蒼穹に希う《そらにこいねがう》

終 章

「何て、ことだ」
 レイヤー隊長の呻きに、部下たちも黙するばかりだ。
 各地を転戦してきた『ホワイト・ディンゴ』隊も今、ヒューエンデン攻略作戦に参加していた。戦場の露払い、航空隊が進撃するために対空陣地を潰すのが主任務だ。
 だが、その目標に到達する前に、撃墜機を発見したのだ。それも複数、地球連邦軍北部侵攻軍航空隊、爆撃隊の一隊らしかった。
「戦闘爆撃機フライマンタに、重爆撃機デプ・ロッグもあります。生存者は……」
 情報支援車輌『オアシス』からの報告を待つまでもなく、全滅なのは明らかだった。
「地上部隊を待たずに、単独で突破を試みたのですね」
「……らしいな」
「なんだって、そんな無謀な真似を」
 その無謀さとは恐らくはモビル・スーツ隊への対抗意識からの発想だったに違いなく、自身も航空機パイロットからの転進組であるレイヤー中尉はやりきれなくて、仕方がなかった。
 そんなもののために、一番大切なことを彼らは見落としていた。味方を意識する余りに、敵を無視していた。それは侮りと等しく、彼らはその報いを受けた。
 モビル・スーツ隊が発足してから、この種の顛末は初めてのことではない。
 だが、既に二ヶ月近くが経ち、終戦も間近だというのに何故、同じ過ちを繰り返すのか?
 それが酷く悔しく、悲しく、残念でならない。
「アニタ、記録しておいてくれ」
 自分たちが次の戦いを生き延びれば、司令部に報告する。部隊の特定もできるかもしれない。せめて、終焉の地を留めておきたい。
 自分自身を顧みても、むざと死ぬつもりはなくとも、戦場での生死は紙一重だ。最期くらいは誰かに見届けて貰いたいという意識の現れだろうか。
〈これも、感傷かな〉
 ふと視線を上げる。モニター越しでも青い空は確かに広がっている。
 かつて、自在に翔けたあの空の彼方から、災厄は文字通り、落ちてきた。
〈もう、一年になるのか〉
 生きることが、生きていることが苦しくて堪らなかった。後向きになり、そのくせ、過去に立ち向かえず、足踏みしている時間も長かったが、それでも、この一年を全く無駄には過ごさなかったのだろう。少しは冷静に、考えられるようになっていた。
 特にこの『ホワイト・ディンゴ』に関われたことが自分を変えたのだろう。新しい『仲間』たちを得たことが……。
 そして、一月ばかり前に再会した、あの頃の部下を思い出す。短い会話に、彼も同じように苦しんでいるのを悟った。
〈もう一度、ゆっくり話したいな〉
 たかだか一月──あの時はまだ余裕がなかったが、今は心から、そう思う。そう、願う。

 ……無論、レイヤー中尉は知らない。
 この時既に、フェリペ・ミラーノ中尉は戦死していた。
 この同じ日に、この同じ戦場で……。


 オーストラリアに於ける終戦はその二日後、ヒューエンデン陥落の1月3日となっている。
 だが、この大陸のみならず、地球各地で度々、上がる戦火は暫し、鎮まることはなかった。

《了》

(5)



 そして、終章でございます。全章上げるのに、かかった時間──忘れよう;;;
 投稿作品といっても、最初はその気がなかったのに、ちょいとした切っ掛けで、その気になったのが〆切20日前という凄まじさ。で、既成設定を使い回したので、こんな感じになったと。
 『主役が戦死』という話のヒントは外伝小説下巻での展開にあります。『とある爆撃隊が地上部隊よりも突出した結果、撃墜される』という……。是非! その辺はスニーカー文庫版を確認してミソ☆
 しかし、G物で初めて、シリーズ完結を見たとは……ヤバいね。

2005.03.21.

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