世話を焼いていたと聞いている。
 アイオリアにどれほど近付くなと言われても、邪険にされてさえも──ジャミールに籠もっていて、聖域に帰還したムウに対しても、あれこれと他の者との取り持ち役を務めたりもした。
 黄金聖闘士では最年少であるのに、世話好きな兄貴分のようなところがあった。至高の黄金聖闘士でありながら、陽気で気さくな人柄を慕う者も多い。当然、兵たちの間での人気も、頗《すこぶ》る宜しい。

「大袈裟にしたくないのなら、直ぐなくなる物がいいんじゃないですか。食べ物とか酒とか」
「まぁ、それも考えはしたが」
「何か問題でも?」
「いや、酒なんか渡したら、絶対に一緒に飲み明かそうとか言われそうで」
「──いいじゃないですか。その時は付き合ってあげれば。貴方は付き合いが悪いって、ミロにもアイオロスにも愚痴られましたよ。飲めないわけでもないくせに」
「……酒は嫌いだ」
「そんなお子様ですか」
 一つ溜息をついたムウはポンと手を打った。
「この際ですから、聖域主催のパーティとは別に、お祝い会でもしましょうか。私たちにミロの年が追いついたお祝い」
「え?」
「そうだ、それがいい。私も何か見繕って、持っていきますから、アイオリアは良いワインでも選んできなさい」
「いや、あの、ムウ?」
 トントン話に話が進むのに困惑するアイオリアの顔は中々の見物だ。
「アルデバランにも声をかけましょう。彼のお国の郷土料理は、こういうパーティには持って来いです。ギリシャ料理とは趣も違うから、ミロも喜ぶでしょう」
 こうなってくると、無駄な反論もできない。
「カミュはどうせ、ミロが呼ぶに決まっていますし……。後は」
「──私を呼ぶ気はないのかね?」
「ゲッ、シャカ!?」
「失敬な反応だな、アイオリア」
 いつの間に白羊宮に入ってきたのか、影のよ〜に背後から迫ってきた乙女座の黄金聖闘士に、アイオリアが仰け反る。さすがに?ムウの方は対シャカ耐性が強いのか、平然としたものだ。
「おや、シャカ。呼ばれたいのですか」
「呼ばれてやっても構わんぞ」
「内輪のミロの誕生パーティなんだが」
 思いっきし横柄な物言いに、アイオリアが付け加えるが、聞いているのかいないのか。
「で、私は何を持っていけばいい」
 おや、一応、聞いてはいたらしい。
「貴方に一品料理を期待しても始まりません。花でも用意して下さい」
 誕生日に花は付き物です、と言うのに頷いてはいるが、果たして、大丈夫だろうか。

「おい、シャカ。ちゃんとアテネで買ってこいよ」
「どうしてだね。処女宮の花園で摘んでくれば、構わんだろう」
 やっぱり……。二人の黄金聖闘士を夫々に脱力させたことにも気付かず、本気で不思議がっているのが如何にもシャカらしい。放っておいたら、沙羅双樹の花とか普通に持ってきそうだ;;;
「ワイン、買いに行くから、一緒に来い」
「ム…。君がそう言うのなら、まぁ、付き合ってやらんこともない」
 ガッシリと肩を掴まれ、シャカも逆らうことは止めたらしい。
「まぁ、余り大人数になっても、人が揃いませんからね。この辺りで内輪のお祝いをしてあげましょう」
 期せずして、上げたのが黄金聖闘士でも年少の同年メンバーになっていたのは偶然か、無意識の当然か。
 ともかく、いつも女神は勿論、仲間や聖域のために一生懸命な蠍座の末弟のために、皆が何かお返しをしてあげたいとは内心で思っていたのは確かだった。


☆        ★        ☆        ★        ☆


 黄金聖闘士が六人──全員が休みを取れることなど、あり得ない。夕刻以降、その日の執務を終えた彼らは天蠍宮を目指した。それに気付かぬ年上の同胞たちではないが、自然と年少者たちが集まっているのに、割り込むのも無粋かと見守っていた。
 尤も、約一名──本当に参加したくて仕方のない誰かさんはウズウズしていたが。
「あぁ〜あ。リアの奴。俺とだって、飲んだりしないくせに」
「お前だから、飲む気にならんのだろう」
 自業自得だと呟くサガを軽く睨んだアイオロスは日頃の行いも忘れ、バタッと机に突っ伏した。
「言い出しっぺはリアなんだってさ。それにムウが乗って……。俺の誕生日も今月だけど、アイオリア…、何か考えてくれてんのかなぁ」
「考えているさ。決まっているだろう」
 結構、本気で黄昏ていると、サガがポツリとまた呟いた。
「そうかなぁ。最近、どうも冷たいってゆーか。ハァ、昔はあんなに可愛かったのにTT」
「……アイオリアが、お前を忘れたことなど、十三年間、一日たりともなかった……。それは間違いない」
 少しばかり苦しげに──だが、サガもまた、その十三年から目を背けたりせず、真っ向から向き合おうとしているのだろう。でなければ、幾ら女神の許しを受けたからといえ、聖域中の人間が彼を受け入れられるはずもなかった。

 とりあえず、納得したらしいアイオロスは体を起こし、笑顔に戻った。
「ミロは昔っから、仲間思いで本当に良い子だったからな。今日はリアを貸してやろう」
「…………」
 レンタル料寄越せ★ とか言わんだけ、マシだろうか?
「どうだ、サガ。仕事も終わったし、たまには一杯──」
「いや、今夜は私の前の宮がガラ空きでは空けるわけにはいかん。というわけで、失礼する」
「だったら、双児宮で一杯──一緒に護ってやるぞ」
「飲みながら、守護ができるかっ。では、また明日」
 さっさと即行で帰るサガ──逃げたな。
「……俺って、そんなに悪い酒かなぁ」
 自覚のない英雄殿は少々、傷付いたように呟いた。



「ホラ、リア! もっと飲めよ」
「いや、飲んでるって」
「飲んでないっ! 俺の酒が飲めないってのかー」
「折角のリザーヴなんだから、もっと味わえよ;;;」
 天蠍宮は常にも増して、陽気な雰囲気に包まれていた。祝いの主役はミロのはずだが、余り関係はなかった。
 『あの日』以来、離れ離れになってしまった彼らがこうして、集まり、騒ぐ様子は本当に普通の青年たちと変わることなく──……。

「何だ、この花は。何故、料理に」
「それは食用菊というのです。食べられますよ。シャカが買ってきたんですがね」
「枯れてしまう花より、良いではないか」
 と言って、聞かなかったらしい。
「……ま、沙羅双樹の花より、マシだろうがな」
「美味いな、アルデバラン。いつでも、嫁にいけるぞ」
「ハッハッハッ。誰か貰ってくれるのか?」
 取り留めのない会話と、本国料理と異国情緒溢るる料理に舌鼓を打ち、時に相手を変えながら、愉しむ一時は平時にあってさえ、危険な任に就くこともある彼らにとっては珠玉の瞬間だった。
 明日からはまた、いつもの日常──世界の安寧のため、人知れず、命すら懸け、戦う女神の戦士たち……。明日の保障など、あるはずもない日々が待っている。
 それでも、またいつか、こんな瞬間を得るために、彼らは今を懸命に生きるのだろう。

前日譚・拍手篇



 やたっ☆ 明るい『蠍座誕』話だ♪ これは拍手の誕生日話を受けての物語でもあります。メインのはずのミロが脇役ってのが何とも、輝らしいですよねぇ^^
 拍手話が『切なすぎる』もので、いつか『明るく笑って、皆で』という希望的なお話をと。
 また、これはアンケートでの『読みたい話』の一つから、ポッと浮かんだものでもあります。ロクシ様の『ムウ、アルデバラン、アイオリア、シャカ、ミロ、カミュの飲み会』──飲み会そのものより、そこに至る過程話という感じでもありますが。やっぱり、外してる?

2008.11.15.

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