FALLING STAR 遁走曲・始末記

 爽やかな朝の到来。
「お早うございまーす、隊長。──何か、眠そうですね?」
 食堂で、イスを引きながら、珍しそうに言うマイクに、レイヤーは欠伸を噛みしめながら、
「まぁな。昨夜、レオンとちょっと──」
 ついつい口走りそうになるのを慌てて、言いさす。勿論、マイクが訝しがる。
「昨夜、レオンと──どうしたんです?」
「いや、別に」
 誤魔化すように、コーヒーを啜る。
 少しだけ、そんな隊長を見つめ、
「……何です。一体、レオンと何やってたんです? 俺を除者にして、あいつと二人っきりで」
「マイク。そんな、除者だなんて」
「いいんですよ、別に。俺は全然、気にしてませんから。隊長がレオンを副官のよーに当てにしてるのは知ってますし、俺の柄じゃありませんしね。でも、話してくれるくらいはいいじゃないですか。今後や作戦について、レオンと相談してたって聞いても、別にヘソを曲げたりはしませんよ」 
 どこがヘソを曲げていないというのだろう? レイヤーが口を挟む隙もなく、立て板に水の如く喋るマイクを止めたのは、パンッという小気味いい音だった。
「アラ、いい音」
「ってぇ〜★ いきなり、何すんだよ!」
 叩《はた》かれた頭を押さえて、マイクが抗議したのは当然だろう。コーヒー・カップを片手に避難させた上で、マイクを直撃させたトレイをテーブルに置き、アニタは澄ました顔で受け流す。
「うっさいわね。朝っぱらから、グチグチと煩いからよ。隊長、お早うございます」
「あ、あぁ…」
 慣れたとはいえ、さすがに呆気に取られたようで、大丈夫か? とマイクを見遣る。こちらは既に諦め顔だ。
「でも、隊長。本当に今後の重要案件があるのなら、私たちにも話して頂きたいですね」
「何だよ。アニタも気になってんじゃん」
「当たり前でしょ。部隊運用や作戦行動に必要なら、知るのは隊員の当然の権利よ」
 直線的で、遠回しに聞くのが苦手なアニタらしいが、それで叩かれたのではマイクが気の毒かもしれない。
 とはいえ、困ったのはレイヤーだ。レオンと一緒に──特に重要な相談とやらをしていたわけでは断じてない。どう誤魔化したものか……正直に話すのも少々、憚られるのもまた事実。
 口の堅い隊長に、さすがに二人が怪しみ始める。
「どうしたんです、隊長。話せないようなことなんですか?」
「いやぁ。そういうわけでは──」
「じゃあ、話して下さいよ」
「あぁ…、それは、その……」
 何とも隊長らしくないほどに曖昧だ。勿体つけているのでもない。単に、本当に言い難そうだというのも明らかだった。一体全体、何がそんなに言い難いのか──……。
 そこで、何やらハタッと思いついたらしいマイクが血相を変え、イスまで蹴り倒して、立ち上がった!?
「まっ、まさか、隊長! レオンの奴と────!!」

 ガッコンッ★

 思いっきり、先刻の比ではないほどに後頭部をド突かれ、テーブルに突っ伏すように倒れ込むマイク。数秒だが、確実に動きが止まっている。かなりのダメージだろう。
 目を剥いたのはレイヤーだ。
「ア、アニタ。何を──やり過ぎ……」
 だが、最早、隊長は眼中にないらしい二人。数秒、死んでいた一方もとりあえずは復活する。
「そーだぞ、お前っ! 何てことしやがる。この乱暴者!!」
「うっさいっての! あんたがどーしよーもないことを言い出そうとすっからよ!!」
 何故か、顔を真赤にして、怒るアニタに、無論、マイクが食ってかかる。
「俺が何を言おうとしたってんだよ!」
「んなこと、私の口から言えるわけないでしょ!!!」
 じゃなきゃ、殴ってまで止めないわよ! などと熱弁を振るう? 両者の間に火花が散り、何が何だか完全に理解の外で、置いてけ堀を食っている隊長約一名。
「だからって、口より先に手を出すのは止めろっての!」
「喧しいわよ。あんたこそ、考えナシに口走るのは止めなさいっての!!」
「んだとぉ〜、このお転婆娘がっ★ 嫁の貰い手ねーぞっっ」
「余計なお世話よっっっ」
 恥ずかしい。すっかり、食堂内の衆目を集めてしまっている。レイヤーはそろそろと離れていった。そこに穏やかな声がかけられる。
「朝から、また随分と騒がしいですね」
「レオン──」
「お早うございます、隊長。──眠そうですね」
「誰のせいだと思ってるんだ」
「ハハハ。私のせいですか?」
 穏やかに笑うレオンも少々、目が赤い。
「全く、今日は緊急出撃《スクランブル》がないことを祈るよ」
「同感ですね」
 とりあえず、コーヒーでも、と行きかけるレオンだが、
「あーっ、レオン! お前、いつの間にっ」
「やぁ、おは……」
 挨拶を交わそうともせず、マイクが詰め寄る。
「お前、隊長と昨夜、何やってたんだっ!?」
「はぁ? え、何って」
 回答は即、浮かぶが、目が泳ぐ。マイクはレオンの襟首を掴み上げんばかりの勢いだ。
「やっぱ、人には言えんよーなことしてたかっ」
「言えんよーな、というほどではないけど……できれば、君には話さない方がいいかなぁ、ということなら」
「何だ、そりゃー」
「じゃ、じゃあ。私になら話せる?」
 期待十分に口を挟むアニタに、レオンは隊長とアイ・コンタクト☆ 肩を竦めるレイヤー。
「ま、アニタになら……」
「えっ、じゃあじゃあ、教えて教えて♪」
「んだよ、そりゃ。何で、俺だけ──」
 喚くマイクをヨソに、レオンはアニタに何やら耳打ちする。
「クッ…ククッ。なーんだ、そーゆーこと。確かにマイクは除者かもね」
「お〜ま〜え〜ら〜TT」
 本気で、殆ど泣き出しそうなマイクには苦笑するよりない。『馬鹿野郎、皆、大嫌いだー』とか叫びながら、走っていってしまいそうな雰囲気だ。仕方がない。こんなことで、チーム・ワークが乱れ、崩れたりするのもバカらしい。……を通り越して、アホらしい。
「実は、昨日の例のゲームをやってみたんだよ」
「へ? ゲームって、あの落ちゲー?」
「そう。僕は隊長とは一戦もしなかっただろう。だから、その…、一度くらいは対戦してみようかって話になってさ」
「────ズッリィ」
「君とは散々、やっただろう。大画面で」
 それでも、マイクはとーっても不満そうだ。
「でも、寝不足気味になるまで、やってたんですか」
 共に目が少しだけ充血しているのに、アニタが不審そうに尋ねる。この二人の取り合わせにしては些か信じ難い話だ。
「あぁ、それはレオンがな」
「──隊長」
 微かに狼狽えているらしいレオンに構わず、意外そうに面白そうに、
「ストーリィ・モードも試してみたら、ツボにハマったらしくってね」
「ツボ?」
「光の精霊がいたろう。マイクが何回か、使っていた精霊」
「あぁ、あのキャピキャピ娘」
「どうやら、レオンの天敵らしくってな」
 目を丸くして、レオンを見遣ると、明後日の方を向いている。
「他の精霊に負けても、どうってことはないのに、光のあの精霊《こ》にだけはやたらと悔しそうでね。合わないって奴かな」
「へえ〜〜ぇ」
 それは間違いなく意外だ。
「オマケに全ステージ・クリアまで目指し始めて……まぁ、私は途中で、付き合うのは止めたがね」
 それでも、少し寝不足気味だ。
「で、クリアしたの?」
「……まぁ、一応は」
「へー、レオンがねぇ。そんなにのめり込むとは」
「何があっても冷静で動じないくせに、何でゲーム・キャラに反発するかね」
「煩いな。いいだろう、別に」
 これ又、らしくない発言というべきか。中々、お目にかかれないような仲間の一面に──それが何とゲーム絡みだというのもあって、マイクやアニタは妙に可笑しくて仕方がなかった。
「ねぇねぇ、レオン。ラス・ボスって何?」
「クリアしたら、どうなるんだ」
 ストーリィ・モードは途中までしか行かなかった二人が興味津々に尋ねるが、先刻、揶揄われたレオンはニッコリと微笑み、
「ヒミツだ。ゲームの醍醐味を奪っちゃ、悪いからな」
「えー、ケチねぇ」
「隊長、隊長は見てないんすか」
「いや、だから、私は寝落ちしたから」
「おい、レオン!」
「だから、自分でクリアするんだな」
「んなヒマないじゃんか。それなら、お前のパソコン寄越せよ。まだ、データ残ってんだろ」
「冗談。渡したら、いつ返ってくるか解らないじゃないか。その間、本が読めなくなるし……」
「少しくらい、我慢しろよ」
「昨日一日、十分に我慢したよ」
「お前だって、マジになってたくせに」
 軽く舌打ちするマイクに、レオンが明らかにムッとしたようだ。
「関係ないだろう」
 何やら雲行きが怪しい。昨日もそうだったが、大抵というか、殆どレオンが折れるというのに、今朝は引く構えが窺えない。
「珍しいこともありますね」
 全く同じことをアニタが──いや、誰でも思うだろう。
「そうだな」
「いいんですか。放っておいて」
「障らぬ神に何とやら、ってとこかな」
 普段が物静かで穏やかなだけに、怒らせると怖いかもしれない。とっとと退散するに限る。
 立ち上がるレイヤーに、だが、アニタは残った。
「コーヒーくらい、飲みたいですから」
 いざとなったら、二人ともシバキ倒すくらいするかもしれない。
「余り無茶してくれるなよ」
 マイクはともかく、レオンが大人しく殴られるとも思えないが、一応、釘は刺しておいた。

 爽やかな朝。また、新たな一日が始まる。
 穏やかに終わるか、過酷に過ぎるかは──まだ判らない。

今度こそ、おわし★

『FS遁走曲』



 バカ話第2弾☆ つーか、続きですな。世界観、完璧に無視してます。キャラだけ借りて──それも前回以上に元キャラの原形留めているのか、自信ありません。
 因みに光の精霊が天敵なのも輝自身です。アレで結構、強いのが反則。負けるとマジに腹立つんだよなぁ〜★
 前回同様、ラストにヴィッシュを持ってこようかとも思ったけど──断念。理由は推して知るべし、つーことで^^

2004.03.05.

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